コロナ禍で加速する「アニメ業界のデジタルシフト」 最前線スタッフが語るメリットと課題とは? | アニメ!アニメ!

コロナ禍で加速する「アニメ業界のデジタルシフト」 最前線スタッフが語るメリットと課題とは?

新型コロナの影響下でアニメの制作現場では一体何が起きていたのか。企業のデジタルシフトのニーズが急速に高まったが、アニメの制作現場に変化はあったのか? そんな疑問を解くべくアニメ!アニメ!編集部は、アニメ制作の第一線で働くスタッフにインタビューを敢行。

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    2020年初旬より急速に蔓延した新型コロナウイルス感染症COVID-19(以下、新型コロナ)は世界中の様々な産業に大きな打撃を与えた。
    国内のアニメ産業も例外ではなく、2020年夏クールは放送中止や延期が相次ぎ、オンエア作品が一時的に通常時の半分以下になる事態となった。

    新型コロナの影響下でアニメの制作現場では一体何が起きていたのか。そしてアニメーターの方々はどうやって困難を切り抜け、私たちにアニメを届けてくれたのだろうか。
    さらに企業のデジタルシフトのニーズが急速に高まったが、アニメの制作現場に変化はあったのか?

    そんな疑問を解くべくアニメ!アニメ!編集部は、アニメ制作の第一線で働くスタッフにインタビューを敢行。コロナ禍中でのアニメ制作の変化とアニメーターの働き方についてリアルな声を伺った。
    インタビュー前編としてフリーランスアニメーター、後編として3DCG制作スタジオの制作プロデューサーとCGディレクターの事例を紹介する。

    また、制作環境のデジタルへのシフトや、制作進行用クラウド型プロジェクト管理ツール「Save Point forアニメ」がもたらした効果についても具体例を紹介する。

    インタビュー前編:フリーランスアニメーター・西位輝実氏

    >https://animeanime.jp/article/2020/11/27/57899.html

    インタビュー後編:3DCG制作スタジオ・セイバープロジェクト

    >https://animeanime.jp/article/2020/11/27/57899_2.html

    (取材・文=いしじまえいわ、撮影=小原聡太)


■インタビュー前編:フリーランスアニメーター・西位輝実氏


アニメーターの場所を問わないワークスタイル


西位輝実氏は『蟲師』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』『劇場版 はいからさんが通る』等の作品でキャラクターデザインや総作画監督を務めた実力派フリーランスアニメーターだ。
また2019年末には約20年に渡る業界経験を基に業界の最新動向を描いたノンフィクション『アニメーターの仕事がわかる本』を上梓している。

業界の今を知る西位氏に、新型コロナがアニメ業界とフリーランスアニメーターの働き方に与えた意外な影響やデジタルシフトで直面する課題、提言などを伺った。

フリーランスアニメーター西位氏

――最初に新型コロナを意識されたのはいつ頃でしたか?

西位:緊急事態宣言が出るちょっと前に、ベテラン声優さん方がツイッターなどで「アフレコに影響が出るかも」と話されているのを見て、「確かに密な現場で大きな声を張るもんな」と思ったのを覚えています。
決定的だったのは3月に志村けんさんが亡くなられたこと。ドリフ世代なので個人的にもショックでしたし、業界的にも一気にセンシティブになった印象です。

――新型コロナの影響は、アニメーターらアニメの制作現場にはどのように出ましたか?

西位:私は当時、担当していた劇場作品が公開延期になりましたが、作画のスケジュールも、それに合わせて延びました。作品によっては、延びないものもあったようです。
他の方から聞いたケースですと、アフレコが密を避けるために抜き録り(※)になったことで音声収録のスケジュールを長めに確保する必要が生じ、その影響で作画の納期が前倒しになるということがあったそうです。

※スタジオに複数人が集まるのではなく一人ずつ収録する形式のこと。

――一般的なビジネスマンの場合ですと、この頃から出社勤務から在宅ワークの切り替えが進むようになり、その移行に手間取るケースも多く見られました。アニメ業界では、リモート対応などの難しさはありましたか?

西位:私の場合、元々在宅ワークが中心で作業環境も自宅にあったので、そういった面での障壁は全くなかったです。

――「データはネット上で共有し、会議や面談はZoomなどのテレビ会議アプリを使う」といったリモートワークが普及しましたが、アニメ制作の場合、「自宅で、デジタルツールで絵を描き、ネットを介して納品」というようなイメージでしょうか?

