『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』アッカー監督インタビュー (前編) | アニメ!アニメ!

『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』アッカー監督インタビュー (前編)

『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』 シェーン・アッカー監督インタビュー (前編) 取材・構成:氷川竜介(アニメ評論家)●驚きのビジュアル、斬新な世界観の『9』

レビュー 実写
『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』 
   シェーン・アッカー監督インタビュー (前編)


取材・構成:氷川竜介(アニメ評論家)

●驚きのビジュアル、斬新な世界観の『9』

 公式サイトでは「目覚めると、世界は終わっていた」というキャッチコピーと、振り向いた異形の生命体をとらえたキービジュアルがまず目を引く。丸い頭部に望遠鏡のようなレンズの目玉。麻袋のような身体には縫い目がある。より目立つのは、荒涼と広がる大地に、うっすらと見える荒れ果てた文明の残滓。そして迫ろうとしている機械化された怪物である。
 この構成だけで充分に興味を喚起するユニークな作品『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』は、不思議な世界観それ自体と人間ではないキャラクターが主役のCGアニメーション映画である。物語は人類が滅亡し、背中に「9」とナンバリングされた小さな主人公が目覚めるところからスタートする。周囲にあるのは、破壊されつくした文明の残骸ばかり。世界はなぜこのような状態となったのか。そして、誰が「9」に生命を吹き込んだのか。やがて「9」と仲間たちとの遭遇を通じ、驚くべき絶望と希望が同時に浮かび上がり始める。そして「9」の果たすべき使命もまた……。
 比較するべき作品もなかなか見あたらない、このユニークな作品は、人間の中にある不思議な感情の触媒となり、勇気や感動を観客の心に与えてくれる。明らかにアニメーションだけが描けるダークな寓話なのである。
 本作をつくりあげたショーン・アッカー監督は39歳。2004年、UCLAの卒業制作として作りあげた11分間の短編『9』がアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされ、世界中の映画賞を受賞した。さらにティム・バートン監督の目に止まり、長編化のプロジェクトが立ち上がる。短編バージョンのエッセンスと世界観、そして感興をそのままに、エンターテインメント性を強化して大事な生命のメッセージを伝えてくれる。アニメーションを語る上で、まさに必見の作品と言えよう。
 公開にあわせて来日したアッカー監督へのインタビューをメインに、本作のアニメーションとしての魅力に迫ってみたい。

●死んだ世界の中に生命の希望を描く

 本作には人形の縫い目、あるいは破壊された文明のヒビ、サビ、擦り傷などなど人為的に汚れた質感がビジュアルとして、まず観る者を圧倒する。明らかに一度死んだ世界である。そこに動く者たちは、滅亡の中に希望を見るシンボルだ。だが、主人公にとって決して善良なものばかりではない。敵対する機械化されたモンスター。そして巡り合えた仲間たちも、決して一枚岩ではないのだ。
 こうしたある種のエポックに近い世界観は、物語と一体となったアート的な考え方が生み出したものだ。アッカー監督がそのために重視したものとは何だったのだろうか。

「私たちが苦心したのは、3Dモデルで作られた描かれる登場人物たちが、いかにその世界においてリアルに見えるように描くかという点です。観客が彼らがそこで現実的に生きているかのように信じてほしいと、祈るようにして制作していました。技術的に目指したものは、いわば2Dと3Dの融合のようなものです。3Dのキャラクターのいる世界は、ほとんどマットペインティングの技法で描かれた2Dなのです」

 油絵のようなタッチで描かれた世界。それは手描きの質感にこだわった結果だったのだ。その息づかいは、世界全体がまだ生きているかのようにも見せていく。

「私たちはいつも有機的な視点にこだわっていました。そしてすべてのシーンで3Dのセットを組むよりも、効果的なシーンでは平面に絵を描くことがベターだと考えました。手で描くだけではなく、ずいぶん写真も撮りました。実物の方が、デジタルデータとして用意されたテクスチャよりも良い効果をもたらすのです。コンピュータを多用しないというのは、私たちの芸術的こだわりですね」

 世界が滅亡した結果の表現として、多くのアイテムには汚しが入り、多くのものにはスクラッチのような傷がつけられて、強い印象を残す。それもまた、監督の芸術的なこだわりの一環だったのだろうか。

