アニメ・マンガに目がない「アニメ!アニメ!」編集部が、まだアニメ化されてはいないけれどぜひ読んでほしいおすすめマンガを紹介する連載<おすすめマンガ手帖>。今回ピックアップするのは、リアルなMMA(総合格闘技)の世界を舞台に、歪んだ情念と執念でのし上がる異色の格闘マンガ『レッドブルー』(波切敦/小学館)。
2000年代には大晦日の一大イベントとして「PRIDE」が爆発的なブームを巻き起こし、エメリヤーエンコ・ヒョードルのような「人類最強の男」に列島が熱狂した。現在はアメリカの「UFC」を中心に世界的な人気を誇り、日本でも「RIZIN」や、朝倉未来氏がプロデュースする「BreakingDown」などが総合格闘技ブームを牽引している。
そんな中、2022年から週刊少年サンデーで連載を開始し、2024年にはTVドラマ化も果たした波切敦による『レッドブルー』は、従来の格闘マンガとは一線を画す「独自の路線」を突き進んでいる。

※以下の本文には“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意ください。
ポジティブ勢への反逆!ひねくれ者が格闘技の世界へ
本作は総合格闘技(MMA)を題材にしながら、スポーツマンガの代名詞である「友情」や「仲間」といったワードとは無縁だ。主人公・鈴木青葉は明るいタイプではなく、虚弱、病弱、貧弱で暗くて夢もない。いじめられていた自分を助けてくれた同じ高校の赤沢拳心をぶん殴るという、“歪んだ想い”を押し通すため、MMAの世界へ飛び込んでいく――。
青葉が執着する拳心は、格闘技界の神童と称される存在だ。とことんポジティブな性格で、明るく元気な人気者。青葉とは小学校6年間同じクラスだったが、青葉の名前も存在もまったく覚えていなかった。
そんな拳心は「またいじめられないように俺が鍛えてやるよ」「まず正拳突き教えてやるよ」と親切の押し売り。さらに、「絶対に夢は持ってた方がいいぞ!」「お前 ホント空っぽじゃん!」という悪気のない一言が青葉に火をつける。“ポジティブ勢”を嫌悪する青葉の感情にも、不思議と共感できるよう描かれており、そのバランス感覚が秀逸だ。
格闘技を知らなくても熱くなる勝利への“明確な筋道”
『レッドブルー』が他の格闘マンガと一線を画すのは、格闘技の経験がなくても「なぜその技が効果的なのか」「どうして今、主人公が有利なのか」という理屈がスッと入ってくる点だ。初心者の青葉が、数少ない武器である寝技を軸に、必死に格上の背中を追いかけていく過程には圧倒的な説得力がある。根性論に逃げず、一つひとつの動きに明確な狙いがあるからこそ、読み手は迷うことなく試合の展開を追いかけられるのだ。
特に印象深いのが、指導者からの抽象的なアドバイスを自分なりに噛み砕く場面。「自分の後ろに巨人がいるようなイメージで」といった感覚的な教えを、青葉は「自分の体を大きくしっかりと動かすこと」と自分にしかわからない形に解釈し、血肉に変えていく。この試行錯誤の跡こそが、格闘技の知識以上に、主人公が着実に階段を登っていく手応えを読者に伝えてくれる。
勝利への執念が生む“卑怯”ではない「悪の美学」
本作のリアリティは、技術面以上に「勝負の非情さ」において際立っている。ある試合で青葉は、対戦相手の古傷をあからさまに狙い撃つ戦法を取る。周囲から「卑怯だ」と非難されようとも、青葉は悪役に徹して勝利を奪いに行く。「正々堂々と戦え」と怒る相手の仲間に対し、当の対戦相手は「怪我を抱えたまま出た自分が愚か」と青葉の冷徹さを認める。そして青葉は、嫌われることを厭わず「勝ちたい」という本能を突き通す。
ルールの範囲内であれば何をしても勝つ。一見、人として嫌われる振る舞いかもしれないが、青葉がルールを重んじている描写があるからこそ、その一切の迷いがない選択には格闘家としての揺るぎない姿勢が表れている。
アニメ映え必至!最大の見どころは「MMA甲子園」と「必殺技」
物語の大きな転換点となるのが、全国の高校生猛者が集う「MMA甲子園」だ。青葉が自分とは対照的な格上で華のある選手たちを、地味な寝技でネチネチと追い詰めていく戦いぶりは大きな見所となる。
さらに、プロ編に進むと、奇襲主体だった青葉が、正統派のグラップラーとして成熟していく。その象徴が「三角締め」だ。この技を明確な“必殺技”として据えたことで、試合運びの狙いが鮮明になり、格闘描写の解像度が格段に上がった。「どうやって三角に持ち込むか」という視点で試合を追う楽しみは、アニメ化されたら劇伴や演出とも抜群に相性が良いだろう。
『レッドブルー』は、格闘技のルールを知らなくても楽しめる「逆襲エンターテインメント」。何より普通のスポーツマンガが描く「爽やかさ」とは対極にある“ジメジメした熱”が面白い。「嫌いだったけど、頑張ってるから応援してあげる」と言う子供たちに対し、「僕のこと嫌いだったのにすぐ考えを変えるのはどうかと思うよ」「一度嫌ったら最後まで嫌いなよ」などと言い放つ主人公はこれまで皆無だろう。
原作では、拳心の背中が見えるところまで成長している青葉。2人が激突する頃にはさらなるムーブメントを起こしているはずだ。





