データサイエンスでマンガの売上はどう変わる? 出版社、電子書店、ベンダーが議論【IMART 2022レポート】 | アニメ!アニメ!

データサイエンスでマンガの売上はどう変わる? 出版社、電子書店、ベンダーが議論【IMART 2022レポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした業界カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022が、10月21日から23日の3日間にかけて開催された。

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「マンガをデータサイエンスで売り伸ばす『出版社/電子書店/ベンダー』の挑戦」
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  • IMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022

マンガ・アニメの未来をテーマにした業界カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022が、10月21日から23日の3日間にかけて開催された。

マンガ・アニメ業界の先端で活躍するイノベーターや実務家を一同に集めた講演が多数行われる同カンファレンス。3日目は、電子マンガ販売戦略へのデータ活用の可能性を議論する「マンガをデータサイエンスで売り伸ばす『出版社/電子書店/ベンダー』の挑戦」のセッションが開催された。現在、マンガの売上は紙よりも電子の方が大きくなっているが、「デジタル化すればそれでOK」という時代は過ぎ、様々な戦略が必要になってきている。このセッションでは、出版社、電子書店、ベンダーがそれぞれの立場で、データをどう活かしているのかが議論された。

登壇者は、株式会社コアミックス取締役で出版事業部長の花田健氏、合同会社DMM.comが手掛けるDMMブックス電子書籍事業部事業推進グループマネージャーの南川祐一郎氏株式会社コミチ代表取締役の萬田大作氏の3名。モデレーターはIMART実行委員の菊池健氏が務めた。

現在、マンガ業界は活況を呈していて、それを牽引しているのが電子書籍の売上だ。近年は書店アプリが好調で、出版社が独自に展開するマンガアプリも増え、さらにウェブ雑誌の数も増加している。単純に電子サービスを出せば読んでもらえる時代はおわり、ユーザー獲得のための広告費が上がってきているという。

そうした現状で、出版社、電子書店、ベンダーそれぞれの立場からデータをどのように用いているのか、プレゼンが行われた。

まずは、電子書店「DMMブックス」を運営する南川氏からスタート。南川氏は、とらのあなやドワンゴを経てDMMに入社し、幅広く電子書籍を扱うDMMブックスを手掛けている。DMMブックスのユーザーは7割が男性で、少年・青年コミックや写真集が人気ジャンルだそうだ。

DMMブックスはサービス開始から21年になるが、昨年の70%オフのキャンペーン施策で知名度が大幅にアップしたという。国内No1の電子書籍事業を作ることを目標にコンテンツ、プロダクト、マーケティングの強化を3本柱にしてデータに向き合っているそうだ。

マーケティング施策としては、女性ユーザーの獲得や来訪頻度を向上させるためにデータが活用されている。プロダクト強化の面では、主にSEOのためのシステム改修や、3月から開始したタテ読みマンガなどがあるという。DMMブックスは7割が男性ユーザーだが、女性ユーザーのARPPU(Average Revenue Per Paid User=有料ユーザー1人あたりの平均収益)は男性ユーザーの2倍だそうだ。今後は本を売るだけでなく、暇つぶしコンテンツの拡充を図るそうで、毎日0円コミックなどを提供する予定だという。

続いて、出版社コアミックスの花田氏のプレゼン。花田氏はコミックバンチ編集部を経てデジタル分野に参入した。「マンガほっと」や「ゼノン編集部」などの電子サービスを自社で展開しており、ユーザーの一次情報を持つことを可能にしている。

花田氏は紙の雑誌時代は、読者アンケートによって読者のニーズや傾向といった一次情報を持つことができていたが、電子時代はそうしたデータは自社サービスを展開しないと持てなくなったと語る。

コアミックスでは、書店ごとの書籍販売データの取得と分析に力を入れているそうで、紙の取次5社、電子書店267書店の売上を蓄積して全て保存しているという。さらには紙と電子ごとに地域別の実売や在庫、返本推移を可視化し、書店ごとの強みや傾向を把握するように努めているのだそうだ。

花田氏は、こうしたデータからわかる傾向について、およそ予測できてはいたものの「できるだけカンの要素を減らしたい」のできちんとデータを集めているという。データをもとに具体的な内容を編集者が作家と交わすことができるし、書店キャンペーンなどで売上が急増した時など、経理が把握しやすくなって喜ばれたそうだ。

データ集計で売上傾向が可視化されたことで重版計画の精度が向上し、作品と書店の相性もより把握できるようになったため、返本率も減少したという。

続いてベンダーの代表として萬田氏のプレゼン。株式会社コミチは2018年に設立。萬田氏はITコンサルからリクルート、コルクを経て独立した。データ分析が趣味だそうで、デジタルマーケティングを得意分野としており、ヤンマガWEB、コアミックスやベストカーのウェブ事業を手伝ってきた実績がある。

コミチは、「マンガSaaS」という電子雑誌の制作支援ツールを提供している。これは大型予算がなくても雑誌の電子展開を可能にするツールで、自社で一次情報を取って、電子上でブランディングすることに役立てられるという。

萬田氏は、販路ごとに販売状況を可視化し、次巻の販売予測や作品の将来性の分析、電子取次や電子書店の売上分析から、Twitterのツイート数やGoogle検索ボリュームなどもモニタリングする。

一例として、南川氏のプレゼンで言及されたDMMブックスの昨年のキャンペーン分析を披露してくれた。70%割引の大型施策だった同キャンペーンは、Boolliveを超える話題を獲得していたそうだ。

コアミックスの作品では『終末のワルキューレ』の例を取り、2019年9月にGoogleトレンドの山があり、2020年に「アメトーク」で取り上げられさらに山が大きくなり、アニメの配信開始でピークに達しているという。

こうしたデータから、有名人やインフルエンサーのツイートで注目されGoogleで検索され続け、映像化でマスに届くという構図が見えてくるという。

萬田氏は、こうしたデータをデータベースとして構築し、マンガの領域でグローバルな最強のデータベースを作ることを構想しているとのことだ。

3者のプレゼンが終了してディスカッションの時間となり、データサイエンスによってマンガ関係の組織はどう変わるのかが議論された。

モデレーターの菊池氏は、花田氏が属するコアミックスは10年前と比べて明らかに変わったのではと指摘。花田氏は、10年前は書店員に読んでもらったりして部数を調整していたが、今は詳細なデータを取れる、データでわかることの半分くらいは思っていたことと同じ。しかし、それをデータという根拠で示せるようになったのは大きいと語る。社内の編集会議も数字ベースで行うようになってきたという。

また、今後の課として、南川氏は、隙間時間を埋めたいというユーザーのニーズにより答えていく必要があると語った。花田氏は書店は売れる人気タイトルはガンガン売ってくれても、1巻の商品はなかなかキャンペーンをしてくれないので、そこは出版社がプロモーションを頑張るしかない、かつて新作タイトルを周知していたのは雑誌だったが、それに変わるものが必要だと述べた。

萬田氏は、データを集めて再現性のあるヒットを作ることが大事、新人の作品をどう売るかもそこにつながると思うと所感を語り、グローバルにデータを集めていくことで支援していきたいとこれからの展望について語ってくれ、セッションは終了した。

《杉本穂高》
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