不死の存在である“亜人”が発見された世界。高校生の永井圭は交通事故にあった直後に蘇生したことから、国内3例目の亜人であることが判明、警察や亜人管理委員会に追われる身になる。ここから物語はスタートする。
本作のアニメーショ制作を担当するのは、国内有数のCGスタジオのポリゴン・ピクチュアズである。ポリゴン・ピクチュアズは、1983年設立の老舗スタジオ。『トランスフォーマー プライム』や『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』『トロン:ライジング』などハリウッドの有力スタジオと共に長年アニメーション制作を手がけてきた。デイタイム・エミー賞をはじめとする数々の国際的な賞に輝いている。
そのポリゴン・ピクチュアズが、2014年に日本でのアニメーション制作に乗り出した。『シドニアの騎士』『山賊の娘ローニャ』、これまでと一転して日本アニメ・マンガのスタイルに寄せてきたこと、その映像表現の新しさに関心が集まった。
『亜人』では、それがさらに先に進む。海外とも違う独自のCG表現を創りだすポリゴン・ピクチュアズは、新しいアニメーション映像に挑戦し続けているようだ。ポリゴン・ピクチュアズは『亜人』から何を生み出し、どこに進むのか。
『亜人』の総監督である瀬下寛之氏とエグゼクティブプロデューサーの守屋秀樹氏、ポリゴン・ピクチュアズに所属するふたりにお話を聞いた。
『亜人』 公式サイト http://www.ajin.net/
■『亜人』の企画のはじまり、デジタルアニメーションで表現する日常劇
―『亜人』の企画の立ち上がりから教えていただいていいですか。講談社とキングレコード、それにポリゴン・ピクチュアズ。『シドニアの騎士』(以下、『シドニア』)と似た枠組みではありますが、大きなタイトルですし、それだけが理由でもないと思います。
守屋秀樹氏(以下、守屋)
2013年の秋にキングレコードの中西(豪)プロデューサーから企画を出しませんかと相談をいただきました。ヒットタイトルですし、下手なものは出せないなと思いました。
原作元の講談社さんの中で『シドニア』の山崎(慶彦)プロデューサーが当社を推してくださったようで、最終的に我々が担当させていただくことに決まったんです。
―そのときにまだポリゴン・ピクチュアズ日本の作品は世に出ていない中で、なぜデジタルアニメーションで『亜人』という発想に至ったのですか。
守屋
詳細は分かりませんが、『シドニア』の最初に作った第5話が徐々に出来上がってきた時期で、それをご覧いただけていたのだと思います。「これだったらポリゴンの作る『亜人』を見てみたい」と思っていただけたんじゃないかなと。
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―逆に言えば、ポリゴン・ピクチュアズに来る話である以上デジタルアニメーションで作ることが期待されています。しかもかなりの大作となれば、これをどう作るべきと言ったことを考えられたんですか。
瀬下寛之監督(以下、瀬下)
僕は『シドニア』の1期を作っていてちょっと考えにくい時期だったんです。「企画が決まったから」と言われて、「よかったですね」と言ったら、「監督は瀬下だから」と言われて、ちょっと待ってと。(笑)
正直に言えば、『シドニア』はSFだったのでCGで扱いやすい面がありました。もちろんどんな仕事も難しい面はありますが、『シドニア』は主な舞台が巨大な宇宙船の中で、箱庭的な世界観な上に、物資不足で大勢が制服ばかりを着ているような状況ですから、コスチュームも節約できました。
CGのセルルックアニメはまだ黎明期でコストバランスのコントロールが難しいんです。そこで、ロボットだったり、作画でやると大変そうな場面、つまりCGの利点を活かせるモチーフを選びがちです。ところが『亜人』は、もろに日常生活じゃないですか。
―逃走劇になりますから場面も増えます
瀬下
まさにロードムービーで、キャラクターが多いです。ただ、皆さんが期待してくださっている。その期待にどこまで応えられるか正直不安はありましたが、やってみようと。
―『亜人』の映像化を最初に考えられたとき、デジタルアニメーション向き、それともハードルが高い、どちらに思われましたか?
瀬下
正直に言えば、ハードルが高いですよね。だから、CGならではという解釈に引き寄せました。長くCGに携わってきて、我々の個性でもあるCGというツールの長所も短所もよく解っています。『亜人』をアニメとして面白くしつつ、かつツールの利点を活かすためにはどうすればいいか、『シドニア』のノウハウにプラスアルファしていくことで、想像以上にいい結果になったと思っています。
―確かにIBM(*)の黒い粒子の表現は手描きではできないですよね。
*本編に登場する黒い幽霊で亜人の分身のような存在
瀬下
そうですね。IBMはあえて原作のイメージを拡張して、黒い粒子がずっと滞留し続けている感じにしました。実体があるようで、ない。
原作を見た時から、ずっと動き続けてあちこちから黒い粒子がバラバラと漏れていくようなイメージがあったんです。そうすることでCGならではの拡張がされます。それは作画ではなかなか難しいことですから、CGを選択した意味のある存在になったと思います。