隣の席に座る女子中学生、高木さんにからかわれ続ける西片は、いつしか高木さんとの心の距離が近づいていき、夏祭りやバレンタインデー、ホワイトデーなどを経て2人の関係は大きく前進しようとしていた。劇場版では、中学3年の夏休みがさわやかに描かれる。
アニメ!アニメ!では、高木さんを演じる高橋李依さんにインタビューを実施。これまで演じ続けてきた高木さんに対する想いや本作の見どころなどを伺った。
[取材・文:杉本穂高]
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3期オリジナルエピソードの反響に手ごたえ
――今回の劇場版の脚本を読んだ時、どんな印象を持ちましたか。
高橋:これまでテレビシリーズ30分の長さで、感情の機微を丁寧に描いてきたシリーズなので、倍以上に長い尺、しかもオリジナルの展開で演じ切れるのかというプレッシャーが大きかったですね。
――『からかい上手の高木さん』のアニメも4年目となりますが、改めて高木さん視点でこれまでのアニメの歩みを振り返ってみて、いかがですか。
高橋:これまで高木さん目線と第三者目線を平行して楽しんできましたが、今では高木さんがすごく普通の女の子に見えるようになってきました。「からかい上手」とタイトルにはあるものの、私は高木さんを純粋に恋する女の子だと感じています。もちろん、からかいもしますけど(笑)。
高木さんはポーカーフェイスが上手いのもあり、西片目線で捉えていくと、彼女が何を考えているのかわからない部分も多かったんですよね。でも、最近は特に表情が豊かになって、これは恋しているからこうなっちゃうんだなとわかるようになってきましたね。
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――3期が終わって劇場版の公開が控える今、どんな心境でしょうか。
高橋:3期は、文化祭のエピソードをはじめ、オリジナル回の反響も大きかったことにホッとしています。SNSのハッシュタグも盛り上がりましたね。劇場版も早く皆さんにご覧いただきたいです。
――3期は高木さんの未来の娘、ちーちゃんが登場するサプライズもありましたね。
高橋:まさか中学生のちーちゃんが登場するとは思いませんでした。放送後に知ったんですけど、ちーちゃんが使っているお弁当の風呂敷は高木さんが使っていたものと同じだそうです。西片と高木さんが屋上下の階段でお弁当を食べているシーンで、高木さんが膝の上に乗せていた黄色い風呂敷がそうらしいです。そういった細かいこだわりにも感動しました。
――それはすごい。とても物持ちの良い家族なんですね。
高橋:そうなんです。それもすごくイメージ通りだと思いました。
――劇場版を楽しむためにこれだけは見ておいてほしいというテレビアニメのエピソードはありますか。本当は高木さんと西片と過ごした時間が長ければ長いほど楽しめると思いますけど、敢えて挙げるとすれば。
高橋:2人の距離がぐぐっと縮まる各シリーズの11話、12話ですね。それなら計6話分ですし、予習・復習にもちょうどいいと思います。
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2人の関係が進展する時ほどいつもどおりの芝居を心がけている
――高木さんはとてもかわいい女の子ですが、男の子を翻弄している面もあり、お芝居のさじ加減を間違えると危うい面もあるように思います。でも、高橋さんはそこをすごく上手くやっているように思いますが、そのバランス感覚をどうやって心がけていますか。
高橋:『高木さん』のアフレコには、常に『高木さん』が大好きなスタッフさんたちが現場に揃っていて、みなさんの高木さん像を出してもらいながら作っているので、私一人で作っているわけじゃないんです。例えば、原作漫画の大ゴマの台詞などを、もっとからかった感じでやるのか、それとも敢えていつも通りのトーンで演じるのかなど、押すか引くかの問題が一番多いですね。それをスタッフのみなさんと試しながら作っているのが大きな要素でもあります。
――高橋さんは、これまでも数多くのヒロインを演じてこられていますが、高木さんというヒロインはご自身にとってどんなタイプのヒロインでしょうか。
