庵野秀明監督の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』コーナーには綾波レイではなく、庵野監督自身の手による第3新東京市のレイアウトが展示してあるし、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』では草薙素子のバックにあった重厚な未来都市(香港がモデル)の背景画とレイアウトが美術品として額装されている。この作品と『機動警察パトレイバー the Movie』は小倉宏昌氏の描いた背景画という展示物の共通性がつないでいる。 加えて両作品のロケハンに撮影された樋上晴彦のコンセプトフォトが、東京や香港の実景とアニメ映像上に再構築された「世界観」との関連性を訴えかける。庵野秀明監督が撮った東京のロケハン写真も展示されているし、六本木ヒルズ用に制作された押井守監督の空撮実写短編『東京スキャナー』も上映され、「生命体としての都市に対するアニメクリエイターの視線」が重層的に浮きあがっていく。
そんな高度な展示の中では、渡部隆氏による仕事の底力がトータルに提示されたことも特筆すべきであろう。渡部氏は20数年にわたり、「これぞ」というSFアニメの劇場作品で高密度なデザインを提供し続けてきた。この展覧会でも『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセンス』の端正な美術設定やレイアウト、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの浄化プラントなどの美術設定が展示されている。さらに同作の使徒用原案に加え、アイデアノート上の生体とメカニズムが融合したようなスケッチも多く展示され、目をひいた。私物に刻まれた渡部氏の発想の結晶は、筆者も初見で驚かされた。