『聖闘士星矢』の忘れられない名勝負:前編 「少年マンガらしさ」の体現 2ページ目 | アニメ!アニメ!

『聖闘士星矢』の忘れられない名勝負:前編 「少年マンガらしさ」の体現

マンガ家・車田正美先生の代表作のひとつ『聖闘士星矢』。今なお、根強く多くの人の心に残る。その魅力を印象的な戦いのシーンと人間模様から分析する。

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■ 聖域の章 2

(十二宮編)
<氷河VS水瓶座のカミュ、氷河VSミロ>
聖闘士が守るべきアテナの化身で、グラード財団を率いる城戸沙織を救うため、聖域の十二宮に攻め込む星矢たち。ここでは、黄金聖衣をまとう、黄金聖闘士が十二宮の各宮を守っていた。氷河が戦うことになったのは、水瓶座の宮を守っていたカミュだ。
(※カミュは原作では氷河の師匠、アニメでは「師匠の師匠」という設定になっている)
倒さなくては大切な人を救えないが、恩義のある師に拳を向けられない――そんなジレンマに読者や視聴者はハラハラさせられた。しかし氷河は、戦いのなかで自分を見つめなおし、立ち向かう。追い詰められたところでカミュの技「オーロラエクスキューション」を自らのものとし、相打ちに持ち込んだ。
師匠であるカミュが、氷河に自分を超えさせるため、自らが犠牲になり最後に重要なことを伝える――こんな師弟愛にはヤンキー魂がくすぐられる。

さらにこの氷河VSカミュは、続く戦いである「氷河VS蠍座のミロ」の布石にもなっている。「氷河を殺したくない」との思いを抱えていたカミュに対し、ミロはこれを「侮辱だ」として氷河に全力で対峙する。「おまえたちが十二宮を突破するのは夢だ」といったミロに対し、氷河は「どんな夢だって信じてつらぬけば現実のものになる」と言い放つ。この「車田節」ともいえる熱い言葉に心うたれた人も多かったようだ。

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<瞬VS魚座のアフロディーテ>
十二宮を進む星矢と瞬。二人は、魚座のアフロディーテに遭遇する。ここで瞬の師匠を殺したのがアフロディーテであるという因縁が明かされ、瞬は星矢を先に行かせて戦いを引き受ける。これまでの物語で、瞬=守りというイメージを強くしていたため、読者や視聴者は果たして一対一で勝てるのかとも思うが、瞬は兄の一輝との誓い、師匠への思いを背負い、アフロディーテに対峙する。
それまで自分の力を師匠にも隠し、力の勝負では兄を立てるなどやさしさ故に力を抑える部分があり、女性的な魅力も感じさせていた瞬の本気が見える対決だった。また、瞬もアフロディーテも作中では「美形」「美しい」と形容されるキャラクター。「美の対決(=共演)」というところも、当時の少年漫画としては画期的だった。

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<一輝VSシャカ>
十二宮を進む中、星矢らの前に、黄金聖闘士のなかで「最も神に近い男」といわれる、乙女座のシャカが立ちはだかる。星矢や瞬が敗北する中、窮地を助けにきたのが一輝だ。「神に近い存在と戦うのに、命をかけずにいられるか」という「それはそうだけれども、普通はそこまで言い切れないよ」と思いたくなるセリフを叫び、本当に仲間のために命をかけて戦う。
徐々に敵が強くなる中、この時点でシャカは最強に近いキャラクターとされる。しかもその最強キャラが単なる悪役ではなく、自ら善悪を判断して敵側に回っていること。さらに「最も神に近い美しい男」という少年漫画らしからぬ存在だ。それを、男らしさの象徴ともいえる一輝が、あえて敵の力を利用して、超えようとする。「男らしさ」が勝利するという点でジャンプの王道ではあるものの、「勝てそうになかった相手との相打ち」というラストは、美しさとせつなさを感じさせた。

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アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』特集
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(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
《マンガナイト・山内康裕、bookish》
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