2026年4月4日より、NHK Eテレにて放送中のTVアニメ『ねずみくんのチョッキ』。
1974年に作家・なかえよしを、画家・上野紀子夫妻の共同作業によって誕生し、超ロングセラー絵本として愛される「ねずみくんの絵本」シリーズを原作とする、52年の歴史の中で初のTVアニメ化作品だ。同シリーズといえば、大胆に余白をいかした美しい構図と、鉛筆で描かれたモノクロの柔らかな質感の絵を特徴としている。そして、あっと驚き心があたたまる、ユーモアにあふれたストーリー展開で人気を博す。

このたびのTVアニメでは、三世代にわたって愛され続ける絵本の魅力をそのままに、ねずみくんの自慢の赤いチョッキをめぐる物語が映像化される。
「絵本がそのまま動いているように見せる」というこだわりの映像表現に加え、津田健次郎&能登麻美子の2人だけで全キャラクターを演じるというユニークな試みにも挑戦している本作。その他にも驚きの仕掛けが満載だ。なぜ今アニメ化するのか? そして、このシンプルで奥深い世界をどう映像に落とし込んだのか? プロデューサーを務める尾崎まさゆき氏へインタビューを行い、製作の裏側を聞いてみた。
[文・撮影=米田果織]
【尾崎まさゆき プロフィール】
株式会社Creadom8代表。
サンライズにてアニメーションの企画・製作・プロデュースを担当し、『TIGER & BUNNY』などのオリジナル作品を中心にヒットを創出。2015年、株式会社バンダイナムコピクチャーズを設立し、2022年まで代表取締役社長を務める。
2024年8月、さらなるクリエイティブの可能性を追求するためバンダイナムコグループから独立し、Creadom8を設立。長年培ったプロデュース能力と経営手腕を武器に、アニメーションの新たな価値創造に挑んでいる。
■50年愛され続けた絵本との出会い──“初の本格アニメ化”が動き出すまで

――50年という超ロングセラーの絵本が初アニメ化。ここに至った経緯を教えていただけますか
僕はサンライズ時代に『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』というポプラ社原作のテレビアニメをプロデュースしていました。当時、その作品でご一緒していたポプラ社のご担当の方・加藤裕樹さんが、20年の時を経て社長になられたんです。バンダイナムコから独立する旨のご挨拶に伺ったところ「またポプラ社の原作で何かアニメ化できたらいいですね」という話になり、加藤社長も「ぜひやりましょう」と言ってくださって。そこから具体的に作品を検討していく中で、『ねずみくんのチョッキ』に出会いました。
――最近はリメイク作品も多いですが、アニメ化されていない作品を選んだ理由は?
僕自身、あまり過去作のリメイクに強い興味がなかったことですね。『ねずみくんのチョッキ』は、これまでに短いパイロット的な映像は存在しておりましたが、テレビシリーズとしてのアニメ化は今回が初めて。そういう意味では、実質“初のアニメ化”と言っていい作品です。「50年以上続いているのにアニメ化されていない」という点に、逆に魅力を感じました。
やはり僕自身がプロデューサーとして長くやってきた経験から「時代を超える力」を持っている作品に強く惹かれるんです。作品が長く愛されるためには、テーマや内容に普遍性がなければいけない。言い換えれば、それがなければ時代を超えられない。そう考えると、50年以上にわたって読み継がれている絵本というのは、それだけで非常に強い普遍性を持っていると言えますし、老若男女すべての人に届く何かを備えている作品だと感じました。

――今作はCreadom8がプロデュースする記念すべき第1作、さらに尾崎さんのプロデューサー復帰作になるんですよね。
会社を立ち上げて最初にプロデュースする作品としても、これ以上ない題材だと思いました。まず考えたのが「どういう形で届けるか」という点です。最近だと短尺の動画をYouTubeで配信するような方法もありますが、これだけ長く愛されてきた作品だからこそ、できるだけ多くの人にしっかり届く形にしたいという思いがありました。その中で、かなり早い段階から第一希望として考えていたのがNHKでの放送です。やはり全国に届く放送局で、この作品をしっかり届けたいという思いが強くあって。
――『かいけつゾロリ』も最初はテレビ朝日系列で放送されていましたが、NHKに移動しましたよね。
『かいけつゾロリ』以外にも、これまで僕がプロデュースしてきた作品は、NHKエンタープライズさんと組ませていただく機会が多くて。そこでご一緒してきた方々が、時間を経てそれぞれ要職に就かれていて。そうした長年の関係性の積み重ねがあったからこそ、今回もスムーズにご相談できた部分はあったと思います。
やはり日本全国47都道府県で視聴できるという意味でも、NHKは非常に大きな存在ですし、作品の特性を考えても最適な場所だと感じています。そこで僕から企画のプレゼンテーションをしたところ、非常に前向きに受け止めていただき話が進んでいきました。
■“絵本がそのまま動く”を目指して…羽原信義監督と挑んだ表現の核心

――作品に対するかなり強い思いとこだわりが伝わってきます。そんな作品の世界観を作るうえで、このスタッフ陣を揃えたのには何か理由があって?
