「ペンギン・ハイウェイ」スタジオコロリド初となる長編制作で見えてきた、“デジタル作画”の課題と未来 | アニメ!アニメ!

「ペンギン・ハイウェイ」スタジオコロリド初となる長編制作で見えてきた、“デジタル作画”の課題と未来

2018年8月17日に全国公開を迎える『ペンギン・ハイウェイ』より、石田祐康監督とキャラクターデザインを担当した新井陽次郎との対談で、作品制作を振り返ってもらった。

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映画『ペンギン・ハイウェイ』が8月17日から公開となる。原作は森見登美彦の同名小説で、スタジオコロリドの石田祐康監督がアニメ化に挑戦した。
石田監督にとっては初長編作品となる。完成した映画は、少し不思議なスペクタクルと、少年時代の叙情が同居した、魅力的な作品に仕上がっている。
石田監督はアニメ制作における、いわばデジタルネイティブ世代。どのような体制で初長編に挑んだのだろうか。同作のキャラクターデザインを担当した新井陽次郎との対談で、作品制作を振り返ってもらった。
[取材・構成=藤津亮太]

映画『ペンギン・ハイウェイ』



2018年8月17日(金)全国ロードショー
penguin-highway.com/

■初の長編制作、どのようなデジタル環境で臨んだのか


スタジオコロリドの作業現場風景

――以前、『陽なたのアオシグレ』(2013)で石田祐康監督に取材した時は、デジタル作画と紙が混在しているというお話でした。『ペンギン・ハイウェイ』はどのような体制、環境で制作したのでしょうか。

石田祐康(以下、石田)
デジタルと紙が混在という点は、結局いまだに残っているんですよ。大いに残っています(笑)。
ただ『アオシグレ』は、追い込みの中なだれ込むようにデジタル化していく感じだったんですが、今回は最初からデジタルメインでいこうと決めているという違いがあります。実際、社内については全部デジタル作画でやろうと決めていました。
ただ、長編で、量が量なので、2パート分、約500カットをWIT STUDIOさんにお願いし、そちらは紙での作業になっています。だから自分たちメインスタッフは、デジタルと紙の両方に対応する必要がありました。

――デジタル作画はどんなツールを使っているのでしょうか?

石田
『アオシグレ』のときから使っているセルシスのStylosです。なんだかんだメインとして使っています。
ただ最近はデジタル作画の状況も変わっているので、最初のテストカットを作る時にはCLIP STUDIOを使ってみました。その時の使用感でいうと、劇場アニメを作るには「ここがまだ足りない」と感じたポイントがあって、それでStylosに一度戻って制作を進めていきました。旧式ながらやはり集団作業には手堅いソフトなので。(ちなみに提出形式をStylosに変換する前提で、ラフ原にCLIP STUDIOを使い続ける人は多数残りました)
ただ、それでもStylosだけではいかず(笑)。自主制作で『フミコの告白』を一緒に作っていた川野達朗君という1つ年下のアニメーターの子が、しばらく会わない間に業界で活躍しているとよく噂で聞くようになって。その彼が何人かのチームで、コロリドに入ってくれたんですが、彼のチームはTVPaintを使っているんです。なので、彼らにお願いしたクライマックスの“ペンギンパレード”シーンは、TVPaintで作業しました。


――絵コンテは何で描いたのですか?

石田
絵コンテではStoryboard Proを新規に導入しました。それを含めて本当にさまざまなソフト、手法が混在しまくりなんですよ。覚えないといけないことが多すぎました。ただStoryboard Proは使いやすいソフトではありました。

――新井さんは『アオシグレ』のときにデジタル作画に触れられたそうですが、そこから5年経っていかがでしょうか。

新井陽次郎(以下、新井)
いろいろ変わりましたね。デジタルで作業をして実感するのは、動きが作りやすいということです。
自分はデジタルを始めてから動きに興味が出たタイプだったので、それは、すぐにプレビューできるのには助けられています。紙だとクイックチェッカー(動きを確認する簡易撮影装置)に入れないと確認ができないので、それに時間をとられるんですよ。そういう手間がないのはデジタルのいいところです。
ただ紙に慣れている人にとっては、紙の描き味や感触がなくなることがデジタルに移行する時のネックになります。それをどう乗り越えてもらうのかが、デジタル作画を初めてやってもらう際に毎回手こずるポイントです。そこを乗り越えられた人はデジタルに移行できるんですが。

石田
デジタル作画になると、今まで持っていたノウハウはすべて仕切り直しにはなってしまうんですよね。
もちろんコロリドでは、なるべくそうならないようにシステムを作ってあるのですが、初めてデジタル作画をやってみようという人は、そのあたりがうまくいかない人も多い印象です。

新井
紙に慣れていて染みついている人は、そのやり方の気持ち良さゆえに、そうやって描けないことにイライラしてしまう。そういうことがあると思うんですよ。


石田
あと地味なんだけれど大事なのは、スタジオ内の詳しい人にどれだけ聞けるか、という点ですね。
デジタルの覚え始めはどうしてもいろいろわからないことが多いので、気にせず声をかけて聞いてくれたほうがうまくいきます。実際、コロリドには、40代でデジタル作画を始めた方がいるんですが、すごくフランクに「これはどういうことですか?」と聞いてくれるんですよ。そうすると交流も生まれるし、ちゃんと教えることもできる。「これなら自分もやれるんじゃないか」という環境が自然と生まれていくような気がするんですよね。質問してもらえないと「わからないことがわからない」状態になってしまうので。結局デジタルを使っていても、アナログなコミュニケーションが出来るかどうかによっていますね(笑)。

新井
コロリドは短編からデジタルをやりはじめたので、導入としては、それはよかったですね。
あとコロリドは社内で決めごとをある程度作っているので、教える側もやりやすいと思います。それで、誰でも教えられるようになっていますから。

――決まりごとというのは?

新井
ショートカットの割り当てなどです。そもそもStylosを使いこなすためには、初期設定をきちんとしないといけないんです。それを『アオシグレ』のときから、石田君が使いやすいセッティングを決め込んでいて、それを伝承していく感じですね。

石田
セッティングは作品ごとにアップデートしてはいるんですが、ある程度は下敷きを作ってあげないと、初めての人にStylosは難しいかもしれません。
それに僕自身が、面倒な設定のまま使っている様子を端から見ていると可哀想になってしまうんですよね。わりとお節介なところがあるんで(笑)、自分が考えた最強のカスタマイズができると「これ使いやすいよ!」と教えたくなってしまうタイプなんです(笑)。


新井
デジタルツールの設定を好んでやる人って、決して多くないんですよ。とくにアニメーターは面倒くさがりな人が多いので、そう考えると石田君は珍しいタイプだなと思います(笑)。

石田
それでも『ペンギン』は監督としてちょっと忙しかったので、あまりできなかったんですよね。技術的な部分を自分でもっとやりたかったという気持ちは残っています。
そのかわりというわけではないんですが、コロリドの初期のころから動画として参加して、今回は原画もやってくれた栗崎(健太朗)さんという方がいます。今回は、あの人は教育係として才能があり、動画の子にいろいろと伝承してくれました。僕が監督として忙しくても、その方針を受け継いでやってくれていました。

石田監督の作業風景。


上記2枚のお姉さんの絵は、業務用ではなく“趣味の絵”とのこと



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《藤津亮太》
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