2023年3月18日、総合学園ヒューマンアカデミー新宿校は、声優を志す人を対象に「プロダクション業界セミナー」を開催した。
今回、講師として招かれたのは、田村ゆかりさんらが所属する声優事務所「アミュレート」を運営する株式会社MAGES.マネジメント事業本部・本部長/音響制作部・部長の斉木隆さん。声優として成功するために大切なことや、オーディション時のポイントなど、ここでしか聞けない貴重な話を披露したほか、模擬オーディションによる実践的なアドバイスを行った。今回はその内容をレポートする。
■うまく芝居をしようとしないほうがいい
業界セミナーの前半では、声優として成功するための心構えを中心に話が展開された。
斉木さんは、全てのオーディションに共通して大切なことは“第一印象をよくすること”だという。そのためには清潔感が大切で、服装や髪型、所作も含めて、印象がよくなることで損をすることはないはずだと話した。
オーディションに合格する人と不合格の人の差はなにかと問われた際には「求められることは現場によって異なるが、うまく芝居をしようとしないほうがいい。うまくやろうとしている人の芝居は頭に入ってこない。それよりも、役に自分を投影して入り込んで芝居する人のほうが印象に残る」と回答した。
また、斉木さんは、声優として成長するためにアニメやゲーム以外のものにも積極的に触れてほしいと若い受講者たちに語りかけた。「役者には多くの引き出しが必要なので、いろいろなことを知って経験しておくことが重要。社会人になる前のほうが自由な時間が多いから、いろいろなことに興味を持ってほしい」と助言。
加えて、優秀な声優は自分の耳で芝居が良かったかを判断できる人が多く、そうした耳を養うためにオーケストラを聞くといいと語った。なぜなら、オーケストラは音域が広く、多種多彩な楽器が鳴るため、聞き分けようとすることで耳が鍛えられるのだそうだ。
さらに、新人声優になってからの心構えとして、とにかく挨拶することが大事だと訴えた。アフレコ現場にはいろいろな人が出入りするため、プロデューサーなど決定権のある人に悪印象を持たれてしまうのはキャリアにとってマイナスだからだ。
そして、声優の仕事量に関しては、近年のコロナ禍でアフレコ現場に起こった変化によって、人気のある声優に仕事が集中する傾向があり、若手が活躍しにくい状況が続いていたが、現場も徐々にコロナ前の状況に戻そうという動きになりつつあるため、少しずつ改善されていくのではと語った。
■状況・距離感・関係性…自分なりにキャラを紐解いて
セミナーの後半では、模擬オーディションが行われた。
セミナー参加者を5人ずつのグループに分け、1人ずつ30秒の自己PRと短いセリフを読み上げる形式で行われ、斉木さんが自己PRと芝居それぞれに講評していく。
参加者は高校生の演技未経験者から、現在養成所に通っている人まで様々。みな、懸命に考えた自己PRと芝居を披露した。
斉木さんは講評の中で、「登場人物がどこに立っているのか、あるいは座っているのか、相手との距離感や関係値の深さなどを考えて芝居をすることが大切。ただセリフを読むのではなくシチュエーションを自分なりに紐解いて演じてみてほしい」などと助言。
また、日常的でない世界観の台本なら、「デフォルメした読み方をするなど工夫してよい。句読点や三点リーダーに惑わされることなく、登場人物がどういうテンポでしゃべるのかを想像しながら演じてみるように」と参加者にアドバイスした。さらに、声優は声で芝居するが、声は身体全体を使わないと出ないものなので、身体を使うことを意識するようにとつけ加えた。
ほかにも、役者さんは事務所に所属していても個人事業主になる人が大多数となるため、セルフマネジメントの意識は重要だ。モチベーションを維持するため、ガス抜きできる方法をいくつか持ったほうがいいとのこと。声優として成功するためには運も必要だが、努力した人にはその分チャンスも多くなる。大変なこともたくさんあるが、芝居を生業にしていると普通の人にはできない素晴らしい体験もたくさんできると語った。
斉木さんは最後に「日本の声優の技術は大変高いもので、この文化は素晴らしいものだと思う。みなさんにこの素晴らしい文化をぜひ継承していってほしい」とエールを送って、セミナーを締めくくった。
総合学園ヒューマンアカデミーでは今後も声優志望者に向けたイベントを開催予定。声優として作品づくりに携わりたいと思っている方は、続報をチェックしてみてはいかがだろうか。
