「亜人」、アニメ映像の新たな挑戦と新時代 瀬下寛之総監督、守屋秀樹プロデューサーに訊く:前編 3ページ目 | アニメ!アニメ!

「亜人」、アニメ映像の新たな挑戦と新時代 瀬下寛之総監督、守屋秀樹プロデューサーに訊く:前編

「亜人 -衝動-」が2週間限定公開をスタートした。総監督・瀬下寛之氏とエグゼクティブプロデューサーの守屋秀樹氏、ポリゴン・ピクチュアズに所属するふたりに制作について伺った。

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■ 『シドニアの騎士』から『亜人』、その変化

―映像のルックやスタイルについて伺わせてください。『シドニアの騎士』を受け継ぎつつより独特のタッチです。これはどなたの考えだったのでしょうか。『シドニア』との違いは何ですか。

守屋
最初にテスト映像が出てきたときに、瀬下と相談をして、もうちょっと『シドニア』のルックや色合いに近づけてほしいというオーダーをだしました。そこでディレクター・オブ・フォトグラフィーという肩書きで『シドニア』の副監督の吉平(直弘)にも入ってもらって、どういうルックにするか協議を重ねました。

瀬下
ルックは『シドニア』のファンがパっと見で「これはシドニアかも」と類似に見られる状況を維持しながら、ただ、観劇が終わった時に、トータルでは『シドニア』とは違うという印象になるように設計しました。
『シドニア』との違いとしては、演出陣に方針を伝え、ドキュメンタリータッチの視点を多用しています。また『シドニア』であまり描かなかった、さりげない生活芝居を増やしています。
例えば部屋の角にある監視カメラのような視点。報道カメラマンがどこかに隠れ、遠くのほうを望遠でのぞき込むような視点。誰かがそれを記録している、のぞき見ているという視点ばかりにしているんです。作品のムードを『シドニア』よりもずっとシリアスに、日常に起こる非現実という状況のムードを高めるためです。


―マンガの絵がそのまま動いたみたいな印象を受けます。それはキャラクターアニメーションのフルCGとも、作画に近づけたセルルックとも違います。

瀬下
僕らが日本の伝統的なアニメのルックに近づこうとするほど出てくる違和感があります。手作業の修正、加筆で手描きアニメの雰囲気に近づけるべきか、「シドニア」初期段階ですごく悩んだ時期がありました。ただ、そこはサンジゲンさんやグラフィニカさんがやっておられて、既に優秀な作品が出ています。
独自性や個性を追求すること、CGスタジオらしい映像解釈にしようとふっきれて、結果としては、日本のマンガがそのまま色がついて動いていくような感覚を目指しています。傷のような汚れのようなタッチだったり、魅力ある様々なマチエールを自分たちの映像に盛り込んでいるのもその思想の一環です。

―今回はそれがアニメーションになって、しかも2次元ではなく3次元になって、かつマンガ的な味わいもあります。

瀬下
ただちょっとでも踏み外す、やり過ぎてしまうと違和感が溢れ出すんです。そのバランスを今も探し続けているところですね。

守屋
僕らはいつも「ポリゴン・ピクチュアズとして独自なものを」と思っているんです。ただ、新しさだけ追求して、市場性とのバランスを大きく踏み間違えると視聴者の方々に「僕らが見るものじゃない」と思われてしまう。新しいと感じていただきつつ、興味をもって物語の最後まで視聴いただけるさじ加減については、常に試行錯誤しています。これからもずっとするでしょうね。

瀬下
僕自身ずっとCGやVFXを作ってきて、独自のジャンルを形成しなければと意識は強いです。日本のマンガが動いていくという手法の追求をすることで、将来的にはアメリカのグラフィックノベルやヨーロッパのバンドデシネのようなものも動かしたいですね。

―確かにその部分では日本のセルルック以上に表現できるかもしれないですね。

瀬下
『シドニア』を始める前から5年後、10年後を意識しています。『亜人』では日常生活を描くという難易度の高いチャレンジができて、我々の手法の可能性が広がりました。独自ジャンルの確立という事を、引き続き意識していこうと思っています。個性がないと埋もれてしまいますから。

―以前にポリゴン・ピクチュアズはCGアニメーションではなくてデジタルアニメーションを目指しているというお話がりました。それは今でも同じなのですか。

守屋
そうですね。

―逆に言うと、その違いは何になるんでしょうか。

守屋
いわゆるCGアニメと、我々がやってきたものでは『クローン・ウォーズ』とか『トランスフォーマー プライム』。これらはフルCGなんですよ。背景も立体だし、キャラクターやルックも立体感を強調しています。

瀬下
そうですね。比較的フォトリアル方向なルックです。

守屋
ただ『シドニア』や『亜人』の背景は、立体で作っている部分もあれば手描きで作っている部分もあります。CGアニメというとフルCGアニメとユーザーに思われてしまいますので、「デジタルアニメーション」としています。

―それは差別化でもありますか?

守屋
はい、差別化しています。『シドニア』も『亜人』も、簡易な3Dモデルをベースに、パースをあわせた形で、日本の実績のある2Dスタッフに背景を描きこんでもらっているシーンが多いんです。この背景とセルルックCGキャラクターとあわせた表現は独特だと思います。大きな差別化になっていると思いますね。

瀬下
いわゆる3DCGアニメの工程に、場合によっては敢えて手描きでタッチを入れていくことも考えています。それはセルルックに似せるのではなく、グラフィックノベル的なマチエールを足していきたいのです。ですから、3DCGだけにこだわらないという意味で「デジタルアニメーション」というくくりかたを気に入っています。 

(後編に続く)

abesan劇場アニメ3部作 第1部『亜人 -衝動-』
11月27日(金)より TOHOシネマズ新宿ほかにて2週間限定公開
PG-12指定
配給:東宝映像事業部   

TVシリーズ:2016年1月15日(金)よりMBS・TBS・CBC・BS-TBS“アニメイズム枠”にて順次放送開始
《animeanime》
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