今回お願いした羽原信義監督(本作では「はばら のぶよし」名義)とは、作品としてご一緒するのは初めてです。ただ以前から会社経営者同士としてのお付き合いがあって、ベテランとしての確かな技量と、人としての温かいパーソナリティもよく知っていました。独立のご挨拶に伺った際には「機会があればぜひ一緒にやりましょう」と声をかけてくださって、その言葉がずっと心に残っていたんです。
今回の『ねずみくんのチョッキ』は、原作者のなかえ先生もおっしゃっているように「余白の大切さ」や「シンプルさ」が核にある作品です。だからこそ、その本質を理解し、表現できる、人生経験もキャリアも豊富な監督にお願いしたいと考えていました。そこで真っ先に思い浮かんだのが羽原さんだったんです。
さらに、羽原さんご自身だけでなく、演出家であり監督でもある奥様(羽原久美子氏)もこの作品をとても好きでいてくださって、「ぜひやりたい」と前向きに言っていただけた。本当に良き御縁に恵まれたと思います。
――製作に際し、監督とはどんなお話を?
「どの表現手法で作品を作るか」をじっくり話し合いました。作画アニメにするのか、Live2Dのような技術を使うのか、それとも3DCGにするのか。いろんな可能性がある中、目指したのはあくまで“絵本の風合い”でした。手描きのタッチ、鉛筆の線のようなニュアンスをどう再現するか。作画だとどうしても塗りが均一になりやすく、絵本特有の繊細なタッチを完全に再現するのは難しい。一方で、Live2Dはイラストをそのまま動かす表現には優れていますが、奥行きのある動きや立体的なアクションには制約がある。最終的に選んだのが、もっとも手間のかかる3DCGという方法でした。
いわば“茨の道”ではあるのですが、その分「絵本なのかアニメなのかわからない」。まるで絵本そのものが動き出したような表現を目指すことができる。それこそが、僕たちが一番やりたかったことなんです。

――原作の先生も、やはりそこにはこだわってほしいと?
そうですね。なかえ先生ご自身のこだわりや想いを如何に具体的なものに落とし込んでいくか、苦労した部分でもありました。
例えば、長く続いているシリーズなので、第1巻の頃のキャラクターと、最新の40巻近くのキャラクターとでは、デザインが変化しているんです。同じねずみくんでも時代によって印象が違いますし、ほかの動物たちも同様で、同じ動物でも巻ごとにキャラクターデザインがそれぞれに違うんですよね。
そこで「どの時代の、どのデザインをベースにするのか」という話になったとき、先生としては「どれもねずみくんたちの大切な姿だから」という思いがあった。とはいえ、アニメとしては3DCGのモデルを作る以上、軸となるデザインを決める必要がある。なので、CGディレクター兼キャラクターデザインの安田兼盛さんを中心に、それぞれの動物に共通する“普遍的な要素”を抽出して、ひとつのキャラクターデザインに集約していく作業を進めていきました。ここは本当に大変でしたね。
さらに、やり取りを重ねる中で見えてきたのが、先生の“絵としての優しさ”へのこだわりでした。ほんのわずかな丸みやフォルムの違いで、キャラクターの印象が変わってしまう。同じライオンでも、少し角張るだけで印象が強くなりすぎてしまうし、逆に丸みを帯びることで一気にやわらかく、親しみやすい存在になる。そうした細部のニュアンスをどう汲み取って表現するか、安田さんが本当に粘り強く向き合ってくださって、とても感謝しています。
――実際に動きの付いた映像を見せていただきましたが、本当に絵本が動いているようでした……!
