成長するスペインのアニメーション第1回 [伊藤裕美] | アニメ!アニメ!

成長するスペインのアニメーション第1回 [伊藤裕美]

バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催 EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア 成長するスペインのアニメーション

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≪バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催≫
EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア
成長するスペインのアニメーション

[オフィスH 伊藤裕美]

6月中旬フランスのアヌシーで、世界最大規模のアニメーション映画祭Annecy 2015とアニメーション見本市MIFAが開催され、スペインが特集国として脚光を浴びた。30周年を祝ったMIFA(6月17日~19日)には264名のバイヤーを含む2,680名、555社が参加した
アヌシーに先立つ、6月1日~3日にはバルセロナでクロスメディアの新プロジェクトをピッチする、Cartoon 360(カートゥーン360)が開催された。ヨーロッパ・アニメーションの三大制作国の一つ、スペインに24か国から約150名のプロデューサー、インベスター、バイヤーらが集った。ドイツのウェブカートゥーンがクラウドファンディングで2,600万円を集めテレビシリーズへ進出するなど、若手プロデューサーのトランスメディア・プロジェクトは活気を帯びる。ヨーロッパのトランスメディアの最新動向と、成長するスペインのアニメーション界を紹介する。

第1部 スペインのアニメーション

■ スペインのBRB、『ワンワン三銃士』の3DCG長編リメークを中国と共同製作

スペインを代表するアニメーション製作会社、BRB International/Screen 21(BRBインターナショナル/スクリーン21)のCEO、カルロス・ビエルン氏がアヌシーMIFAで、中国のMili Picturesと3DCGアニメーション長編『Dogtanian and the Three Muskehounds(邦訳:ドグタミアンと三銃士)』を国際共同製作すると発表した。アレクサンドル・デュマの「ダルタニャン物語 ― 三銃士」を原作とし、製作予算800万米ドル(約10億円)規模、2016年末の完成を目指す。
ドリームワークスの『カンフー・パンダ』と同じファミリー層をターゲットに国際配給するBRBは、1980年代に日本アニメーションと、同じ原作でテレビシリーズ『ワンワン三銃士』を共同製作した。しかし、今回は中国を国際パートナーに選んだ。

1972年にライセンス会社として起業したBRBは、日本の『マジンガーZ』や『アルプスの少女ハイジ』などを扱った後、1980年に制作スタジオを起ち上げ、日本アニメーションと共に『リトル・エル・シドの冒険』、『ワンワン三銃士』、『アニメ80日間世界一周』といったテレビシリーズを製作した。
その後日本アニメーションとの関係は切れたが、韓国、中国、フランス、イタリア、英国、そして米国と組んで国際展開できるテレビシリーズを共同製作・共同開発し、実績を高めてきた。「国際共同製作がリクープできるスキーム」とビエルン氏は言う。『ドグタミアンと三銃士』のほかにも、米国のワインスタイン・カンパニー(The Weinstein Company)と、『Gnomes(邦訳:ノーム)』の3DCG長編とテレビシリーズのリメークが進行中だ。

■ 中国・韓国を選ぶ、スペイン大手スタジオ

日本アニメーションとの関係が深かったBRBなので、旧作テレビアニメのリメークなど日本の潤沢なIPの活用の希望はある。しかし「日本の制作会社とはコミュニケーションの問題がある」と、バルセロナのスタジオで開発指揮を執るホセ・ウチャ氏は言う。1980年代から同社に勤める、スタジオ・ディレクター(クリエイティブ・ディレクター)のト二・ガルシア氏も「日本アニメーションからスペイン語と英語が堪能だった日本人スタッフが抜けたことで、同社との関係が薄れた」と振り返る。
また、国際的に重視される子ども・ファミリー市場で主流の3DCGものをアジアと組むとなると、中国や韓国を選ぶと言う。『Larva』をヒットさせた韓国のTUBAnはコミュニケーションと3DCG技術ともに優れおり、『Vicky & Johnny』を共同製作したとのことだ。これまでに、『KAMBU』でBLUPIN、『Bernard』でRG Animation StudiosとEBS、『Canimals』でVoozclubというように韓国との共同製作は活発なようだ。
ウチャ氏は「日本の強みは2D/手書きアニメーション」と言う。ビエルンCEOによると、「日本風アニメで」という注文があった、サッカーのリアル・マドリードCF関連の映像は日本の制作会社と組むことになりそうだ。

