岡本信彦「葬送のフリーレン」での前向きな自問自答 “ヒンメルを通して、無駄なことは一つもないと再確認した” | アニメ!アニメ!

岡本信彦「葬送のフリーレン」での前向きな自問自答 “ヒンメルを通して、無駄なことは一つもないと再確認した”

TVアニメ『葬送のフリーレン』より、ヒンメル役・岡本信彦のインタビューをお届け。

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2023年9月29日に日本テレビ系「金曜ロードショー」にて、ついに初回スペシャルが放送となるTVアニメ『葬送のフリーレン』。

勇者一行が10年に及ぶ冒険の末に魔王を倒した“その後”の世界が舞台となる本作。勇者一行の一員だった千年以上の時を生きる魔法使い・フリーレンと、彼女が新たに出会う人々の旅路が描かれていく。

主人公・フリーレンが“人を知りたい”と思うキッカケを与えた勇者・ヒンメルを演じるのは、声優の岡本信彦。フリーレンだけでなく様々な人たちへ影響を与えてきたヒンメルから学んだこと、そんなヒンメルを演じる上で意識したこと。そして、フリーレンにとっての勇者一行との旅路のように、岡本に大きな影響を与えた出来事とは。

常に誰かの背中を押す、前向きなヒンメルと同じくらい前向きな言葉を紡ぐ岡本。「彼がヒンメルを演じる理由が分かるような気がする……」そんなことを感じたインタビューをお届けしていく。

[取材・文:阿部裕華 撮影:吉野庫之介]



勇者一行のクソみたいな旅は“めっちゃ意味のあること”


――岡本さんは『葬送のフリーレン』をどのような作品だと感じていますか?

自分を見返せるような作品だと思いました。1000年以上生きているエルフの女の子が10年間勇者パーティーとして旅をして魔王を倒す。その数十年後、勇者が死んでから物語がスタートする。旅をした10年間の大切さ、勇者の死で気づいた人の一生の大切さ、人間の尊さや儚さ・切なさを、長く生きているフリーレン(CV:種崎敦美 ※崎は立つ崎が正式表記)を通して垣間見えるお話です。冷静に俯瞰しながら「人間ってこういう存在なんだ」と気づかされるんですよね。そんな本作を見ていると、「果たして自分は人生を楽しんで生きているのだろうか」「自分にはどういう仲間たちがいるのだろうか」「言葉を発する時、どんな言葉を紡いでいるのだろうか」と自問自答できる。しかも、前向きに。そんな作品だと思っています。





――岡本さんご自身は、勇者一行の旅がヒンメルにとってどんなものだったと捉えていますか。

一言で言うと、とても楽しい冒険ができたんだろうなと思うのですが……旅の終わりのヒンメルのセリフに一つ矛盾が生じているんですよね。「クソみたいな思い出しかないな」の後に、「でも楽しかったよ。僕は君たちと冒険ができてよかった」とセリフが続くところ。僕的に、この「クソみたいな」という言葉に「超楽しかった」が含まれている、ある意味でのダブルミーニングだと思っていて。怖くても「ヤバい」、楽しくても「ヤバい」と言うことに近いのかなと。

誰しもつらい日々や何でもないような日々があるじゃないですか。例えば、学生時代に友達とコンビニ前でだべっていただけの青春の1ページとかね(笑)。それは人に誇れるような思い出でも生き方でもないかもしれない。だけど、そんな時間にこそ生きる大切さを見つけられる、意味のある時間なのかもしれないんですよね。ヒンメルたちは勇者一行の旅を「人に誇れるような意味のないもの」という言葉にしているけれど、僕からすれば「それが楽しかったんだよね? それってめっちゃ意味のあることだよね」と感じています。





一見無意味なことでも、楽しんだもん勝ち


――ヒンメルはフリーレンを含め、多くの登場人物たちへ様々な影響を与えているキャラクターだと思います。岡本さんがヒンメルから気づかされたこと・学んだことはありますか?