高橋:私は自分が演じるキャラクターをヒロインだと思うことが少なくて、高木さんについても、タイトルに高木さんとあるからたまたまヒロインなだけで、これがスピンオフ作品「恋に恋するユカリちゃん」で初登場のキャラクターだったとしても、私は今と同じように向き合っていると思います。どんな役を演じるにしても、誰かを特別視せずに常に一人の女の子として向き合い続けています。
――ヒロインだからどうこうということはなく、どのキャラクターも一人の人間として向き合って演じているということですね。
高橋:そうですね。いろいろなところでヒロインと書いていただくのですが、ヒロインと呼ばれると逆に照れくさくなっちゃいます。もちろん、事実なので書いてそう呼んでいただく分には構わないのですが。
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――本作は、高木さんと西片のやりとりが肝ですけど、梶さんのお芝居によって、高橋さんの芝居が引き出されたりなどそういう事例はありますか。
高橋:直近ですと3期の最終話、西片が走って高木さんを追いかけてきたシーンは、梶さんのお芝居を受けて、現場で生まれたものです。あのシーンは敢えて事前にお芝居の用意はしませんでした。
『高木さん』の現場は、まずキャストが用意したものをやってみて、本番前にスタッフさんからの修正をいただき、本番でOKをいただいた後も、自主リテイクを申し出ることがあります。梶さんを始め、スタッフさんもどんどん意見を言ってくださるので、そんな空気作りが本当にありがたいです。
――3期まで芝居を続けてこられたならではのやり方ですね。高木さんと西片の関係はいい意味で進まない部分も魅力ですが、テレビシリーズでは少しずつ前進して、劇場版ではさらに関係が深まっていきますが、この辺りは今までと違うトーンのお芝居を意識しましたか。
高橋:梶さんとよく、あまりからかっていないエピソードや、しっとりした恋愛絡みのエピソードほど変えないように意識しようってお話しています。今回の劇場版にもからかうシーンはありますが、原作ほどずっとからかい続けているわけじゃなく、いつもと違う展開だからこそ、2人のトーンは変えずにいつも通り演じようと。いつもの2人とは違うやりとりが多い時、割と不安もあります。
――不安というのは、作品全体のトーンや原作の魅力から浮いてしまうかも、という不安でしょうか。
高橋:そうですね。私も梶さんも原作を読んでいますし、2人の時間と関係を進めたオリジナルの展開は、今私たちの手元の台本にしか無いわけなので、作っていく時、どうしても慎重になってしまいます。そういうエピソードの時は、特に丁寧に梶さんと確認しあっていますね。
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――3期の放送前にもアニメ!アニメ!で取材させていただきましたが、その時、高橋さんは、この作品のアフレコには常に「高木感覚」なるものがあるとおっしゃっていました。
高橋:今回の劇場版でも変わらずありました。梶さんが、この作品のアフレコは将棋のように頭を使いながら卓球のように素早いラリーをするようなものだとおっしゃっていて、すごく的確だと思いましたね。
『高木さん』のアフレコは、ただテンポよく会話するだけじゃなく、繊細な技術を必要とするシーンもあるし、頭だけで考えていたら今度は心がついてこないので、常に調節しながら演じる必要があるんです。本当に持てる感覚をフル活用しないと完成しないので、この感覚を「高木感覚」と呼んでいるんですけど、これは本当にこの作品の現場ならではだなと思います。
――最後に、本作をこれから観るファンの方に向けて見どころやメッセージをお願いいたします。
高橋:中学3年の夏と聞いてポジティブなものを思い出す人もいれば、寂しさを感じる人もいると思うんですよね。この映画には、大人へ変わる前の不安や、ちょっとした心境の変化などが、群像劇のように詰まっています。高木さんたちだけでなく、他のメンバーみんなの夏休みでもあるので、それぞれの夏休みをお楽しみいただきたいです。
そして、「これが2人の、本当のはじまり」という予告編の言葉通り、ぜひ本当のはじまりを見守ってください。あと、エンドクレジットになっても席を立たずに最後まで楽しんでくださいね。
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(C)2022 山本崇一朗・小学館/劇場版からかい上手の高木さん製作委員会