堂山監督
武本くんから最初に出て来たキャラクターデザインはもう少しデフォルメされた「日本昔話」寄りのものでした。育成という観点から考えると例えば骨格や表情など、しっかりと考えながら描ける頭身やデザインにした方がいい。お話を届ける相手も考えると、もう少し今のアニメ寄りにしたいと思い、このデザインに落ち着きました。
古久保P
今後、どんなキャラクターのタイトルが来たとしても対応できるようなアニメーターになってもらいたい、という観点もあります。
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――確かに今は頭身の高いものが主流と言えますね。作品自体はどういった視聴者を想定しているのでしょうか?
堂山監督
幅広く見ていただきたいなあと思っています。それこそ子どもからおじいちゃんまで家族みんなで見られるように。この作品は民話がベースになっているのでさまざまな資料に当たりましたが、長野県には民話がすごく多いんです。雪で閉ざされた中、家族が囲炉裏を囲んでおじいちゃんの話を聞く。それが代々語り継がれているからなんですね。そこにすごく興味を引かれたのですが、明治あたりで途切れてしまうんです。家族形態の変化や不思議が残るような土地の開発が影響を与えたのかなと思っていて。じゃあ今後、民話をどう伝えていくか。そこで、アニメこそ、それにふさわしい媒体なんじゃないかと考えるようになりました。
古久保P
ロケハンにも行って現地の祭りを取材しました。作中にあるお祭りは実際に今も続いているものなんですよ。
堂山監督
山脈が周りをぐるっと囲んでいてその中に広い平野があるという塩尻市のロケーションはすごくおもしろいんです。実際に行ってみて感じたのは、物語が生まれやすい空間だということです。
――そういった取材が作品に活かされているわけですね。育成という観点からもお話をうかがいたいのですが、本作には四つ足の動物が出てきたり、キャラクターの動きも豊富だったりと難易度の高そうな絵コンテだなと感じました。ここには何か思いがあるのでしょうか。
堂山監督
そうですね、動画で入って原画になり、今に至るという自分の実体験から話すと、原画になりたての頃は簡単なカットしかやらせてもらえないんです。で、ある日突然、難しいカットが振られ、全然できなくてやめてしまう。自分の同期も半分くらいやめてしまいました。
そんな環境なのに今、TVシリーズも劇場版も高カロリーなものばかりです。トレースするだけでも一時間以上かかったり、とにかく現場は非常に大変です。ですから今回のような育成の機会で最初からハードルを上げておいた方がいいと考えました。これだけの期間なら、高いハードルでもフォローができる、という体制を作って臨みました。
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――本来の現場はよりハードだから、そこに近い方がいい。
堂山監督
そうです。そもそも普通の新人が現場に入ってきたら5カットくらい描いてもらって、それ以上はやらないでもらおうという話になると思うんです。作品のクオリティーにも関わりますし描ける人に振った方が早い。でも今回は最後までやる。例え失敗しても、今回みたいに1回やり切っていれば自分の足りないものが見えてくる。パースが分かってなかったとか、作監さんの修正ですごく動くようになったとか。早い段階で実感しておけば、何年経っても見返す材料になります。狐の動き、車の描き方など、資料を作品として残しておくというのは大事です。ここを譲りたくなかったので、ハードルも上げておこうと考えました。
――特に難しいものはどういうものになるのでしょうか。
堂山監督
動物もそうですが、人間も、着物は難しいですし、キャラクターそれぞれの年齢感や個性、杖を突いて歩く人と元気に歩ける人など、どれもが難しかったと思います。もし普通のTVシリーズならうまい人にやってもらうカットしか入れてません。それで今回はみんなが悩んでしまったようで、こちらからもっと早く声がけをやってあげればよかったなという反省はありますけどね。
――若手アニメーターさんの成長というのは実感しましたか?
堂山監督
もちろんです。その中で成長の個人差というのはどうしてもありますが、全てはこれからだと思います。失敗したこと、勉強したことを次の仕事からどのくらい活かせるのか。材料はこの作品の中にたくさん残っているので、見返しながらどんどん取り入れていってほしいですね。まだみんな、ようやく第一歩目を踏み出したところだと思います。
――日本アニメーションさんは長い歴史を持っていますが、アニメーターの教育方法というのは確立されているのでしょうか。