アニメ制作の“絵コンテ至上主義”の問題とは? 従来の工程を見直したつむぎ秋田アニメlabの挑戦【あにめのたね2021】 | アニメ!アニメ!

アニメ制作の“絵コンテ至上主義”の問題とは? 従来の工程を見直したつむぎ秋田アニメlabの挑戦【あにめのたね2021】

日本のアニメーション産業を担う人材の育成発展を目的としたプロジェクト「あにめのたね2021」より、「作品制作を通じた技術継承プログラム」に参加した制作スタジオ4社への連載インタビュー。第4弾は株式会社つむぎ秋田アニメLabに参加の狙いや成果を聞いた。

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アニメ制作の“絵コンテ至上主義”の問題とは? 従来の工程を見直したつむぎ秋田アニメlabの挑戦【あにめのたね2021】
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日本のアニメーション産業の将来を担う人材の育成発展を目的としたプロジェクト「文化庁 令和2年度アニメーション人材育成調査研究事業」、通称「あにめのたね2021」

あにめのたね
「あにめのたね2021」詳細はコチラ(特集ページ)

2014年度より実施されてきた若手アニメーターの育成事業を、今年度はさらに拡大し、アニメーション制作の全ての工程に関わる人材の育成をめざして行われた。そのプロジェクトの1つ、「作品制作を通じた技術継承プログラム」を通して、制作受託先として選ばれた4社が短編アニメーションを制作した。

2017年に設立され、2020年4月に秋田に本社を移転した株式会社つむぎ秋田アニメLabは、今回育成事業に初参加、和風ファンタジー『龍殺ノ狂骨』をフルデジタルの環境で制作した。


絵コンテを使用せず字コンテから原画を起こし、あえて全身を描かせてフレームを後から決めるなど大胆な方法に挑戦したというが、なぜ慣れ親しんだ従来のアニメーション制作ではなくこうした手法を選択したのか。
「あにめのたね2021」で目指したものを、会社の代表取締役であり監督・プロデューサーの櫻井司氏、アシスタントプロデューサーの桑原智也氏に話を聞いた。
[取材=沖本茂義、文=杉本穂高]

予備校を開き、自ら人材育成するつむぎ秋田アニメLab


――つむぎ秋田アニメLabは2017年に立ち上げられた比較的若いスタジオですが、普段、どういったお仕事をされているのでしょうか。

櫻井:弊社は作画スタジオで、普段は色々な制作会社に作画能力を提供しています。1シーズンに7~8本程度の作品に関わっていて、スポットで関わるよりもシリーズ全体に関わることが多いですね。
アニメファンの方に馴染み深そうなところですと、Production I.GさんやJ.C.STAFFさん、project No.9さん、スタジオコメットさん等の作品に関わっています。

――櫻井さんは代表取締役ですが、どのような想いでこの会社を立ち上げたのでしょうか。

櫻井:私はアニメーターとしてこの業界に入ったのですが、年々制作環境が悪くなってきていると感じていたんです。今のアニメスタジオは内部にアニメーターがいないことで、とりわけ制作進行の作業がどんどん過酷になっていて、そうした状況を改善できないかと会社を立ち上げました。

私は、アニメーションは「工業製品」だと捉えているんです。各工程に分かれて色々な人が作業して、それらの工程には全てルールがあって運ばれていきます。ビジネス的な視点で見た場合、アニメーションは「線の加工業」なんです。
しかし、今のアニメ制作会社はアニメーターが社内にいないので工場内に生産ラインを持っていないような状態です。

そこで弊社は、色々な制作会社に原画・動画・仕上げを請け負う形で生産ラインを提供して、より簡単に、より楽に業界を盛り上げていくという姿勢でビジネスをしています。


――御社は以前、つむぎ作画技術研究所という社名で埼玉にスタジオを構えていましたが、2020年に秋田スタジオを設立し、本社も秋田に移転しています。これは土地代などの経費を考慮してのことでしょうか。

櫻井:そうです。埼玉は東京より安いだろうしなんとかなると思っていたのですが、あまり変わりませんでした。もっと安いところを探していると、アニメーター新人時代の元同期で秋田出身の桑原が秋田はどうかと勧めてくれたので秋田に移転しました。

――秋田スタジオの設立に先駆けて、2019年からアニメーターの育成を目的とした予備校を始めています。制作スタジオが教育機関を設けることも珍しいですが、こちらの話は「あにめのたね2021」参加の理由にもつながってきそうです。

櫻井:「あにめのたね2021」シンポジウムで他社さんの発表を聞いて思ったのですが、他社さんが今回の育成事業で行ったことの一部は、弊社では通常業務の一環としてすでにやっているんです。上の工程の人間がキャリアアップして、下の工程の者に教えてチェックするのは通常業務に組み込んでいます。