3DCGでありながら、いかに「CGっぽく見せないか」にとても気を使って頂いています。今回CGディレクターとして参加してくださった安田兼盛さんは、まさに第一線で活躍されている、トップクラスのCGクリエイターです。
羽原監督と安田さんは以前から親交があり、今回、監督から声をかけていただいたことで参加が実現しました。本当に高度な技術を使ってこの表現ができているのですが、今回、僕らの中にある“裏テーマ”は「すごさを感じさせないこと」。あくまで目指しているのは“絵本がそのまま動いている”ように見えることで、「すごいCG技術だ!」と思われるのではなく、「絵本が動いているみたいだ」と感じてもらいたいんです。

今回のビジュアルもまさにそうで、「これは絵本なのかアニメなのか、どちらなんだろう?」と思ってもらえるような方向性を、あえて狙っています。何気なく見ていただいている映像の裏側では、実はとてつもなく高度な技術が使われているんですけどね。
――アニメーションなんだけど、絵本を自分でめくってるような感覚になりました。
その発想は羽原監督のこだわりから生まれたものなんです。カットを切り替えるときに、まるで絵本のページをめくるように場面転換をする演出は、監督が考案してくれました。アニメでありながら、あくまで“絵本を読んでいる感覚”を大事にする。そのための表現として、このページ送りの演出は非常に象徴的なものになっています。
このアプローチは原作者のなかえ先生も本当に喜んでくださって。作品の核となる部分をしっかり受け取ってもらえたと、その実感が持てた瞬間でしたね。
――音響監督は、安田兼盛さんの奥様である石橋利香さん。絵コンテも羽原さんご夫妻。原作者の先生もご夫婦で絵本を執筆されてきたので、「夫婦キャスティングなのかな?」と思ったのですが……。
意図的ではなく、偶然そうなってしまいました(笑)。本当に不思議なつながりを感じます。せっかくのご縁なので石橋利香さんにも「音響監督としてぜひ参加していただきたい」とお願いしたところ、快くお受けいただけました。お仕事をご一緒するのは初めてですが、非常に実力のある方で、音響制作の在り方そのものも教えていただき色々と助けていただいております。
■「声優2人で全役を演じる」津田健次郎×能登麻美子が生む“読み聞かせ”の表現
――そして、声優を務めるのが津田健次郎さんと能登麻美子さん。このキャスティングの理由は何だったのでしょうか?
制作方針を固めていく中で、実は一つ、かなり早い段階から自分の中で決めていたことがあって。それが“声”でした。当初から「声のメインは津田健次郎さんしかいない」と考えていたんです。
――それは何故?
より正確に言うと、今回のキャスティングで最初に決めていたのは「男性声優1人と女性声優1人、2人だけで全キャラクターを演じてもらう」ということでした。この想いは、原作をお預かりした段階で自分の中ではすでに芽生えていたものです。
というのも、自分の原体験として大きかったのが『まんが日本昔ばなし』の存在でした。あの作品のように、語り手が物語を紡いでいくことで、自然と情景が立ち上がってくる。そんな“読み聞かせ”の感覚が、『ねずみくんのチョッキ』という作品には合うと思ったんです。
本来この物語は、お父さんやお母さんが子どもに読み聞かせるような体験の中で受け取られてきたものでもある。だからこそ、あえて声の表現も最小限の人数で行ってもらいたいと考えました。シンプルな絵だからこそ、音、特に“声”のあり方もシンプルであるべき。その制約の中でどこまで豊かな表現ができるのか、そこに挑戦したいという思いが、最初から強くあったんです。
――なるほど。「演じる」ではなく「読み聞かせる」が重要だったのですね。
「声優ってやっぱりすごいんだぞ」ということを、あらためて伝えたい思いもありました。だからこそ、男性1人・女性1人で全キャラクターを演じるというフォーマットを受け入れてくれる監督でなければ成立しない。そこは最初からはっきりしていて、羽原監督にも「キャストはこの形でやりたいと考えています」とかなり早い段階でお伝えしました。その男性声優というのが、津田健次郎さんでした。
2011年の『TIGER & BUNNY』でご一緒して以来、津田さんとはご縁があって。今回の企画をお伝えしたところ、意図やチャレンジ性に強く共感してくださって「ぜひやりたい」と言っていただけました。今、第一線で活躍されているからこそ、あえて“原点に立ち返る”ようなシンプルかつ多彩な表現に挑むという点に強く惹かれてくださったのかなと思います。

――女性声優に能登さんを選んだのはどんな理由が?