「一見無意味なことでも、楽しんだもん勝ちだよね」ということを再び学べた気がします。この感覚って大人になると徐々に忘れていくんですよね。悔いのない人生を送るために、都度「俺、今楽しんでいるのかな?」「人生楽しめているかな?」「生きているって感じがする」と振り返ることはすごく大切なんじゃないかなと思います。

ヒンメルの「楽しんだもん勝ち」というメンタルは自己肯定感の高さによるものかもしれません。それでもドラゴンや魔族と対峙した時には「怖い」と思っているんですよね。だけど、「とりあえず一歩踏み出してみれば、いい未来が待っているかもしれない」「信じた先にはいい未来に行けるのではないか」という漠然とした気持ちがあって、どんどんいい未来を叶えていく人なんですよ。

いつの間にかできていることって現実の人間でもあること。気負わずにとりあえず一歩を踏み出してみたら「あれ、意外とできるかも」と思える。僕自身の最たる例が、声優になれたことです。声優になれると思って信じてやってきたらなれた。当時は「絶対に声優になれるだろう」と漠然と思っていたのですが、今思い返すと「絶対なんてないよな」と(笑)。これだけ声優志望の人たちがいて、事務所もたくさんあるわけで。大人たちが「声優なんてなれるはずない」と言う気持ちも分かるんですよ。僕はまだまだ子どもだったから「なれる!」と信じて進んできて、結果声優になれた。思い切りの良さや信じる力って大事だったんだと改めて思いました。



――ヒンメルを通して、改めて思うことができた?

そう思いますね。ヒンメルを通して、無駄だったことは一つもないということ。楽しんで生きることの大切さを再確認させてもらいました。

それと、今後放送される中で描かれるあるシーンでのものなんですが、ヒンメルが自分を「偽物の勇者」というセリフがあるんですが、そこも含めての一連のセリフが一番好きなんです。結果ヒンメルは魔王を倒しますが、声優業にも同じことを思っていて、僕自身は勇者でもなければ魔王を倒したこともないけれど、魔王を倒す時のリアリティを出すために、本物の勇者になるためにはどうしたらいいのだろうと日々考えています。それはヒンメルと通じる部分だなと感じています。





ヒンメルは、勇者然としない演じ方に


――ヒンメルは名言製造機と言っても過言ではないほど、一つひとつの言葉に意味を持っていると感じるキャラクターです。セリフを発する際に意識していたことはありますか?

名言のように言わないことを意識しました。日常会話のようにさらりと、「今日の味噌汁は混合味噌だね」「飲み物を冷たくするには氷を入れればいいじゃん」という感覚で(笑)。ヒンメルにとっては当たり前のことを言っているけど、その言葉がたまたまフリーレンにスマッシュヒットしただけ、みたいなイメージがあるんですよね。なので、さも名言じゃないように名言を言えるかをトライしています。

――それは、最初に役づくりをする段階から考えていたことだったんですか?

いえ、最初のテープオーディションの時はがっつりキメキメでセリフを言っていました(笑)。でも、初回スペシャルのアフレコの時、細かいところまでヒンメルの役づくりに時間を費やさせてもらったんです。そこで勇者然としないように演じた方がいいんだなと方向性が定まった気がします。

――監督の斎藤(圭一郎)さんや音響監督のはた(しょう二)さんと話し合われて?

話し合いましたね。銅像を作ると言われてありがたく思いながら、「イケメンであるこの僕を忠実に再現できるかどうかは甚だ疑問だけどね」と“イケメン”を強調するセリフが多くあるのですが、最初はそれをどれだけキザっぽく言えるか意識していたんですよ。キザっぽく言ってコミカルに見えたらいいなと思ったので。だけど、ディレクションを聞いていると、ヒンメルは冗談で言っているわけでもコミカルに見せたいわけでもなく本当に自分のことをイケメンだと思っているんだろうなと。そこで、天然っぽく見えてもいいから、誇張表現をせずにできる限り自然にセリフを読むように心がけました。同様に、名言っぽいところにも適用されるはずだと思っています。



「フリーレン」と呼ぶ時は必ず慈愛を込める


――岡本さんは、ヒンメルとフリーレンの関係性について、どのような印象をお持ちですか?

