アニメ・マンガに目がない「アニメ!アニメ!」編集部が、まだアニメ化されてはいないけれどぜひ読んでほしいおすすめマンガを紹介する連載<おすすめマンガ手帖>。
今回は、1976年、秋田書店の「別冊ビバプリンセス」で連載がスタートした、青池保子先生による名作『エロイカより愛をこめて』をご紹介。「月刊プリンセス」や「プリンセスGOLD」などへ掲載誌を移しながら長期連載され、全39巻(文庫本全23巻)、累計発行部数はなんと1,000万部超え! 今もなお多くのファンに愛され続けている、まさにレジェンド級の作品です。
あまりにも多くの読者を魅了し、少女マンガ史に燦然と輝く金字塔として名を刻んだこの名作。もし、もしもアニメ化される日が来たとしたら……間違いなく、とんでもないお祭り騒ぎになるはず!

◆少女マンガにガチのスパイ戦!? 伝説は“途中から”始まった
本作がどんな物語かというと、主人公はイギリスの由緒正しき貴族にして、世界中を股にかける華麗な美術品泥棒・怪盗「エロイカ」。そしてもう一人の主人公が、西側諸国の防衛を担うNATO(北大西洋条約機構)の冷徹なスパイ「鉄のクラウス」ことエーベルバッハ少佐です。
本来なら交わるはずのない「美術品泥棒」と「任務第一の堅物スパイ」が、なぜか行く先々で鉢合わせし、時には敵対し、時には(不本意ながら)協力し合い、KGBのエージェント・仔熊のミーシャなどの各国の諜報機関を巻き込んだ世界規模の大騒動を繰り広げる……というストーリー。
でも、ここからが凄いところ。連載当初こそ、超能力コメディ色のある怪盗モノとしてスタートした本作ですが、少佐が登場して以降のあの衝撃といったら! 今でも忘れられません。「少女マンガ」を読んでいるはずなのに、気がつけばまるでハリウッドのスパイ映画みたいな重厚な物語が展開されているんですよ!?
盗聴、潜入、暗号解読、そして息詰まる国際的な駆け引き……。パロディなんかじゃない、完全に“ガチ”なスパイアクション。それが少女マンガ誌で堂々と連載されていたという事実自体が、ものすごいオーパーツ的革新だと思うんです。
徹頭徹尾スパイアクションを貫き通して、いわゆる“少女マンガ的な恋愛”の枠には一度も収まらないんですから! それこそがこの作品の最大の魅力であり、時代をぶっちぎりで先取りしていた凄みなんですよね。
◆ドイツ!ロンドン!モスクワ!石畳の匂いまで伝わってくる! 圧倒的にリアルなヨーロッパの解像度
もちろん、凄いのはスパイアクションだけじゃありません。『エロイカ』の世界観、とりわけロケーションの描写が本当に圧巻!
ベルリンでは緊張と歴史の重さが前に出る。
軍施設では規律と無機質さが支配する。
西側都市は軽いのに、その軽さが逆に不穏。
東側は監視の気配が常にある。
南欧や中東では、熱と生活の密度がそのまま物語になる。
ヨーロッパの情緒あふれる石畳、洗練された西側諸国のヒリヒリするような緊張感、そして常に監視の目が光っている東側諸国の重苦しい空気……。そのどれもが、単なる「背景」で終わっていません。ページをめくるだけで、本気でその場所に“生きている”気分にさせられるんです。
しかも、舞台が変わるたびに「ただ場所が移動した」だけじゃない。国が変われば、ページから漂う“空気”ごとガラッと変わるんです。街並み一つ、建物の佇まい一つが、物語の中で“役割”を果たしている。登場人物たちもその国の空気に完全に支配されていて、読者も一緒にその世界へ引きずり込まれていく……。普通のマンガではなかなか味わえない、圧倒的な世界観の密度に酔いしれてしまいます。
ちなみに筆者、大のオーストリア好きなので「No.14 皇帝円舞曲」には心躍ったものでした。ウィーンのオペラ座、憧れの地・インスブルック、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」の裏話的な会話など心くすぐるものばかり。少佐は初期にハプスブルク家の血も継いでいると言ってましたしね。

◆KGBにNATO…現実の歴史と完全リンクする“規格外のスケール”
そして、絶対に語り落とせないのがここ! この作品、ただのフィクションの舞台装置として「世界」を使っているわけじゃないんです。連載がスタートした1976年といえば、世界は「東西冷戦」真っ只中。少佐が所属するNATO(北大西洋条約機構)と、東側のKGBが火花を散らしていた時代です(もちろんイギリス諜報部MI6も絡みます)。
その現実の国際情勢が変化していく様子を、そのままリアルタイムで物語に落とし込んでいるんです! ベルリンの壁崩壊、激動のソ連崩壊、そして冷戦終結後のNATOの役割の変化や新たな国際問題……。えっ、これ少女マンガだよね!? 近現代史のドキュメンタリー読んでるんだっけ!? って錯覚するくらい、世界の動向を具体的に、かつ克明に描き続けています。
現実の歴史とリンクしているからこそ、西側の緊張感や東側の監視社会の描写がただのファンタジーにならず、圧倒的な説得力を持っているんですよね。この「時代と共に歩んだスケールの大きさ」も、本作が伝説たるゆえんなんです。