今作は“2人だけで全役を演じる”というものなので、何よりも大事になるのが“呼吸”なんです。どれだけ実力のある声優さんでも、単純に売れっ子同士を組み合わせれば成立する、というものでもない。信頼関係ができていないと上手くいかない。だからこそ、津田さんが信頼している方で、なおかつ僕自身も一緒にお仕事をしたことがある方にお願いしたい、という思いがあったんです。そんな中で、津田さんから名前が挙がったのが、能登さんでした。
能登さんには『ケロロ軍曹』のモアちゃんでお世話になりましたし、近年では『機動戦士ガンダム 水星の魔女』での母親役など、幅広い表現力をお持ちであることはよく存じ上げています。ヒロインのねみちゃんにピッタリなのは言わずもがな、今回のように“語り”に近い繊細な表現も、間違いなく成立させてくださると確信があった。そこで正式にオファーをさせていただいたところ、快諾していただきました。
――2人のアフレコはいかがでしたか?
まさに“これぞプロの技”という言葉しか出てこないものでした。贅沢なものを見させてもらった、という感覚でしたね。キャスティングに自信はありましたが、ホッとした瞬間でもありました。
スケジュール的にはかなりタイトで、別々に収録するという選択肢もあったのですが……「この作品は一緒に収録しないと意味がない」という判断で、そこは最後までこだわりました。
――津田さんと能登さんだとわからないような声の表現もあって、先ほど尾崎さんの言った“声優のすごさ”をさっそく感じさせてもらいました。
でしょ? 『TIGER & BUNNY』のファイヤーエンブレムというキャラクターもそうだったんですが、津田さんっていわゆる“ツダケンの声”とはまったく違う表現もできる方なんですよね。その“声の幅”に関してはすごく理解していたので、今回の挑戦も成立するはずだという確信はありました。
ただ、ねずみくんという年少のキャラクターを表現する点については、これまでのイメージとはかなり違うアプローチになるので、そこは慎重に詰めていく必要がありました。事前にしっかり役に向き合っていただいて、こちらからも「もう少しこういうニュアンスで」と細かく調整を重ねさせて頂きました。結果として、“津田健次郎がねずみくんを演じる”ということに対して、誰もが納得できる形にたどり着けたと思います。
■シンプルな世界に“リズム”を!スカパラが彩るエンディング
――主題歌もこれまた豪華! 東京スカパラダイスオーケストラによる「グッドラック!マイフレンド feat.ムロツヨシ & さかなクン」となります。
主題歌については、ポプラ社の片岡桃佳プロデューサーからの提案がきっかけでした。作品のテイスト的には「柔らかくて温かみのある音楽が合うだろう」ということで、癒し系のアーティストも候補には挙がっていました。
ただ一方で『ねずみくんのチョッキ』は“シンプルさ”が魅力の作品ではあるものの、すべてを穏やかで静かなトーンに寄せる必要はないとも考えていました。親子で楽しんでもらうエンターテインメントとして成立させるためには、“リズム”や“高揚感”があってもいい。
この作品は、必ずしもわかりやすいオチばかりではなくて、少しシュールだったり、余韻を残すようなエピソードもあるんです。そういうときに、全体をエンターテインメントとして包んでしまう懐の広い楽曲があれば作品がきっちり締まる。
そんな中で提案いただいたのが、東京スカパラダイスオーケストラさんでした。一見すると意外な組み合わせにも感じるんですが、むしろそのリズミカルで開放感のあるサウンドが、作品全体の空気をいい意味でリセットしてくれるんじゃないかと考えたんです。エピソードごとの余韻を受け止めつつ、見ている人の気持ちを軽やかにしてくれる。そんな役割を担ってくれる存在として、すごくハマるのではないかと。
――楽曲に合わせてねずみくんが踊る映像もとても印象的です。