「それは人やキャラクターの手が触れたことを表現したかったからです。人間が作ったものの末路を置くことを通じて、現実世界の地球の歴史を示そうという意図もありました。人類がいかに繁栄し、動物のトップに君臨したとしても、いったんその地位が崩れ去って滅びた後は、建造物も倒壊して自然にふたたび帰ろうとするでしょう。だから、あの廃墟も人間の作りだした光景と言えます。“死”の中にあえて“生”を表現することで、自然を違った方法で表現したわけです」

 そして人形のキャラクターたちは、彼らを取り巻く環境を自然だと理解しているかのように行動する。その行動が見せつけるバイタリティは、この映画の大きなポイントだ。

「廃墟のような世界で、灰の中から立ち上がるような力強い気持ちを表現するためには、彼らがこの世界にいろんなもので縛りつけられていることも見せる必要がありました。だから高さを描き、重力や炎などの表現にもこだわっています。自分で努力を重ねてそうした束縛を振りきって何かをなした後にこそ、次の進化への段階が期待できるはずだと思うからです」

●滅亡した世界と小さな人形たち

 世界を滅亡に導くもの。滅亡後に現れたもの。それは機械化された生物とでもいうべきモンスターたちである。中にはSFの元祖H・G・ウエルズの『宇宙戦争』のウォーマシンや、第一次世界大戦で用いられた毒ガス兵器のイメージが投影されたものもある。そして人形に生命を吹き込む装置のような、ややアンティークな世界観は、現実の歴史とは少し違った様相を示している。

「私は一種のパラレル・ワールドとして描いています。もし過去の世界大戦中に私たちが手にいれなかったようなブラックボックスが発明され、別の産業革命が起きたとしたら……という世界観です。この世界では人びとは機械への過度の信頼をおき、機械の時代を迎えています。結局のところ、機械が重要視され過ぎて人間性の視点を失った結果、滅亡してしまった世界というわけです。機械のモンスターたちのデザインコンセプトとしてはスチーム・パンクの類で、産業革命の蒸気機関を意識しています。何ががどのように動くのか、カムやシャフトやワイヤーなどのメカニズムが露出していて、見た目は決して美しくはないけど機能的。そこが面白いところですね」

 「9」たち人形キャラクターたちは実にユニークだ。そのシンプルなデザインに対し、人間的な所作は実に複雑でユーモラスで、次第に生きた人間に見えてくる。そのデザインにこめられたものとは?

「目の基本的なコンセプトは望遠鏡で、フィルムで記録するカメラのようでもあるし、細かいものを見つめる窓のような役割を持たせています。顔の中でも目を格別に大きくデザインしたのは、私たち人間を誇張して表現するためです。敵対する大きな機械は重くて冷たい動物として表現していますから、そのモンスターとのコントラストを引きたてる意味もあります」

 麻袋のような独特の手触りを感じさせるキャラクターの質感は、映画を見終えても心に残る。身近な品物で構成されたパーツは、どんなきっかけに生まれたものだろうか?

「今から10年ぐらい前、ストーリーボードを描くうちにインスピレーションが訪れました。それはダークな世界で古く壊れた人形が生命を持つというアイデアでした。私は“無垢と幼児性”を対比させたテーマが大好きだったので、それを思いついたダークなシチュエーションに持ち込みたいと思いました。たとえひどく暗い世界でも、人形が戦って生き残ろうとしていく。その成功に向けた努力や行動に感情移入してもらえるよう、あのように麻の手触りを感じさせるキャラクターを設定してみたわけです。私はパペット(人形)アニメーション、特にチェコの作品が大好きなんです。日常生活で目の前にある品物が生命を得て動き出すこと自体に驚きがあって、とても刺激になりますね」

/後編に続く

『9<ナイン> ~9番目の奇妙な人形~』
公式サイト /9.gaga.ne.jp
5月8日(土)より新宿ピカデリー他全国ロードショー
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原案/監督: シェーン・アッカー(アカデミー賞®短編アニメーション賞ノミネート)
脚本: パメラ・ペトラー『ティム・バートンのコープスブライド』
製作: ジム・レムリー『ウォンテッド』、ティム・バートン『チャーリーとチョコレート工場』、ティムール・ベクマンベトフ『ウォンテッド』
キャスト(声): イライジャ・ウッド、ジョン・C・ライリー、ジェニファー・コネリー、クリストファー・プラマー、クリスピン・グローヴァー、マーティン・ランドー、フレッド・ターターショー

提供/配給:ギャガ powered by ヒューマックスシネマ
原題:9/アメリカ映画/2009年/カラー/ヴィスタ/80分/ドルビーデジタル
《animeanime》
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