【関連記事】「あにめのたね 2021」コロナ禍でのアニメ制作&人材育成の課題とは? 事業報告シンポジウム【レポート】

――なぜアニメーター予備校を立ち上げようと思ったのですか。

櫻井:厳しい言い方かもしれませんが……実は、アニメーター志望でこの業界に入ってくる方は絵がうまくないことが多いんです。専門学校なども座学が中心で、学生も「会社に入ったら上手くなるだろう」と考えている人が多いんです。
でも、先程も言及しましたが、今は社内にアニメーターがいないために教えてもらえないわけです。そもそも、仕事しながら自己鍛錬するのも大変です。
それでも描ける人は生き残るし、アニメーターは個人事業主なので自己責任だから、それでも構わないと言えば構わないかもしれませんが、働き方改革でアニメ業界もその辺りを変えていく必要に迫られ、アニメーターを社員化していかないといけない状況になった。きちんと固定給に見合うだけの能力を持ったスタッフを育成する必要があったんです。

秋田にはアニメの専門学校もないので、受け入れの間口が広がることにもつながってちょうどよかったのと、こちらが欲しい人材を確保できないと地方に移った意味がないですから、それなら自分たちが欲しい人材を育成できるようにしようと考えて予備校を立ち上げました。

全身を描いてからフレームを決める意図は


――「あにめのたね2021」に参加された動機はなんだったのでしょうか。

櫻井:我々の会社は小さいベンチャー企業ですから、自分たちの予算で何か研究するのも難しいんです。今回はお金をもらいながらそれができるので、我々が思い描くアニメのデジタル制作にトライしてみる良い機会だと思いました。

――デジタルと言っても様々ですが、どんな点に注力したかったのでしょうか。

櫻井:全工程です。今回のプロジェクトは全て内製で手掛けました。デジタルでアニメーターがやれることを作画以外にも広げていき、幅広い視点で完成映像を想像しながら作業することを目標にしていました。
弊社は、アニメーターが秋田に16名、埼玉の川口に9名にいまして、全スタッフが参加しました。外部スタッフは起用せず内部スタッフのみで作っています。

――全体としてどんなチャレンジ意識で制作に臨んだのですか。

櫻井:まず、以前から試してみたかったゲームエンジンのUnreal Engineを今回導入してみました。今回の背景は全てCGですが、普通にモデリングすると時間もお金もすごくかかります。でも、ゲームエンジンならアセットを用いることができるので、それほど費用はかかりません。
モデリングの知識も不要で、レゴブロックを積み上げる感覚で背景が作れるんです。


Unreal Engineを使用した美術設定

脚本家にも「こういうツールがある」とUnreal Engineでどんなことができるのかを伝えて資料を集めてもらって、ノウハウと3D技術がほぼゼロの状態からチャレンジしてみました。

――実際のUnreal Engineの使用感はいかがでしたか。

櫻井:思った以上に使い勝手は良かったです。作画する上でも、アニメーターがカメラアングルやレンズ効果を操作して問題なくレイアウトを切れていました。簡単だと言われていたから大丈夫だろうと思っていましたが、実際に作業の障害になることはなかったです。

――アニメーターについて、どんなチャレンジをしてもらいましたか。

櫻井:アニメーター側でのチャレンジというよりも上流である演出の側面で、アニメ制作の「絵コンテ至上主義」について一考したいと考えていました。

――絵コンテに対してどのような問題意識を抱いていたのでしょうか?

櫻井:今のアニメスタジオは内部にアニメーターがいませんから、コンテを描く方も誰が原画をやるのかわからない状態です。
コンテが上がってくると、制作進行が外部のアニメーターをコーディネートしてなんとかやってもらうという状況で、コンテとアニメーターの質や個性がマッチングしにくい。上がってきた絵に対して、演出家が「絵が使えないので演出できない」となってしまいがちで、健全な関係性とは言えません。

本来は、内部で原画生産できるラインを会社が持ち、制作進行と一緒に絵コンテの段階から、こういう作画チームがあるから、このカットはこの人にやってもらおうというコミュニケーションをして設計していくのが理想です。
でも、現状それが機能していないので、やり方自体を変えた方がいいかもしれないと考えました。

そこで今回は、コンテ用紙に3D背景のスクリーンショットを添えた字コンテだけを書いて、フレームサイズにとらわれず全身を作画してもらうことに挑戦しました。そして、フレームは後から演出担当が決めるというやり方をしています。


原画とフレーミング

こうすると、アニメーターは自分の頭で芝居を考えないと原画作業ができないわけです。「画面が全然想像できません」とか「何を言っているのかわからない」という意見も出ましたが、育成事業という点も踏まえて挑んでもらいました。

――アニメーターはただ絵を描くだけでなく、演出的な視点も必要なので、それを伸ばす狙いがあったということでしょうか。

櫻井:そうですね。そういう視点を持たないと今回の作業はできないわけです。絵コンテなしで実務作業するのは効率の問題もあるので、これがベストの方法とは思っていませんが。

