「こんな低予算では食っていけない」挑戦し続けるProduction I.G・石川光久社長の原点と理念【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「こんな低予算では食っていけない」挑戦し続けるProduction I.G・石川光久社長の原点と理念【インタビュー】

アニメサイト連合企画「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」の第17弾は、Production I.Gの代表取締役社長・石川光久にインタビュー。I.Gの前史を含めた歴史と未来のビジョンについてうかがった。

インタビュー
注目記事
Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー
  • Production I.G・石川光久インタビュー

■「アニメーターはアニメの主役」


――独立後、しばらくはTVアニメの制作下請けを中心にされています。その時期で思い出深い作品などはありますか?

石川:『銀河英雄伝説』本伝・第一期の3、9、12、13、14、18話、初期OVA版『機動警察パトレイバー』の1、3、5話、『エスパー魔美』の3作のグロス受けですね。
『銀英伝』自体はキティ・フィルムの作品ですが、特にお世話になったのはマッドハウスの丸山正雄(現MAPPA代表取締役会長)です。
丸山さんからはプリプロ、企画や設定に妥協しないという考え方を教わりました。

シンエイ動画さんには『エスパー魔美』や『チンプイ』で多くの若手スタッフの面倒を見てもらいました。個人的にも『エスパー魔美』は大好きな作品で、特に貞光紳也さん(『クレヨンしんちゃん』演出等)の担当した第46話「雪の降る街を」なんてとてもよかったですね。
この時期はI.Gを「最高の下請け」にすることを目標にしていました。

Production I.G・石川光久インタビュー
――それはどういったコンセプトですか?

石川クオリティとスケジュールと予算をバチッと守って、制作発注側の誰もが「I.Gにお願いしたい!」と言ってくれるような、何10年後でも語り継がれるような最高のスタジオです。

――アニメーター職人集団ってイメージですね。

石川:はい。でも『パトレイバー』のOVA、劇場版第1作と続けて手がけているうちに次第に気付いていったんですが、スタッフロールで「制作協力」と書いている会社が実際には作っていて、でも名前が出るのは元請け会社の方なんですよね。
それでまた「ふざけんな!」ですよ(笑)。

Production I.G・石川光久インタビュー
ここでもまた二つの心が出てくるんですが、純粋な心で「最高の下請けをやりたい!」と思いつつ、一方では「こんな低予算で食っていけるか!」とも考え始めていました。

そういったこともあって『ぼくの地球を守って』などの作品で元請けを始め、『機動警察パトレイバー2 the Movie』ではイングという別会社を立てて出資もすることにしました。

『機動警察パトレイバー2 the Movie』(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会『機動警察パトレイバー2 the Movie』(C)HEADGEAR
――下請けだった『パトレイバー1』から『パトレイバー2』でいきなり製作側になって、出資までされたんですね。

石川:元々アニメ畑にどっぷりなタイプでもなかったからそこまでできたのかもしれませんね。
人にしても作品にしても、投資すべき時は全力でするのが僕の本能なんです。普段はケチでもいいですが、ここだという時までせこいのはダメですね。

――I.Gさんの人的投資といえば、やはり押井守監督でしょうか。

石川:劇場版『パトレイバー』1作目の押井さんのコンテを見た時は「こんなに面白いコンテを切れるとは……!」と身震いしましたが、それでもアニメはマンガ的なものの延長であると内心思っていました。
ところが2作目のコンテを見た時には「これは実写映画だ、むしろそれを超えている!」とさえ思いました。であれば、どれだけ周りに止められても投資すべきだろうと

――それが『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』につながるんですね。石川さんから押井監督にオファーされたのですか?

『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
石川:いいえ、講談社さんから何度もアニメ化の話をいただいていたのですが、実はお断りしていたんです。
その後、押井さんからも「このマンガ読んでみて」「この作品は難しすぎるので映画化するならこうしないと」と熱心な提案があり、また、バンダイビジュアルの渡辺繁(『王立宇宙軍 オネアミスの翼』企画等)さんの後押しもあって制作に至りました。

押井監督は作りたくなったら自分から企画を持ってくるので、こちらから気を遣ってオファーすることはありません。
ただ、押井さんがいざ何かを「作りたい!」と思った時に、会社としてそれを実現できる環境の準備、特に押井さんの考える画作りが可能な人材にいつでも声をかけられるように体制を整えていた自負はあります。

結果的に素晴らしい作品になったと思います。押井さんのコンテも変に力まずバランスが良かったですし、西久保さんの演出の力や原画をやった黄瀬の尽力もありました。
作品が国内外多くの方に受け入れられ押井さんが巨匠になれたのも、いかに人に任せるかを分かっていたからだと思います。

Production I.G・石川光久インタビュー押井守監督作『スカイ・クロラ』より劇中に登場する戦闘機「散香」。スタジオ内の天井に吊るされており、存在感を放っている。

