アニメ・マンガに目がないアニメ!アニメ!編集部がまだアニメ化されてないけどおすすめしたいマンガを紹介するコラム<おすすめマンガ手帖>。今回は「月刊コミックゼノン」で連載されていた白石純先生の『魍魎少女』をピックアップ。
2026年2月6日より公開中の映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が順調に興行収入を伸ばしている。上映時間46分と短いながらも、重厚なストーリーやキャラクター同士の関係性が凝縮されており、満足度の高い作品だ。
本作を観た筆者が久しぶりに全巻読み返したのが、「月刊コミックゼノン」で連載されていた白石純先生の『魍魎少女』。舞台も雰囲気もまったく違う2作品だが、共通点もある。それは、「関係性に心を奪われる」魅力的な作品であることだ。2人1組の多様な関係性が登場し、それらが絡み合うことで物語に深みが生まれていく。こうした要素に惹かれるかたには、ぜひ『魍魎少女』をおすすめしたい。

※以下の本文には“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意ください。
◆師匠の身体を探し求める、不死の少女の永い旅路
時は江戸~大正時代。数百年前にバラバラにされて持ち去られた師匠の身体を探し求め、不死の少女・林檎丸(りんごまる)は各地を渡り歩いていた。身体の大半を失ったとはいえ、同じく不死者である師匠は健在。残ったわずかな身体を林檎丸が抱える壺に入れ、旅共に旅をしている。
林檎丸たちの生業は「魍魎屋」。化け物である魍魎を「種」に加工し、便利な道具として売り歩く仕事だ。ときには材料を仕入れるため、そしてときには師匠の身体を奪い返すため、林檎丸は巨大なノコギリで魍魎たちを斬り倒していく。
全編を通して少年少女が大きな武器を振り回して戦う迫力あるビジュアルを堪能できるだけでなく、5話目(第5幕)以降からぐっと色濃くなっていく師弟たちの関係性も魅力的だ。
◆物語の軸となる3つの関係性

本作の中心となる、3つの関係性を見てみよう。まずは師弟関係。林檎丸と師匠の雪之条(ゆきのじょう)、そして雪之条が身体を失う原因となった八房(やつふさ)と弟子であるチカだ。ここで挙げた4人はいずれも不老不死の存在。しかも林檎丸とチカは、それぞれの師匠に命を与えられた者たちだ。長すぎる人生のなかで見いだした生きる意味は、「師匠/弟子のために動くこと」。献身、共依存、自己犠牲、愛……その師弟関係は、さまざまな言葉で言い表せるだろう。
2つ目の関係性は、弟子同士。林檎丸とチカはどちらもずば抜けた戦闘能力を持っており、力が拮抗する相手に出会ったのは初めてだった。チカは雪之条の心臓を持っているため、林檎丸は命を奪おうと何度も戦いを仕掛ける。まるで友人と遊んでいるかのように朗らかに刃を交える2人の戦いを、いつまでも見ていたくなった。
3つ目は師匠同士の関係性だ。雪之条と八房は幼なじみ。家族を亡くした2人は空腹に耐えきれず「双魚(そうぎょ)」という魍魎を食べ、不老不死になる。何百年も2人で旅をし、ときには弟子や家族を迎え入れたこともあった。しかし誰もが自分たちより早く命を終えていく。そんな生活のなかで、雪之条と八房の心も少しずつすれ違っていった。なぜ八房は雪之条をバラバラにしたのか、そしてなぜ大正時代になって身体を返すための事件を引き起こし始めたのか。その真意を知ったとき、筆者は息をのまずにはいられなかった。
◆血と願いが交わる。関係性の三つ巴が切ない
物語が進むにつれ、3つの関係性はだんだんとぶつかり合っていく。たとえばチカが林檎丸たちに、雪之条の頭の隠し場所を明かすエピソード(第5巻~)だ。
これまでは八房の指示で身体の隠し場所を伝えていたチカだが、この件では独断で行動している。そして頭を取り戻した雪之条に対して、八房の計画を阻むよう依頼した。すべては八房の身を守るためのことだったが、その想いは師匠には届かない。
一方の林檎丸は師匠の身体を取り戻せて喜ぶものの、直後に起きた事件のなかで、チカの心臓を奪ったらどうなってしまうのかと迷い始める。どんなときでも師匠を第一に考え、迷いなく敵を倒してきた林檎丸にとって、それは大きな変化だった。初めての友人と、大切な師匠の心臓。そのどちらを優先すべきなのか。最後に林檎丸が選んだ答えはもちろん、チカの決意からも目が離せない。
その後弟子たちに背中を押され、師匠たちはついに本音で対峙する。林檎丸と生きることを無邪気に楽しむ雪之条と、チカとこのまま生き続けていいのかと不安を感じている八房。両者の心はどこまでいっても交わらず、持てるすべてを尽くして戦い始める。
師弟、弟子、師匠。それぞれが互いを大切にするからこそ、想いが対立し、物語が深まっていく。そんな「関係性の三つ巴」が行き着く先は、あなた自身の目で確かめてほしい。
◆7巻で完結する濃密な物語
本作は壮大な時間を描く物語でありながら、全7巻38話と読みやすい長さにまとまっている。街を歩きながら江戸から大正へと時間が移り変わっていく演出や、見開きを大胆に使った戦闘シーンなど、マンガならではの作画も圧巻だ。
また、今回は紹介しきれなかったものの、人当たりのよい眼帯探偵や、オネエ口調の軍曹、大正時代の新たな文化に興味津々なお坊さんなど、個性豊かな面々も多い。魍魎と不死者たちが織りなす怪しくも華やかな世界を、のぞいてみてはいかがだろうか。きっとあなたに刺さる“関係性”にも出会えるはずだ。