あと、今回の作品では、最初に現場のアニメーターと声優の方が同席する脚本の読み合わせを行ったのも大きなチャレンジでした。本来なら、声優さんとご一緒するのはアフレコの1回だけですが、「声優さんがこういう芝居をするなら、こちらもこういう演技をつけてみよう」と発想を広げることが可能になると思ったんです。読み合わせをすることで尺の計算もできました。

読み合わせはリモートでやりましたが、今やアフレコだって、動画マンも含めてリモートで聞ける時代です。弊社はアニメーターが線撮してアフレコ素材を作るのですが、実際にそれがどんな風に使われるのかを見る機会はありません。
今回、ダビングや編集作業がこういう風に行われているんだと、アニメーターに見せられたのは大きな収穫でした。コロナ禍ですから、音響さんにあえて説明しなくても、アフレコにリモートで参加させてもらえました。


――今回の事業で収穫の他、改善点や今後の課題などは見つかりましたか。

櫻井:タスク管理ソフトでデータベースを作ることができなかったのは今後の課題です。各スタッフがシステム経由で作業報告すれば、積み上げとしてデータベースが勝手にできるところまで持っていきたかったんですが、そこまでできなかったです。

――今回はどういった環境で作業を進めたのでしょうか。

櫻井:弊社では全員が工程ごとのチャットルームに参加しており、言った・言わないの問題は起きないようにしています。
通常のアニメ制作では制作進行が各工程を繋いで、次の作業に進んでいきますが、今回は前工程のアウトと次のインを同時にして、制作進行を挟まずどんどん回していきました。

――各作業担当者が次の工程の人に直接渡すような感じですか。

櫻井:そうですね。作業を終えたアニメーターが社内サーバー上の所定のフォルダにデータをアップすれば、次の工程の人がフォルダを見て新しい作業が入ったと認識できるようになっています。将来的にはそうしていくべきだと思うやり方にチャレンジしました。

桑原:「あにめのたね」ではクリエイティブ面でのチャレンジが多かったですが、制作工程については私も心残りがあります。
制作工程をアニメーターたちにセルフコントロールさせるイメージを持っており、それをシステムに集約できる仕組みを用意したかったのですが、今回はクリエイティブ面での挑戦を頑張りすぎて、そこまで踏み込めなかったんです。

もう少し余裕があれば、アニメーターたちが進捗状況を逐一報告して、自動的にデータ集計された上で制作を進めていきたかったのですが、今回はそれをフリーのタスク管理システムを使ってシステム化するのは時間がなくて断念しました。

櫻井:例えばSHOTGUNという管理ツールは、実は僕たちが思っていることが短時間で実現できる優秀なツールなんです。あれは定型が何もない管理ツールなので。しかし、高額すぎてなかなか導入できないです。


――地方のスタジオなので、素材のやり取りなどのデジタル化がひとつのカギになると思うのですが、今回の事業にもデジタル作業を重視したということなのでしょうか。

櫻井:それもありますが、私は実はデジタルそのものにこだわりがあるわけではないです。我々がデジタルで仕事しているのは、その方が効率がいいというだけです。

現状のアニメ業界のデジタル化は、アナログな道具をデジタルな道具に置き換えているだけという面が強い。でもパソコンは高いし、ソフトも毎年更新しないといけないとなると、道具を置き換えただけではコストが余分に掛かるだけなんですよね。

デジタルにするなら、方法論や制作工程全体をより効率のよいものにしないと意味がありません。でも、アニメの制作工程は各専門領域に細分化されており、それぞれの領域は侵すべからずという風潮ですから、全体を見直すことはなかなか難しいんです。
今のアニメ業界の生産ラインだとデジタルが機能しにくいと思いますね。

ゼロから作品を作る意識を持てたことは今後の財産になる


――「あにめのたね」への参加は、スタジオにとってどんな意義があったと思いますか?

桑原:私はアシスタントプロデューサーでしたが、実際は裏方として現場を回していく立場でした。動仕スタッフが色指定検査をしてみたり、撮影をしたり、脚本家とAPの私が3D背景を作ったりなど、専門工程の垣根を超えてチャレンジができたことは大きな経験になったと思います。
アニメーターたちも、普段とは違うチャレンジになったので困惑した部分もあったと思いますが、そういった新しい挑戦も必死にしがみついてやってくれたのを見て、すごく良い方向に行っているなと思いました。

櫻井:弊社は作画スタジオなので、普段は作画工程のお手伝いをしていますが、ゼロから作品制作に関わることがなかったので、自分の会社でゼロから作品を生み出すという意識をスタッフに持ってもらえたことは大きかったです。
元請け会社でないと、締切のある中で作品を作り上げる経験はなかなかできません。弊社も、自分たちの作品を作るという目標を持っていますから、そういう意識を持てたことは大きな財産になったと思います。

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《杉本穂高》
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