今回の目玉は、海賊王を目指す主人公ルフィ(声:田中真弓)の憧れの存在である四皇・赤髪のシャンクス(声:池田秀一)が劇場版に本格登場すること。しかも、シャンクスの娘・ウタ(声:名塚佳織)が新登場し、それぞれの過去も描かれるというファン必見の内容となっている。
さらには、歌姫ウタの歌唱をAdoが担当。楽曲提供に、中田ヤスタカ、Mrs. GREEN APPLE、Vaundy、FAKE TYPE.、澤野弘之、折坂悠太、そして秦 基博と豪華アーティストが集結。物語も、メンバーも本作だけのゴージャスな内容となった。
アニメ!アニメ!では、田中真弓と池田秀一にインタビューを実施。TVアニメ放送開始当時の思い出を振り返りつつ、『ONE PIECE FILM RED』への想いを語る貴重な対談をお届けする。
[取材・文:SYO 撮影:吉野庫之介]
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「赤髪のシャンクス」との出会い
――シャンクスの初登場は、TVアニメ第4話(1999年)。田中さんと池田さんの収録当時の思い出を教えてください。
田中:『ONE PIECE』が始まる前から、池田さんの声の深くて優しいカッコよさを感じていました。ただ、ルフィにとってシャンクスはあこがれの存在だからそう聞こえるけど、もし敵だとしたらものすごく怖い。太い声よりもよっぽど敵わない気がするし、この人と戦いたくない……と感じるような、優しさと冷たさを備えた裏腹な魅力を池田さんの声に感じます。
というのも、『巨神ゴーグ』で共演した際に、私が演じたキャラクターにとってはちょっと怖いキャラクターを演じられていたんです。『ONE PIECE』とはまた違った関係性で改めて池田さんの振り幅の広さを感じましたし、ちょっと不思議な感覚でした。
池田:僕はオファーを受けた際は原作をまだ読んでおらず、『ONE PIECE』というタイトルだけを聞いて最初「女の子向けのアニメかな?」と思っていました。
田中:私もそうです(笑)。
池田:それで「赤髪のシャンクス」の字面を見たときに、まだ彼のことを知らないから「赤い彗星」「シャア・アズナブル」とちょっと重なってしまって(笑)。少し躊躇した所があったのですが、現場に行ってみて安心しました。この役に出会えてよかったなと思います。
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田中:考えてみれば、非情な役を結構やられていますもんね。その声の印象があるから、「怖い」というのがどこかにあったのかもしれない。
池田:僕が思ったのは、シャンクスって少し不良っぽい感じがあるということ。それまで僕が演じてきたキャラクターは士官学校の出のエリートっぽい役が多かったから、またそういう役だったら嫌だなとはちょっと思っていたんです。でもシャンクスって、最初はただの酔っ払いじゃないですか(笑)。
田中:たしかに、何かあったらすぐ「宴だ!」ばっかり言ってる(笑)。
池田:そうそう(笑)。だから僕にとってはすごく新鮮で、「ついにこういう役に出会えた!」って喜んだんだけど、たまにしか登場しなくて……(笑)。
田中:『ONE PIECE』って、初登場から期間が空いて再登場するキャラクターが結構いますからね。黒ひげ(マーシャル・D・ティーチ)役の大塚明夫さんもそうですね。
池田さんはシャンクス役でのオファーだったんですね。『ONE PIECE』ってちょっと意外なキャスティングをするところがあって、その辺りも面白いんですよね。
――田中さんはオーディションでルフィ役に決まったと伺いました。
田中:はい。決まるまでに紆余曲折がありました。男性が演じたほうがいいのではないかという声などもあったと思うんです。
『ONE PIECE』の前に、集英社×フジテレビ×東映アニメーションという同じ座組で『ドラゴンボール』をやっていて、やっぱり私の声はクリリンに聞こえちゃうという意見もあったと聞きました。
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――池田さんは要所要所での“スポット参加”で、久々にシャンクスを演じられる際にどういった準備をされて臨まれるのでしょう。
池田:それが、特に準備をしていないんですよ。現場に行くと自然と役に戻れるから、前の出番を観返すこともありません。
田中:池田さんはゆるぎないですよ。それより麦わらの一味のキャストのほうが大変。インペルダウン編からマリンフォード編で2年くらいみんなが出ていない期間があったのですが、その次に登場するときに「こんな感じだったっけ……」って探っちゃってて(笑)。
池田:そうなんだ。シャンクスは出たくても出ていないことが多いからすっかり慣れっこになっちゃって、「前どうやっていたかな」と悩むこともない(笑)。
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尾田栄一郎が考える「冒険」の対義語
――『ONE PIECE FILM RED』はシャンクスが登場し、原作第1話のエピソード・ゼロ的な物語も含まれます。
田中:とにかくシャンクスが出ること自体が、もうスゴいと思いました。
池田:僕もまさか順番が回ってくるとは思っていなかったから、油断していました(笑)。僕(シャンクス)が避けているわけではなく、ルフィがシャンクスに会って麦わら帽子を返したら、ある意味『ONE PIECE』は終わりですから。最初で最後かもしれないと思って、気合を入れて臨ませていただきました。
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田中:あとはやっぱりウタですね。今までやってきた幼少期のエピソードでは「シャンクスにウタという娘がいた」という話題は一度も出てこなかったのでびっくりしましたし、今までやってこなかった一番小さい頃のルフィも出てきて、それも驚きでした。時間軸の整理と理解をするのに、ちょっと混乱しました(笑)。
ただ今回、一番小さいルフィを見られたことで、現在のルフィに至るまでの成長がより響くようになった気はしています。少年がだんだんと成長していく過程を見られるかと思います。
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――ウタは初登場ながら、『ONE PIECE』全体から見ても非常に重要な役割を担ったキャラクターですよね。
田中:今回の映画は、女性がメインというのも大きいと思います。私個人の想いですが『ONE PIECE』で女性、特にお母さんをずっと描いてほしくて。出てきてもすぐ死んじゃうんですよ。
尾田っちに「なんでお母さんを描いてくれないの」と言ったら「真弓さん、僕は冒険物語を描きたいんです。冒険の対義語って何だと思いますか?」と聞かれて。「日常?」と聞いたら「違います。母親です」と言われたんです。つまり、母親の元を離れるから子どもたちは冒険できるということなんですよね。
今回、お母さんとまではいかないかもしれないけど、幼少期はウタについていくような存在だったルフィが成長した姿を見て、その話を思い出しました。そういった部分も、新たな魅力だと感じます。
ライブシーンも相当量が盛り込まれていますし、今までとは違った面白さがたくさん盛り込まれているので、映画館で楽しんでいただきたいです。
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(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会