エンディングでねずみくんを躍らせることは、早い段階から決めていました。羽原監督にお話しする時も、NHKエンタープライズさんにプレゼンするときも、決まり文句のように繰り返していたんです。「子どもたちが自然と体を動かしてしまうような、踊れる楽曲にしたい」と。
老若男女が口ずさめて、思わず体が動くようなリズミカルな楽曲にすること。そして作品のシンプルさを活かしながらも、エンターテインメントとしてしっかり広がっていくこと。その最初のイメージがあったからこそ、ポプラ社さんから東京スカパラダイスオーケストラさんという提案をいただいたときに「それは確かにありだな」と腑に落ちたんだと思います。最初に描いていたゴールと、結果的にしっかり繋がる選択だったんですよね。
――また、今作は劇伴(BGM)にもこだわられているとお聞きしました。
はい!そして、その劇伴を手がけているのが、Selin(セリン)という作曲家です。トルコと日本のルーツを持つ若いアーティストで、先日大学を卒業したばかりなのですが、とにかく才能がずば抜けているんです。楽器やボーカルやダンスにも長けているうえに、作曲の幅も非常に広い。アクション性のあるものから『ねずみくんのチョッキ』のような繊細で温かみのある世界観まで、しっかりと表現できるんです。
彼女との出会いは、昨年までソニー・ミュージックエンタテインメントに在籍されていた音楽プロデューサー・篠原廣人さんからの紹介でした。それ以来、もし自分がプロデューサーとして自由に作品を作れる立場になったらぜひ一緒にやりたいと思っていたんです。いまとなっては『ねずみくんのチョッキ』の世界観を支えるとても大切な要素として欠かすことが出来ません。本当に素晴らしい楽曲を紡ぎ上げてくださいました。
■子どもにも大人にも届く“懐かしさ”と“不条理”が共存する物語

――昨今のキャラクタービジネスを見ると、老若男女に受ける作品=ブラックユーモアのある作品、といったイメージがあるのですが。
おっしゃる通りです。そして『ねずみくんのチョッキ』にも、すごくナチュラルにその要素が入っているんですよね。原作自体がそういう力を持っているので、アニメ側で過剰に脚色しなくても、十分に面白い内容になっています。ただ一方で、見た目はどうしても“絵本らしいシンプルさ”が前面に出るので、「子供向け作品」と捉えられてしまう可能性もある。そこはやっぱり一つの課題だと思っていました。
だからこそ、津田さんや能登さんのキャスティングには、そういった意味での“入口”としての狙いもありました。「あの2人がやっているなら見てみようかな」と思ってくださる大人の方も、きっと一定数いらっしゃるはずなので。
実際、見ていただければ面白さは伝わると思いますし、むしろクセになるような余韻のあるエピソードも多いんです。内容そのものは、しっかり大人にも届くものになっている。しかし「見ればわかる」というだけでは、なかなか見てもらえない時代でもある。だからこそ、放送枠の設計や、キャスティング、そして“2人だけで全キャラクターを演じる”というフックなど、「ちょっと見てみようかな」と思ってもらえる仕掛けを丁寧に積み重ねていく必要がありました。
――大人に刺さるポイントとして、昨今のリメイクブームや平成ブームのような「懐かしさ」がフックになる作品だとも思いました。
そこはメインの狙いではないにせよ「そう感じてくれる方がいたらいいな」とは思います。長く愛されてきた作品なので、今の子どもたちだけでなく、かつて読んでいた世代、いわば三世代に届く可能性のある作品だと思っています。だからこそ「小さい頃に読んでいた」という方々にもぜひ見ていただきたいですね。
同時に、その方々の中にある“大切な記憶”を壊したくない、という思いも強かった。もしアニメとしてのキャラクターデザインや表現が大きく変わってしまったら、「自分の好きなねずみくんじゃない」と感じられてしまうかもしれない。そうではなくて、それぞれの人の記憶の中にあるねずみくんを、そのまま動かしてあげたい。そんな感覚に近かったと思います。
