■アニメ制作の効率化は不可避な問題
――仕組みづくりという点で今一番関心のある分野は何ですか?
石川:これはI.Gに限ったことではありませんが、アニメの作り方を根本的に効率化しないといけない危機感を持っています。
たとえば制作にかかる人件費は今や監督のそれよりも高いとも言われているのですが、その時間の半分は待ち時間なんです。非能率的ですよね。
――原画の上がりを待ったりなどの時間ですね。改めて考えると確かにどうにかして有効に使いたい時間ですね。
石川:こういった無駄によって発生する赤字を、徹夜で張り込むとか人を増やすなどといったさらに非効率的な方法でしのぐのではなく、AIの導入やパイプライン(作業工程)の整備などアニメ制作のシステムそのものを再設計することで解決できれば、その分の時間やマンパワーを最終的にクオリティや収益につなげられるわけです。
そういう点で、無駄な残業をさせずにリフレッシュさせることでクオリティを上げる神風動画さんの取り組みは素晴らしいと思います。作品やスタッフに対する愛情を感じますよね。尊敬します。
――まさに神風動画さんも海外とのお仕事をされていますが、業務の効率化は海外展開をするうえでも必須なのでしょうか?
石川:そう思います。韓国や台湾などのスタジオは日本でなら2、3ヶ月はかけるであろうキャラクターデザインや背景美術を1週間で上げてきます。
そんな海外のスタジオとある時は競合、ある時は連携して作品作りをしていくことを考えると、制作の効率化なくしては食っていけなくなると思います。
さらにみなさん語学が堪能ですから、このままでいては5年後誰も仕事をくれなくなりますよ。「Netflixと組めばいい」なんて安易に言っている状況ではありません。
――危機的状況である、とお考えなのですね。
石川:幸いなことに今I.Gは、多くの作品を任せてもらっていますし、いろんな形で収益も上がっています。
でも同じことを続けていていいのかというと、僕はそれでは先が見えないと思っています。危機的状況だというのはそういうことです。
ただ、逆に今が一番辛い状況だからこそ、ここで真剣に前向きに取り組んでいけば必ず逆転の勝機が見える。忍耐という言葉はあまり好きではありませんが、今は勝負するべき時に備えて地道に仕込みをすべき時かな、と。
作品に関しても同じで、ここ2、3年で発表する作品は、そういった産みの苦しみを超えて出てくるものになりますから、お客さんの感動を呼び起こせるものになるという自負もあります。
だから今が一番苦しい一方で、今が一番楽しく、やりがいがある時だとも感じています。
――新しい作品、楽しみです!
■隙間を埋める「つっかえ棒」になりたい。
――最後に石川さん個人としての展望についてお聞かせください。
石川:さっきから危機的状況だとか産みの苦しみとか言っていますが、個人の視点で考えた時、こんなに好き勝手やらせてもらった恵まれているやつはいません。好き放題やったまま業界を去るのは無責任というか、人としてどうかと思いますよね。
若い頃、人のことを「老害だ!」とか思っていた自分がその立場になった今、やはり若い人に何か与することができればと思っています。
――石川さんはアニメーター等育成事業「あにめたまご」のリーダーや、I.Gアーカイブ室による資料保存の支援もされています。それもそういった次世代への思いで取り組まれているのでしょうか。
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石川:それはひとえに、弊社のアーカイブ担当・山川道子のようにアニメの資料を大事にして未来に残したいと思う人が現れたから、動画協会の中にアニメーター育成に真摯に向き合う人がいたから、です。
そんな人たちにとって僕の存在や名前が使えるものなのであれば“つっかえ棒”にしてほしい、ということです。
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――つっかえ棒、ですか。それは「その人を支援したい、貢献したい」というようなニュアンスでしょうか?
石川:いやいや、支援や貢献なんておこがましいものではありません。情熱を持って何かに取り組んでいる人が「何かが足りない」という時に、そこを埋められるピース。それがつっかえ棒です。
僕の感覚では本当につっかえ棒というくらいの表現がちょうどよくて、僕はそれになりたいんです。
――それは俺が俺がという「老害」とは真逆の存在ですね。
石川:そうですね。今の自分の立場なりのことができればいいな、と思っています。
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