西位:アニメの現場では、アウトプットをアナログかデジタルか、自分で選べることが多いです。
私は自宅にアナログとデジタル両方の環境を用意しています。アナログの場合はデスク上に紙と鉛筆、デジタルの場合は液晶タブレットやiPadを置くという感じです。

たとえば作品のキービジュアルを描く場合は、アナログだと原寸大でポスターサイズに近い大きさの絵を描くことになり、描くのも描いたものを確認するのも大変。だから今はデジタルで描いています。キャラクターデザイン等の設定資料もデジタルの場合が多いです。

逆に原画は今もアナログで描く方が多いですし、私自身、紙と鉛筆の方が速く描けるので、原画や原画修正などはアナログでしています。


――出来上がった絵はどのように納品するのですか?

西位:アナログの場合、描いた絵を封筒に入れバイク便で運んでもらう昔ながらの方法です。デジタルの場合、メール添付もあれば、データ共有サービスやアプリを指定されることもあり、まちまちです。

――業界全体として、アニメーターは自宅で働くケースが多いのでしょうか?

西位:人や会社によって違いますが、社員ではなくフリーランスの方が多い業界なので働き方は自由に選べる方です。とはいえ、先輩アニメーターの仕事を見ることが勉強になるため、若いうちはスタジオに出社するメリットは大きいと思います。
逆にある程度キャリアを積むと「出社する時間を制作にあてたい」と思うようになりがちですね。

私は自宅に自分が作業しやすい環境を整えているので、自宅勤務を選ぶケースが多いです。
それでもスタジオ勤務を選択することもあって、たとえばメインスタッフと相談することが多い作品は、コミュニケーションを取りやすいようにスタジオで作業をします。「机貸して!」「空いてるからOK!」といった感じです。

新型コロナで影響を受けたアニメーターの意外な業務とは?


――新型コロナによるリモートワークへの移行自体は、アニメーターにはそれほど大きな影響はなかったようですね。他の面での影響はあったのでしょうか?

西位:私個人に関しては、飲み会が無くなったのが痛かったですね。

――飲み会ですか。それはなぜ?

西位:私は飲み会や打ち上げなどで次の仕事の話をすることが多いんです。契約や交渉の一歩手前の探り合い、みたいな感じなんですが。

――それはたとえば「今次の作品やってるんだけど、この時期空いてる?」「その時期は厳しいですね……ちなみにどんな作品ですか?」「〇〇先生原作で作監は〇〇さん」「えっ、それならやりたい」みたいな感じですか?

西位:そんな感じです(笑)。

――なるほど、飲み会はフリーのアニメーターにとっての情報交換や営業の場なんですね。

西位:ええ。私の場合、新型コロナの影響下でも抱えていた仕事があったので問題はなかったのですが、一時的に先の仕事が減ったことで影響を実感しました。

ハードの進歩によって進むデジタル導入


――西位さんはアナログ・デジタル両方を使い分けていらっしゃいますが、デジタルに対応したのはいつ頃、どんなきっかけがありましたか?

西位:2013年か14年頃、マンガを描こうと思い至って詳しい友人に相談したところ「スクリーントーンなんてもうなかなか売ってないよ!」と言われ、コミスタ(※)を導入したのが最初です。

※マンガ制作ツール「ComicStudio」。2015年に販売終了。

西位:ちょうどコミスタからクリスタ(※)に移行する頃で、「へえ、今はGペンにスクリーントーンじゃないんだ」と思って液晶タブレットとクリスタを導入しました。それがデジタル環境導入のきっかけです。

※ペイントツール「CLIP STUDIO PAINT」。


――アニメ以外の活動もされていたことがデジタル環境導入のきっかけだったのですね。

西位:そうですね。もしそのきっかけがなければ、デジタル環境の導入はもっと後回しになっていたと思います。

――マンガのためのデジタル制作環境をアニメの仕事にも使おうと思われたのは何がきっかけでしたか?

