CGで戦車を描く!「ガールズ&パンツァー 劇場版」の挑戦 3D監督・柳野啓一郎インタビュー[後編] | アニメ!アニメ!

CGで戦車を描く!「ガールズ&パンツァー 劇場版」の挑戦 3D監督・柳野啓一郎インタビュー[後編]

ヒットを続ける『ガールズ&パンツァー 劇場版』。主役は少女たちと、もう一つ「戦車」である。3DCGを通じて戦車の表現に新風を吹き込んだ本作の立役者のひとり3D監督の柳野啓一郎さんに引き続きお話を伺った。

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水島努監督が挑んだ初のオリジナル作品『ガールズ&パンツァー』。全12話のテレビシリーズが終わる頃には舞台となった茨城県大洗町に多くのファンが訪れ、作品の評判と共に聖地巡礼、コンテンツツーリズムなどのキーワードでも大きく注目された人気アニメだ。
そして放送から3年。単発エピソードのOVAを経て、待望のシリーズ最新作『ガールズ&パンツァー 劇場版』が完成した。
本作はデジタル表現を駆使することで、これまでスポットの当たらなかった「戦車」という存在を縦横無尽に活躍させ、新しい画面づくりに成功している。そのエポックと言っても過言ではない仕事を担った3D監督の柳野啓一郎さんに、引き続き劇場版の制作エピソードを伺った。
[取材・構成:桑島龍一]

『ガールズ&パンツァー 劇場版』
全国公開中
http://girls-und-panzer.jp/

■ 3DCGモデリングの意外な難しさ

―― 劇場版はアクションの連続で白熱しましたが、戦車は当然3Dになるわけですよね。物量的に相当大変だったんじゃないですか。

柳野 実はキャラクターモデルも結構な数をつくってまして、カットによっては本当にフル3Dアニメーションなんですよ。最後のほうは『楽園追放』とやってることが変わらなかったです(笑)。

―― それは気づきませんでした(笑)。

柳野 逆にわからないように目指していましたから。たとえば、作画のキャラが映ったカットの次に3Dのキャラを挟んでまた作画に戻したりとか、顔だけ作画になってたりとか、ぐちゃぐちゃに混ぜているんです。適材適所に混ぜてしまえば、3Dだ作画だというレッテルはどうでもいいことだとわかっていただけるんじゃないかと。

―― 3Dをやるときに意外と難所なのがモデリングだと言います。時間や予算の関係でモデルが仕込めなくて大変という話を聞きますが、そこはいかがですか。

abesan柳野 難しいのが随時交渉という制作状況でした。劇場版は戦車を10輛増やしたいという話から入ったんですが、ほかにもいろんなオーダーがありまして。(戦車の)上に乗せるキャラクターモデルも最初は十数体欲しいという話があったのですが、そこで数を減らしたりとか。あとはBGモデル(※背景に置く3Dの建物)ですか。主観のカットで使う素材だったり、後半の遊園地では大量のアトラクションモデルが発生しますし、とにかくコンテが届くたびにどうしましょうと(笑)。

―― 新しい戦車のモデルも数多く登場しますが、特にカール自走臼砲が印象的ですね。

柳野 いままでのTVシリーズではオープントップ、つまり人が外に露出する戦車というのは「戦車道」的にNGだったんです。カールを出すにあたって、本物は何十人も揃った上で弾を装填して発砲するというシステムなので、まずそこを自動化するというウソをつくところから始めました(笑)。
監修の田村(尚也/軍事ライター)さんとかなり細かく話し合いまして、たとえば弾の種類や装填方法がどうだとか、どこに人が乗っているかとか、一つひとつのハンドルの回し方だったり、実際映像になってないところまで考えてます。そこまで詰めて大ウソをついてる感じが、作業的におもしろかったですね。


■ 水島努監督の演出スタイル

―― 『ガルパン』ではディテールや設定がリアルな戦車が、いざアクションになるとジャンプしたり、見せ方が絶妙です。

柳野 そこは水島監督の世界観が、大きく担ってる部分があると思います。TVのとき最初に決めたのが「学園艦」という大ウソをつくことで、SF的なやり方でよくありますよね。大きなウソを一つ入れて、そのまわりをリアルで固めるという。そのやり方に近いのかなと。
戦車の動きといった演出に関しても、おっしゃるように戦車がジャンプしたり、すごいドリフトをしたりと極端な動きをするわけですが、大嘘の演技の周辺はとにかくリアルな挙動を入れるなどして妙な説得力を持たせるようにしています。

―― カールもそうですが、本編中で観客におっと思わせる演出が随所にあり、最後までテンションが持続して、本当に引き込まれました。

柳野 水島監督の設計には独特な部分がありまして、特にテンポにこだわりを持たれてますね。TVのときも監督自身がコンテを描かれたり、演出された回というのは明確にほかの話数と違うんですよ。ただ、監督とは長くおつきあいさせていただいてるので、わりとそこに3Dを足したり引いたり、こちらから提案してやらせていただいた部分が結構あります。
カールの場合ですと、最初は着弾を作画でやる予定でした。それを3Dのエフェクトでやってみたら明確に威力の差が出ておもしろいんじゃないかとか。ちょうど「楽園追放」でエフェクトが得意だった市川さんにお願いできたので、かなり迫力とツメタメの効いたものに仕上がりました。あと、ほかの戦車とカールは質感を変えてあるんですよね。いままでの戦いとは何か違うことが起こっているという雰囲気が出るようにと。
今回の劇場版はいろんなスタッフのこだわりを、水島監督が絶妙なバランスで汲んでくれた一つの結果なんじゃないかと思っています。


―― 3Dでエフェクトを手掛ける機会は少ないのでしょうか。

柳野 そこは作品次第ですね。TVシリーズのときはアフターバーン(※AfterBurn:炎、煙、爆発の標準的なプラグイン)を使って、作画素材の上に合わせて発砲や着弾を描きました。劇場版では全部フューム(※FumeFX:リアルな煙や炎を描く最新のプラグイン)で起こして、それをフュームを知らないスタッフでも使えるように落とし込んでおいたんです。

―― それらのプラグインは3ds Max専用ですよね。CGアプリケーションとしてはいかがですか。

柳野 使いやすいと思います。特に細かいプログラミングとか深い知識がなくても、ある程度のところまでつくれる部分が強みですね。あとはスタッフの増減などにも比較的対応しやすい。必要な機能をプラグインで補完できるので、その時々に合わせて使用すればいいという柔軟性があるんです。

―― 3ds Maxは日本で主流のセルアニメ的なスタイルに強いという印象です。

柳野 そうですね。Pencil+という鉛筆画のテイストを出す日本製のプラグインが使えるという強みもありますし、もともとBipedという人型のセットアップが入ってるんですよ。これが昔から根強い。簡単に人型のアニメーションをつくれるプリセットになってまして、これに慣れてる方がとても多いんですね。


《animeanime》
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