ヒンメルを演じながらフリーレンを呼ぶ時、必ず慈愛を込めています。「ヒンメルはフリーレンのことが好きなんですか?」と質問されることがあって、それは原作者の先生方に聞いてほしいのですが(笑)。僕個人としては、ヒンメルを演じる上では、「もちろん好きは好きだし、恋人に対する愛情もなくはない。だけど、それだけの物差しで測れる愛ではなく、父親から子どもへの愛にも近く、母親に対する子どもの愛にも近い。すべての愛が複合されたもの」と考えています。守るべき存在であり、家族のような存在であり、かわいらしい人形や犬猫を愛でるのと同じような存在でもある。なので、愛していることは事実だと思います。ただ、その愛が人間界の一般的な愛とは違う気もしています。



――初回スペシャルでのお花畑のシーンなどからも、ヒンメルからフリーレンへの愛を感じます。

お花畑のシーンでヒンメルが自分の故郷の花である蒼月草について「いつか君に見せてあげたい」と言うのですが、「花を見に来てほしい」という意味以外にも、「自分の家族に会いに来てほしい」「自分の生まれ育った場所を知ってほしい」という意味も込められているのかなと。個人的にはそう考えたりします。

だからといって、見返りを求めているわけではないと思っていて。一方通行の関係性でもフリーレンに愛を伝えられるだけでヒンメルは嬉しい。フリーレンが自分のことを思い出してくれるだけで嬉しい。だから銅像をつくっているのだろうなって。

――フリーレンへの慈愛については、監督たちとすり合わせたのでしょうか?

すり合わせはしていないです。僕の中だけで思っていることです。なので、監督がどう思っているかは分からないですが、邪な気持ちが入っていると監督たちから「OK」が出ないので、きっと大丈夫だと思います(笑)。

――ちなみに、フリーレンを演じる種崎さんのお芝居の印象はいかがでしたか。

以前から、種崎さんはプロフェッショナルな声優さんの一人だと思っています。「この造形・性格なら、こういう声が出るのではないか」とキャラクターの声を捉える能力が高く、捉えた声をアウトプットする力が強い方というイメージです。

なので、種崎さんがフリーレンを演じるなら、どんな声で来るのだろうと。僕としては、原作を読んでいて「かわいい声質で来るのかな?」と思っていました。そしたら、長く生きていて、いろんな経験を積んできていることから、達観しているような女の子女の子していない抑えた声質に仕上がっていて。フリーレンの年齢も性別も理解しているのだけど、第一声を聞いた時は「女の子なんだよね……?」と聞きたくなってしまいました。年齢や性別の垣根を超えた声質がとても印象的でした。





アニメやマンガとの出会いが、夢を描かせてくれた


――フリーレンにとっての勇者一行との旅のように、岡本さんの人生に大きな影響を与えた出来事はありますか?

子どもの頃に見ていたアニメやマンガなどの作品、キャラクターとの出会い。僕が声優になる夢を描いた大きなキッカケです。『スラムダンク』『ダイの大冒険』『幽遊白書』などが好きで、心の中で漠然と「邪王炎殺黒龍波(※『幽遊白書』飛影の必殺技)」を放ってみたいと思っていました(笑)。少年時代は、そういう人知を超えた力がすごくカッコいいものに見えていたんですよね。

ほかにも、『名探偵コナン』を見て「僕も少年探偵団の一員になりたい」と思ったり。作品を見て「このキャラクターになりたい」という気持ちは、子どもの頃から漠然と刷り込まれている気がします。それは世の子どもたちが同じ気持ちだと思うのですが、魔法少女や戦隊ヒーローなど、アニメやマンガから“なりたいキャラクター像”を教えてもらっている。そんな作品たちとの出会いは、僕にとってとても大事なことだったと思います。





――岡本さんはもともとプロの棋士を目指されていたと思いますが、そこから声優を目指そうと思ったのはアニメやマンガとの出会いがあったから?

そうですね。将棋ってすごく現実的なんですよ。負けた時に棋譜で何が悪かったのかが明らかになるので、「君のこの手が悪かったよね」「こうなったらこの手を打つでしょ?」と現実的なことを言われながら否定される連続。

一方、声優や俳優などのお芝居に関しては、「なぜそういう芝居をしたのか」という自分が考えたアプローチの理由さえあれば、それが一つの正解になるんですよ。「ただセリフがあったから読んでみた」というセリフに対する理由がないのは良くないのですが、何か一つ思いがあれば正解の一つのなり得る。僕の中では、それがすごく素敵な世界に見えたのだと思います。



人生の旅の目的は「死なないこと」


――人生を旅と例えるとすると、岡本さんの現段階での旅の目的は何ですか?