西位:端的に言うとiPad Proが登場したからです。先ほどお話した通り、私は一つの机で紙と液晶タブレットを置き換えて作業を切り替えているので、作業デスクを一面使うような据え置き型の液晶タブレットを設置するわけにはいかない。
軽くて取り回しやすいiPad Proが出て、外などどこでも絵が描けるようになったことと、それでクリスタが使えるようになったことが決め手でした。

16インチのiPad Proが出てくれれば、ほぼ原寸サイズの絵をデジタルで描けるようになるので決定打になると思います。

――新しい技術やハードの登場によってデジタル化が可能になったんですね。

西位:そうです。液晶画面とペン先の視差が徐々に縮まって自然な描き味に近づいていったこともそうですし、技術の向上によって解決した部分はたくさんあります。

デジタル化による技術の断絶と“非”効率化


――逆に、デジタル化によるデメリットや問題などはありますか?

西位:紙で描いてきたアナログ世代から、若いデジタルネイティブ世代に技術を継承しようとするときにデジタル化にまつわる障害はあります。
たとえば、デジタルで絵を描くのに慣れた若い人に専門学校の授業などで紙に絵を描いてもらうと、何故か絵のレベルが数段落ちるんです。違う人の描いた絵に見えることさえあります。

――それは線の引き方の違いや取り消しなどの機能が使えないことが影響しているんでしょうか?

西位:正確な原因は私にもまだ分かっていません。「アナログとデジタルの違いが壁になってそれが上手くアウトプットできないようだ」と把握できているぐらいです。
一方で「最終的な成果物に問題がなければいいか」という考えもあり、私自身どう向き合うべきか悩んでいる問題です。

若い方々も目は正解がわかっているはずなので、身体の使い方がアナログとデジタルでどこか違うのかなと。この問題をどうにかして、技術を継承していくことが私たちのようなアナログとデジタルの̚気を経験した世代の役割なのですが……。

――まだまだ手探りの段階である、と。

西位:その通りです。これは私たち教える世代と学ぶ世代が互いに歩み寄って解決していくべき問題だと思っています。
あと、今後はデジタル環境やサービスの導入が進んでいくと思いますが、デジタルツールが乱立するような状態にはしてほしくないです。

――それは先のように、データをメールで送る場合もあれば他のサービスを使う場合もある、というようなことですか?

西位:そうです。以前は「完成した絵から封筒に入れて送って完了」だったのに、「このプロジェクトではこのサービスで送付」「この会社では自社サービスで共有」と様々な方法が乱立することでアニメーター側が絵を描くこと以外に覚えたり対応したりしなければならないことが逆に増えてしまうケースがあるんです。

――便利にするつもりがアニメーターにとっては負担になるかもしれない、という事ですね。

西位:アプリのインストールやバージョンアップも都度しないといけないですしね。データの管理についても以前は右上に数字を数ケタ書くだけでよかったのに、デジタルデータだとレイヤー毎フォルダ毎に名前を付けないといけません。

こういった作業は普通のビジネスマンなら業務の一環として行っていることだと思いますが、アニメーターは本来絵を描くことが本分ですから、デジタル化の波に乗じて今までなかった作業が増えると感じる方もいます。


――それが気持ち的に壁になっている方もいるかもしれませんね。

西位:そうです。昨今ではゲーム業界など他業種からアニメ業界に入る方もいますし、そういう方はデジタルの導入には積極的だったりするのですが、先に挙げたような作業は彼らにとっては業務をするうえで当然のことなんだと思います。

新しいツールを導入する際には、クリエイターにとってデジタル化が逆に非効率になっていないか、精神的な負担にならないかを意識してほしいですね。

――アニメーターの方にはなるべく絵に集中してもらった方が、効率いいですもんね。

西位:絵を描いたり絵を見たり絵を学んだり、とにかく絵が好きでそれに集中したいと思っているアニメーターは意外と多いので、デジタル技術はそこを邪魔しない形で導入してほしいなと思います。

◆◆ ◆
アナログとデジタル両方を使いこなすアニメーター・西位氏から見た、コロナ禍で急速に進むデジタルシフトへの見解は示唆に富んでいた。

新しいツールやテクノロジーが導入される移行期だからこそ、アニメ業界ならではの業務フローやクリエイターに寄り添ったツールであることが重要そうだ。

▼インタビュー後編:3DCG制作スタジオセイバープロジェクトへ▼

《いしじまえいわ》
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