◆「恋愛」の枠に絶対収まらない! エロイカという“美しき災害”
そしてエロイカ! もう、このキャラクターがたまらないんです。
彼の本名はドリアン・レッド・グローリア伯爵。イギリスの由緒正しき貴族でありながら、その裏の顔は、世界中を股にかける凄腕の美術品泥棒「怪盗エロイカ」! 豊かな金髪の巻き毛に華やかな容姿、そして何よりその行動原理が「美しいものが好き」という超絶シンプルなもの。でも、そのシンプルさがめちゃくちゃ奥深い! この彼の「好き」という感情が、読めば読むほど癖になるんですよ。宝石、美術品、そして美しい男性――エロイカの審美眼は独特で、そこが最高に面白いんです。なかでも、少佐に対するあの「好き」は、本当に何とも言い表せない特異な感情ですよね。
けどエロイカの少佐への矢印って、いわゆる「恋愛感情」とは明らかに違いますよね。どちらかというと、少佐が「面白すぎる存在」だから猛烈に引き寄せられているだけ。この異常なまでの執着心こそが、エロイカの魅力の根源! 彼に対する感情が既存の「恋愛」という枠に収まらないからこそ、エロイカというキャラクターは底なしに面白いんです。
そして美術品への知識がすごい!かなり綿密なうんちく語ります。正直、筆者の美術史は、このマンガで勉強した部分がかなりあります。このマンガを読まなけれな、ルーカス・クラナッハの「パリスの審判」なんて絵には出会わなかったでしょう。
◆揺れない男が掻き乱される快感! “鉄のクラウス”のたまらない魅力
一方で、我らが「鉄のクラウス」こと少佐。彼の本名はクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐(声に出して読みたくなるこの長さ!)。ドイツ貴族の末裔であり、NATO情報部に所属するゴリゴリの将校です。常に黒のスーツを隙なく着こなし、完璧に“規律”を守って冷徹に任務を遂行する男。
でも、ここがミソ。少佐自身は感情的に揺れることはないんですよ。どんなカオスな状況に巻き込まれても、彼はその「完璧さ」を必死に保ったまま、外堀から少しずつ崩されていくんです(でも部長(上司)と部下への怒りだけは感情的かなぁ?)。
この少佐の姿が、もう本当にたまらなく魅力的で! 「揺れない男が、状況に翻弄されていく」という構図が、読者目線だと不思議なほど“可愛く”見えてきちゃうんですよね。彼がどれだけ冷静沈着で任務に忠実であろうと、エロイカという名の「自由すぎる災害」が直撃することで、彼の築き上げた世界がガラガラと崩れていく……。その崩れっぷりの見事さに、読者はぐんぐん引き込まれてしまうんです。
◆恋愛でも敵でもない。“名前のない関係”が永遠に続く極上の沼

そして何より、この作品が放つ最大の引力は、エロイカと少佐の関係が“終わらない”ことにです。恋愛でもない、友情でもない、かといって単なる敵対関係でもない。この曖昧で、ずっと揺れ動いている関係性が、何十年経ってもまったく色あせることなく、私たち読者に常に新鮮な興奮と快楽を与え続けてくれるんです。
普通の物語なら、どこかのタイミングで関係性が収束して、何かしらの結末を迎えますよね。でも『エロイカより愛をこめて』は、決して関係性に明確な名前をつけないし、終わらせない。この「終わらないまま続く関係」という沼に、私たちは永遠に魅了され続ける運命にあるんです。
◆スパイブームの今こそ! 『エロイカ』のアニメ化を叫びたいワケ
さて、そんな『エロイカより愛をこめて』が、もしもアニメ化される日が来たら……間違いなく、その瞬間を全力で待ち望みます!今の超絶クオリティなアニメ技術を駆使すれば、あの緻密なスパイアクションや、現実の歴史とリンクした重厚な世界観、そしてエロイカと少佐の絶妙な関係性がどれほど美しく映像化されるのか……。想像しただけで胸の高鳴りが止まりません!
現在のアニメ界は空前の「スパイもの」ブーム。『SPY×FAMILY』などの大ヒット作が世間を席巻している今、『エロイカより愛をこめて』のアニメ化が実現すれば、時代やトレンドを軽々と飛び越えた一大センセーションを巻き起こすはずです! スパイアクションの骨太さと、唯一無二のキャラクターたちが織りなす、これまでにない深みを持った神アニメが爆誕するんじゃないか……そんな期待ばかりが膨らんでしまいます。
◆“クソデカ感情”のルーツはここに!? 後のオタク文化に与えた計り知れない影響
さらにオタク目線で語らせてもらうと、『エロイカ』のもう一つの凄まじい革新性は、「恋愛に回収されない関係性」を描き切ったことだと思うんです。これが、のちのBL(ボーイズラブ)的な読み解きや、現代のオタクが愛する「ブロマンス」の大きな架け橋になっているんじゃないでしょうか。
もちろん、この作品は直接的な男性同士の恋愛を描いているわけではありません。でも、エロイカと少佐の関係性が安易な恋愛に収束せず、ひたすらに“ただ続いていく”こと……その絶妙な距離感こそが、のちのマンガやアニメが描く「未確定な関係性」の描写に多大な影響を与えたのは確実です。
エロイカと少佐が築き上げたこの奇跡のような関係性が、今後のアニメ界に波及していくのか。それを考えるのもファンとしてのたまらない楽しみの一つです。
どうか、この熱すぎる思いが、生きてるうちにアニメ化に繋がりますように……!