――名作や名監督もそれを支えるアニメーターがいてこそで、I.Gさんは創業時から常にそれを大事にされているんですね。

石川:単に僕が彼ら彼女らの仕事をカッコいい、美しいと思っているからそう接しているだけかもしれません。
良いアニメーターがいないと良いアニメは作れません。アニメーターはアニメの主役であり役者です。僕は映画やドラマの役者や俳優よりも、アニメーターの方がカッコいいと思っています。

■変化し続ける会社組織と、変わらない「I.G」らしさ


――『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』など押井監督作品のヒットに続いて、2000年代に入ってからは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『BLOOD+』『精霊の守り人』など、TVシリーズの元請けでの制作が増えてきます。そこにはどういった転機があったのでしょうか?

石川:『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の後、TVアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』を中心にゲームや映画など広く展開しました。
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は原作からアニメ化する権利をアイジーが講談社と直接契約をしているのです。これによって製作委員会の組成時に、I.Gが参加した各社に利用許諾出すことができるなど、主導権を取れるようにしました。

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
――下請け会社から、利用許諾を出す側にまでなったのですね。

石川許諾を受けて作る側から、権利を持って許諾を出す側に回る必要があると考えたんです。Production I.Gは時代にあわせて仕組みを変えてきたんですが、これは大きな勝負でした。
結果的にこの判断が功を奏し、かなり大きなお金がI.Gに入って、TVシリーズやゲーム制作など活動の幅を広げる契機になりました。

少し余談になりますが、僕が一番尊敬しているプロデューサーは丸山さんなんです。丸山さんは前述の通り企画や設定の作り込みが本当にすごくて、僕はそこでは100年経ってもかないません。
丸山さんの後継者と言えるのはボンズの南雅彦(ボンズ代表取締役)だと思います。僕は南にはなれません。

【関連記事】なぜボンズの作品はハイクオリティで魅力的なのか? 創業20年の歩みを振り返る南雅彦氏ロングインタビュー


その分僕は、製作委員会の座組や会社組織など、仕組みをどう変えていくかで勝負してきました。それがリスペクトする丸山さんへの僕なりの答え方だと思っています。

――仕組みの変化という点では、持株会社I.Gポートの設立、出版社のマッグガーデンとの経営統合や電子コンテンツ配信会社のリンガ・フランカの設立、Netflixとの包括的業務提携など、業態も変化と拡大をし続けていますね。

【関連記事】Netflixとの包括的業務提携の内容とメリットとは? I.G石川社長×ボンズ南代表インタビュー

石川:上場して持株会社としてのI.Gポートを設立したのも、アニメ会社はこれだけカッコいいことをやっているのに「アニメ会社は貧しい」「大変だ」と言われる。そんなイメージを変えたかったんです。
様々な会社を設立するのも、「何か面白いことができるんじゃないか?」と常々新しい取り組みをしているからです。

『攻殻機動隊 SAC_2045』 (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会『攻殻機動隊 SAC_2045』(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

今も含めて、30年間常に危機的状況だと思っていて、5年ごとに会社を解体して新たに作り直す気持ちで必死に取り組んでいます。今だとそのサイクルは3年かもしれませんね。
そうやって僕が仕組み作りに注力する分、今は現場の作品作りは自分のやりたいことより若いスタッフやプロデューサーの意向を優先しています。
2000年代以降、TVシリーズや少年ジャンプの原作ものをやらせていただく事が増えたのもその結果ですね。

Production I.G・石川光久インタビュー「週刊少年ジャンプ」原作の『ハイキュー!!』は、TVシリーズ第3期まで続くヒット作となった

――確かにTVアニメ進出後のI.G作品ラインナップは、それ以前と少し雰囲気が異なっているように思います。一方で、どの作品にも一貫して「I.Gらしさ」のようなものを感じるのは何故でしょう? 常にハイクオリティだという点以外に……。

石川:それはアニメーターを重視しているからではないでしょうか。良いアニメを作るためには良い監督が必要ですが、彼を活かすためにはアニメーターが輝いてないといけません。
アニメーターが輝ける舞台を作ることは、会社としてずっと変わっていないですし、そのための投資は惜しんでこなかったです。

――確かに、アニメーターに対する思いはI.Gタツノコ時代から不変ですね。

石川クオリティについては、会社として劇場用作品の制作をベースにしてきたため、TVシリーズの際でもアニメーターも制作スタッフもそれを継承しているからだと思います。
ただこれも一長一短で、長期シリーズを作ろうとすると息切れしてしまうため、I.GのTVアニメは1、2クールのものが多いですね。
4クール以上の作品を作れる東映アニメーションさんなどは別の面でのクオリティをお持ちだと考えています。


→次のページ:アニメ制作の効率化は不可避な問題
《いしじまえいわ》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集