「泣きたい私は猫をかぶる」監督ふたりが語る、誕生秘話とネコ表現のこだわり【インタビュー】 3ページ目 | アニメ!アニメ!

「泣きたい私は猫をかぶる」監督ふたりが語る、誕生秘話とネコ表現のこだわり【インタビュー】

6月18日よりNetflixにて全世界独占配信される『泣きたい私は猫をかぶる』より佐藤順一・柴山智隆の両監督にインタビュー。本編そのものに加え、制作過程におけるデジタルの使い方や、新型コロナ感染症の影響でNetflixでの独占配信になったことなどについて聞いた。

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『泣きたい私は猫をかぶる』(C)2020「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会
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■スタジオコロリドのデジタル制作


――ここで制作環境のことを教えてください。スタジオコロリドは作画も含めデジタルメインになっているスタジオですが、佐藤監督はデジタル作画は初めてですか?

佐藤:僕はデジタルで原画チェックするのは今回が初めてでした。だから最初は、見ようよう見まねで、できることはなんだろうと思いながらやっていました。

正直に言ってしまうと「紙でやったら5分で終わるのに、なんでこんなに手間がかかるんだ」とイライラしたこともありましたね(笑)。
紙でチェックをする時は、手で原画をパラパラして、必要なところに紙を重ねて描けばそれで終わりだった。でもデジタルは、フォルダの中のファイルを開いて、タイムラインを開いて、修正部分に新しいレイヤーを入れて、そこに新しい名前をつけて……という具合に手順が多いんですよね。

柴山:確かにデジタルで原画チェックをする時は、段取りがすごく多いのでスピードアップが難しいというのはありますよね。僕も最初は慣れるまでは苦労しました。

――逆にデジタルでのメリットはどのあたりにありますか?

柴山:サーバー上でデータをやりとりしているので、物理的に素材を運んだりする時間の省略になるというのがまずあります。
ほかにもスタジオコロリドでは、社内のスタッフが皆デジタルを触れるので、誰でもTP修(トレスペイント修正。色がついた撮影前のデータをダイレクトに修正すること)ができるので、最後のクオリティをそこで支えられるのも大きいと思いました。

あとやはり3DCGを使ったカットは相性が良いです。背景を3DCGで作ったカットは、そのデータをそのままTVPaintに連番で読み込んで、その上のレイヤーにキャラクターを描いていけばいいので。

これがアナログだと、連番データを全部プリントアウトして制作さんがそこにタップ穴をあけて、そこに紙を重ねてキャラクターを描くということになります。これだと手間も多いし、ズレたりすることもありますね。

――学校から帰ってきたムゲが自宅の玄関に入っていこうとするカットは、背景が3DCGでじわっとカメラが寄っていく演出になっていました。



柴山:あそこはまさに今お話ししたようなカットですね。あそこは物語のきっかけになるカットで、佐藤さんからコンテをもらった時に「これは大変だな」と思いました(笑)。

佐藤:コンテを見るなり、みんなウワッてなっていたね(笑)

柴山:でも、これやんなきゃいけないやつだなと、覚悟を決めてやりました。

佐藤:あの玄関のカットについては最初から3DCGを使おうと想定していました。
学校での導入部分を終えてムゲが家に帰ってくるわけですが、ムゲにとっては家のほうが本当の“戦場”なので、「ここから本当の戦いがはじまるのだ」というカットが必要だったんです。
なので音楽もそういう曲をかけるようにして。

今回は大俯瞰の常滑の町とか、壮大なものを3DCGで見せるというのは考えていなくて。
むしろ日常の中で心情を表現するようなカットで3DCGを使っていきたいなと考えていました。


――先ほどTVPaintを使っているというお話がありましたが、『ペンギン・ハイウェイ』の時の取材ではアニメーションソフトとしてはStylosをメインに使用しているとうかがいました。

柴山:何年か前からTVPaintがメインになって、動画以降にStylosを使っています。
今回の作品に入る前にほかのソフトも検討したんですが、最終的にTVPaintを選びました。

『ペンギン・ハイウェイ』のクライマックスのペンギンパレードを担当した川野達朗さんを中心とするメンバーは現在、teamヤマヒツヂというユニットで制作をしていますが、このチームがTVPaintを使っていまして、今回は『ペンギン・ハイウェイ』でのノウハウをだいぶ活かして制作することができました。

■劇場だけでなく自宅でも感じられる、普遍的かつミニマムなテーマ


――制作のデジタル化が進んでいると、今回のようなコロナ禍の中でもリモート制作がスムーズに進められたりするのでしょうか?

柴山:やっぱり他社よりはデジタルに精通している人が多いのもあって、抵抗なくリモートに移行できたのかなとは思います。
そこはアドバンテージかもしれないですが、自分としては会って、話をしながら作っていくほうがいいですね。

佐藤:個別の作業はリモートでもできるんでしょうけれど、コミュニケーションが問題ですよね。
原画チェックはできたとしても、「ネコ世界どうする?」なんて打ち合わせは、やはりホワイトボードにアレコレ描きながら、みんなで話していかないと難しいですからね。


――『泣きたい私は猫をかぶる』は当初劇場公開を想定していましたが、新型コロナウイルス感染症の流行のため、リリース形態がNetflixでの独占配信に変わりました。

佐藤:もちろん、もともと劇場で見てもらうことを想定して作っていた作品ですし、音響も劇場設計になっています。
でもこの作品は物語で語ろうとしているところは意外とミニマムなんです。

主人公の中学生たちだけでなく、周囲の大人も含めて自分の居場所はどこだろうって考えている映画です。
劇場映画としてはちょっと身近過ぎる題材かなと感じたこともある映画なので、このような時期に自宅で見てもらえる、というのは作品にとって必ずしもマイナスではないよな、と思っています。

柴山:僕も劇場作品を監督するのは初めてだったので、「劇場とはなんだろう」というところは意識して制作していました。
広いスクリーンでどう視線をコントロールしようとか、小さく描かれているキャラクターも表情を大切にしようとか、細部まで気を配ったつもりです。

そのへんは残念ではあるんですが、佐藤さんがおっしゃる通り、この作品のテーマは普遍的なものなんです。
コロナ禍の中で今は人と人の距離を見つめ直す時期でもあると思うので、Netflixでご覧になった方にどんなふうに受け止めてもらえるのか、すごく楽しみにしています。



<Netflixアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』作品情報>

配信日:Netflixにて、6月18日(木)より全世界独占配信 
出演:志田未来 花江夏樹
   小木博明 山寺宏一
監督:佐藤順一・柴山智隆
脚本:岡田麿里
主題歌:「花に亡霊」ヨルシカ(ユニバーサルJ)
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド 
製作:「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

(C)2020「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会
《藤津亮太》
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