そうすることで、リアルタイムで原作に親しんでいる子どもたちは「絵本のキャラクターがそのまま動いている!」と喜んでくれるでしょうし、大人にとっては「懐かしいあの世界が、そのまま息づいている」と感じてもらえるはずです。決して、いわゆる昭和・平成ブームに乗って企画したわけではありません。50年以上にわたって読み継がれ愛されてきた作品だからこそ、これからも時代を超えて行けるでしょうし、それぞれに作品を支えてくださっている方々の期待には、しっかり応えたいと思っています。
■Creadom8が目指す、世代を超えて届く作品づくり

――『ねずみくんのチョッキ』以外に、Creadom8が今後予定しているものはあるのでしょうか?
現在いくつかの企画が同時に動いていて、発表のタイミングは少し先にはなるのですが、全体としては“幅広い世代に楽しんでもらえる作品”を意識しています。男女問わず、子どもから大人まで楽しめるもの。中には、世界的に知名度のあるタイトルも含まれています。方向性としては、セクシャルな要素やバイオレンスで引きつけるような過度に刺激的な作品ではなくて、見たあとに気持ちが温かくなったり、楽しくなったりするような、エンターテインメント性の高い作品を形にしていきたいと考えています。今後はアニメーションの制作に加えて、自社での商品化をはじめとしたIPの事業展開にも力を入れて参ります。
原作もののアニメ化は引き続き重要な柱ではありますが、同時にオリジナルIPの創出にもこだわっていきたいです。今の時代、オリジナル企画を成立させるのは簡単ではありません。それでもやはり、自分たちの想いを込めたオリジナルの作品を世に送り出していくことには大きな価値があると考えています。
――最後に、放送を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
本当に今回の作品は見どころが多いんです。まずは津田健次郎さんと能登麻美子さんによる演じ分け。たった2人で全キャラクターを表現しているとは思えないほどの幅があって、声優という仕事の奥深さをあらためて感じてもらえると思います。
そして、“ページをめくるようなカット切替”をはじめとする羽原監督ならではの様々な演出。絵本を読んでいる感覚のまま、自然に映像作品としても成立している、そのバランスは大きな魅力のひとつです。映像面では3DCGでありながら、“CGっぽさを感じさせない”表現にもぜひ注目してほしいですね。実はかなり高度なことをやっていますが、それを感じさせないCG制作陣のすごさ。
また、効果音には生の自然音を収録して当てていたりします。そういった制作の裏側も含めて楽しんでいただけたらと思います。
音楽面では、東京スカパラダイスオーケストラさんによる主題歌とSelinさんの劇伴が、作品全体をグッと引き上げてくれています。
また、エンディングのねずみくんとねみちゃんのダンスは、振付の第一人者・堀広希さんが担当してくださいました。それをCGディレクターの安田兼盛さんが超絶キュートに映像化してくれていますので、見て・踊って、様々な形で楽しんでいただけると嬉しいです。
多くの方にとって『ねずみくんのチョッキ』というと、第1巻のエピソードの印象が強いと思いますが、実はそれ以外にも魅力的なお話がたくさんあります。どれも味わいがあって、時にユーモラスで、時に少し不思議で。そういった多彩なエピソードにも注目していただきたいです。きっと、子どもから大人まで、それぞれの形で楽しんでいただけると思います。
――ありがとうございました!
TVアニメ「ねずみくんのチョッキ」
放送:NHK Eテレ
毎週土曜日 あさ9:30~
2026年4月4日 放送開始











