永井
ヒーローとは「誰かのために戦う者」だと思っています。やっぱり自分のエゴで戦っているのは美しくない。「自分が犠牲になってもいい」という強い信念を持って戦う。ヒーローとはそうあるべきなのではいかと。
水島
「正義のヒーロー」というと、まさにその通りだと思います。ただ、永井さんの場合、『バイオレンスジャック』(73)のように従来のヒーロー像と大きく逸脱したものも描かれていますよね。バイオレンスジャックは獰猛でアンチ・ヒーローな存在だけど、彼なりの正義を持っていて、社会の闇を吹き飛ばす大きなパワーを持つ存在としても描かれている。ヒーローを描く際のそうしたバランス感覚はすごいなと思います。
永井
一見すると悪人しか見えないけど、そいつなりの正義がある。常識から外れたヒーローが存在してもいいだろう、と。
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永井豪氏
――永井さんは60年代から現在まで様々な超人やヒーローを描かれてきたわけですが、時代によって「超人像」は違うのでしょうか?
永井
もちろんです。ただ、それは自分が変わっているというよりも、読者が変わっているということです。時代によって大衆が求めるものは変わりますから、それに対応したキャラクターが残るわけです。時代に合わなかったために忘れ去られてしまったヒーローもたくさんいますが、僕が描いたヒーローが今でも生きの残っているのは、ひとつには運が良かったのかもしれないし、あるいは大衆が求めるものをキャッチする能力に長けていたのかもしれません。
作品をつくっているのは、作者だけではない。そういった意識はつねに持っています。
――水島監督もアニメをつくるとき、視聴者の存在は意識されますか?
水島
ええ。企画段階では、想定する視聴者の気に入りそうな要素は入れようとしたり。ただ、制作に入ってからは、ヘタに視聴者の意見を受け入れようとすると物語やキャラクターがブレてしまうこともありますので、そこは注意が必要です。
あと、今のテレビシリーズは昔に比べて放送期間も制作期間も短いので、視聴者の反応を見てそれを作品に活かすのはなかなか難しいところですね。
永井
読み手からのリアクションという点では、『デビルマン』は連載当時はショッキングな内容に驚いた人が多くて(笑)。むしろ連載が終わってからグッと人気が高まった印象です。
水島
経過って分からないですよね。
永井
そう。受け手を意識し過ぎるのも考えもので、結局、作者は自分が描きたいように描くべきだと思います。
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水島精二監督