■ ヨーロッパ第三のアニメーション大国、スペイン

今年、欧州委員会の依頼でEuropean Audiovisual Observatory(欧州視聴覚オブザーバトリー)が2010年~14年の期間のヨーロッパのアニメーション産業動向を調査し、「Focus on Animation」という冊子にまとめた。これまでEU全体と各国の詳しい調査がなかったが、欧州委員会がEU域内の経済活性、域外への輸出そして若者の雇用創出に果たすアニメーション産業の役割に注目する証だろう。
スペインは、人口4,650万でアニメーション映画の年間観客動員数は1,200万人を超し、ロシアを含めたヨーロッパで5位の規模だ。国内の制作/製作会社や配給会社は約200社、5,000名強がアニメーションの制作と流通に従事する。

2012年には3DCGのアドベンチャーコメディの『Las aventuras de Tadeo Jones(邦訳:タデーオ ・ ジョーンズの冒険)』が275万人を動員し、スペインのアニメーション長編の新しいページを開いた。『トイ・ストーリー3』(2010年)には及ばないものの、『アナと雪の女王』(2013年)を凌ぐ大ヒットとなった。2012年のスペイン経済危機がアニメーション制作にも影を落としたが、昨年には危機を脱し、プロデューサーは攻勢に転じた。来年は少なくとも長編4本が公開される予定だ。
スペインの製作会社/プロデューサーは独立系が主で、製作の9割が共同製作だ。国際共同製作も活発で、7割を超すという。相手国はスペイン語圏、EU諸国、アジア(中国、韓国など)が多い。より多くの外資を招き入れようと、スペイン政府は昨年11月に税優遇措置を改善した。

■ スペインのテレビアニメーション

スペインの映像産業の拠点はマドリッドとバルセロナに二分される。マドリッドには長編映画、バルセロナにはテレビアニメーションとゲームなどのデジタルコンテンツ系が集まる。テレビは総合/エンタテインメント・チャンネルの6局(TVE、La2、Tele5、Canal+、Cuatro、La Sexta)、子ども向けチャンネルの4局(Neox、Clan TVE、Disney Channel、そしてカタルーニャ州の公共放送TV3/Super3)がアニメーションを放送する。
プロデューサーにとって、国営放送のテレビション・エスパニョーラTVE(本部:マドリード)とテレビション・ダ・カタルーニャTV3(本部:バルセロナ)が主要な共同製作パートナーになっている。

「Focus on Animation」によると、TV3を除いた子ども向けチャンネルが2013年に放送したアニメーションを製作国別に見ると、スペイン製が13.1%、ヨーロッパ製が23.5%、それ以外が63.5%、スペイン系子ども向けチャンネルでもスペイン製17.3%、ヨーロッパ製19.9%、それ以外62.8%となる。
米国アニメーションが圧倒するのは他国と変わらないが、スペイン/ヨーロッパ以外が6割を超すことから、「スペインでは日本アニメが人気」という事情もわかる。
しかし今後はヨーロッパ勢の増加が予想され、さらにスペイン製のシリーズや長編の増加は必至だ。アヌシーMIFAにスペインは46社を出展させ、計114本の長編、テレビシリーズ、短編の新プロジェクトがピッチされた。Cartoon 360でピッチされたプロジェクトの半数にスペインが絡み、スペイン・アニメーションは上り調子だ。

[/アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載記事
《オフィスH 伊藤裕美@アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.biz》
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