AA
先ほど『屍者の帝国』 の映像化は迷われたと話されました。逆に言えば迷われたポイントと、では最終的になぜ映像化を決断したのか教えていただけますか。
山本
『屍者の帝国』は、企画者の目線でいうと、筋とその設定の接合、キャラクターのドラマと社会世界のドラマの接合を見たときに映画の2時間、テレビシリーズでも難しいと思いました。
映像的というほど僕は映像を語れないけれども、ただ僕が映像化するときに拠り所しなければいけないと思っているところに合わない。最初は自分がこの企画を映像化することは絶対にないとさえ思ったんです。ただプロジェクトとして意義はすごくありました。伊藤計劃の遺稿を友人の円城塔さんが書き継いだもの。収益だけを追求するのはむしろ危ういとは思っていますから。そこで原作を変えるということを前提で映像化に踏み切りました。
AA
かなり大胆に変わってる部分もあります。
山本
そうですね。円城さんからは、好きに変えてくださいというオーダーだったんです。だったら伊藤計劃の残した仕事を探り直す覚悟があればできるし、それをやる覚悟がある監督であれば出来る。僕は確信がなかったけれども牧原亮太郎監督は「やれる」と言ったので、信じました。
牧原さんはすごく積み上げる監督なので、やれないことをやれるというタイプじゃないのも分かっていました。牧原さんが「やれる」と言っているのに僕が心配してもしょうがない。それぐらい本当に『屍者の帝国』は迷いましたね。でも、映像は非常に素晴らしいものになりました。そこは僕の計算を大きく超えています。やはり計算だけで、決めるべきじゃないなと思っています。
『屍者の帝国』 (C)Project Itoh & Toh EnJoe / THE EMPIRE OF CORPSES.
AA
『屍者の帝国』はロードムービーになっており、映画の定石でもあります。
山本
そうですね。牧原さんは絵描き出身である一方で、すごくシナリオを勉強しているんです。映画の鉄則をはめているんです。原作は3幕ものなのですけれども3幕に割るのでなくロードムービーにしようというのはプランニングの時点からありました。でもシナリオで描いていると、これがきちんとつながるのか、全然分からなかったんです。シナリオで40稿とかまで行ったんです。もう駄目じゃないかぐらいに思いました。
小さい矛盾というよりは、どうやると国や場面が変わった時の唐突感がないかとずっと研究していました。ワトソンが何をしたいかが分からないという話から、フライデーとの関係を新たに共同研究者として、ワトソンが研究者としての意思を継ぐとしました。これは円城さんと伊藤さんの関係と同じだよねと必然性を高めていきました。
AA
今回『屍者の帝国』と『ハーモニー』では山本さんが脚本でクレジットされています。これはここまで共同にやったということも含めてですか。
山本
そうですね。『ハーモニー』では僕が手を挙げたというよりは、僕がやることになったというだけなんです。『屍者の帝国』も何せ40稿に行っていますので途中で僕が引き取った時間帯があったということです。
AA
『屍者の帝国』が最初に公開されるということで、まず『屍者の帝国』が熱くなると思います。まずこの一作目の見どころはどこですか。
山本
本当にどこもレベルが高いです。特に見てほしいのは、美術。すごいです。相当レベルが高い。それと音楽。池さんが自分史上で一番いいと言ったぐらいです。WIT STUDIOの作画力もやっぱりすごくいい。作画にしろ、シナリオにしろ、積み上げ型の作り方をしているので全体的なレベルの高さもアピールしたいですね。
AA
どうもありがとうございました。
「Project Itoh」 http://project-itoh.com/