「死なないこと」ですね。本当に死にたくないんですよ(笑)。死ぬのが嫌すぎる(笑)。いろいろなことを考えて生きている現状がとても好きなんです。

死というものにはいろんな解釈があるじゃないですか。物理的には無になるわけですけど、例えば天国に行くパターンや幽霊になるパターン……いろんなパターンがあるけど、どんなパターンでも“死=苦しみや悩みからの解放”というイメージがあって。僕は解放されるより、いろいろなことを考えていたいのだと思います。

――「考えることが苦しい」という人も多いですよね。

いや、それはありますよね。僕はドMなのかもしれないですね(笑)。ぶっちゃけ人生は苦しいことの方が多いと思うんですよ。いずれは親を含めて大切な人たちとの別れに直面するでしょうし、自分も年齢を重ねれば体が衰えて苦しいことが増えていく。生きていく上ではいろんな苦しみを背負わなきゃいけなくて、場合によっては上手くいかないことが8割で上手くいくことが2割しかない時もある。それはどう考えても苦しいけれど、その苦しさがあるから「生きている」と思えるイメージがあります。

――苦しいほど、生に対する実感が湧くということですね。

そうなんです。上手くいきすぎている方が「大丈夫かな」と怖くなるかもしれないです。苦しいことの度合いにもよりますけど、苦しさがあるからこそ余暇に対して「楽しい」「幸せ」だと感じられたら一番いいなと思います。僕はこれを、“チョコレートとコーヒー理論”だと思っていて。苦みがあるから甘さが引き立つ。ガムシロップを大量に入れたコーヒーを飲みながらチョコレートを食べても、果たして美味しいのか?というイメージですね(笑)。

――とても分かりやすい例えですね(笑)。その旅の目的を山に例えるとするならば、今は何合目だと感じるかをお聞きしたかったのですが、「死なないこと」が目的となるとどうなんでしょうか……?

山を登るよりも、1合目でグルグルしている方がいい(笑)。いつまでも山を登り続けたい。多くの人は人間的に寿命を全うしたいという人が多いですけど、僕はフリーレンと同じように1000年生きたいんですよ。どんなに孤独であろうと、その方が嬉しいです。そんな風に答える人の方が少ない気もしています。だから、人間界に向いている性格だとは思っています(笑)。生きづらさを感じている人が多いと思うのですが、僕は楽しめるマインドを持っているので。

――話を聞いていると、ヒンメルと近いところがあるなと思いました。

似ている部分はあるかもしれないですね。だから、ヒンメルが死に対してどう考えていたのかは気になりますね。教えてもらいたいです。

――素敵なお話ありがとうございます。最後に、『葬送のフリーレン』の登場人物の中で一緒に旅をするとしたら誰と旅をしたいですか?

フリーレンですね。一緒に旅をしたら楽しそう。いろいろなことを教えてくれそうだし、フリーレンは甘いものをよく食べているからスイーツ巡りをしたいです。僕、めっちゃスイーツを知っているので、手あたり次第食べてもらいたい(笑)。フリーレンの好きなものを一緒に突き詰めてみたいなと思っちゃいます。あまり感情を表に出さない子だからこそ、知りたくなるのかもしれません。



TVアニメ「葬送のフリーレン」

■放送情報
2023年9月29日(金)21:00~日本テレビ系「金曜ロードショー」にて初回2時間スペシャル放送
2023年10月6日(金)より日本テレビ系毎週金曜日23:00~「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」にて放送

■スタッフ
原作:山田鐘人・アベツカサ「葬送のフリーレン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:斎藤圭一郎
シリーズ構成:鈴木智尋
キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子
音楽:Evan Call
アニメーション制作:MADHOUSE

■キャスト
フリーレン:種崎敦美
フェルン:市ノ瀬加那
シュタルク:小林千晃
ヒンメル:岡本信彦
ハイター:東地宏樹
アイゼン:上田燿司

(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
《阿部裕華》
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