■原作者が語るWEB版、書籍版、マンガ版それぞれの魅力
――リムルの人間体の容姿は中性的ですよね。可愛い女性キャラクターも多く出てくるのに、“異世界転生もの”に多いハーレム要素を入れなかったのはなぜですか?
伏瀬
そもそもハーレムが好きじゃないんです。ひとりの女の子だけでも付き合うのは大変なのに、3~4人もいたらどえらいことになってしまう、という考えが根底にあるので(笑)。
奥さん同士が仲良くなんてあり得ないと思っているし、アットホームな雰囲気と恋愛は混ぜるとどちらも壊れそうな気がしています。
――WEB連載版から書籍版にする際に、大幅に書き換えていますが何故でしょうか?
伏瀬
WEB版は色々と試行錯誤した形ですから、書籍版できちんと清書したいという思いがありました。今読み返したらよくこれで書いていたなと思うところがあるので(笑)。
WEB版は人の意見が入っていない自分だけで書いている作品ですが、書籍版は編集者の存在が大きいですね。
人それぞれの考えがあると思いますが、僕にとって編集者はセコンドのように信頼して一緒にやっていくパートナーだと思っています。その意見は重要で蔑ろにはできない。その信頼関係が無ければ良い作品はできないですから。
書籍版が好評なのは、今の担当さんが信頼できるからというのは間違いないと思います。とくにリムルに関しては自分の考えを投影している部分が大きいので、編集者から客観的に判断してもらえるのが大きいです。
自分の思いを注入し過ぎてしまうとき、たとえばメイド喫茶でぼったくられる話を書こうとしたことがあって、その際「その話をここで書く必要あります? 削りましょう」と提案されたことがありました。どうしても入れたい場合は戦うこともありますが、そのときは言われて「あ、要らないかな」と自分でも思えたので素直に従いました(笑)。

――コミカライズの話が決まった時に、小説とは表現が変わってきますがどのような要望をしましたか?
伏瀬
とりあえず丁寧にやっていこうと。ただ、作品が受け入れられるかどうか分からないので、初めはちょっと駆け足気味に進めてもらいました。
その中で、小説での特徴であるスキルの説明については、マンガで一気にスキルの説明を書いてもテンポが悪いので、「ナレーションのようにコマの端に書いて、読みたい人だけ読んでもらう形にするのはどうでしょう」と提案しました。
――マンガ版では、1話ずつ監修している感じでしょうか?
伏瀬
連載当初は、「このエピソードはここで見せたほうがいい」とか「このキャラは先に出したほうがいい」など伝えていました。マンガを描いてくださっている川上泰樹先生も意見を出してくれるので、より良い方を採用しています。
今ではだいぶお互いが慣れてきたのか、事前に打ち合わせした大きな構成をいじることなく、セリフチェックだけで済む場合が多いです。
あと、小説ではリムルの性格が序盤はちょっとキツイところがあるので、マンガではまろやかにすることにしました。そこはアニメでも同じですね。
WEB版が一番性格きつくて、書籍版も少しそれが残っていて、マンガとアニメがもっともマイルドです(笑)。
■アニメ版は「不満のない出来上がり」
――アニメ化の話が来たのはいつ頃ですか?
伏瀬
2016年の夏ぐらいです。その年末に、制作スタッフの皆さんと顔合わせをして、2017年の2月頃に第1回目の脚本会議がありました。
――脚本会議にはどれぐらいの頻度で参加しているのですか?
伏瀬
最初の顔合わせだけですね。シリーズ構成・脚本の筆安一幸さんがすごく筆の速い方なので、会議の前日までにシナリオを僕に送ってくれるんです。なので、会議が始まるまでには気になる点を全部書き出してお戻ししていました。
僕からの要望はほぼ反映していただいています。反映されない部分も、「ここはこういう理由でこうしたいです」といった説明を聞くと納得できることが多かったです。
監修の意味で言えば、僕には不満のない出来上がりになっていますね。
――実際に出来上がったアニメを見て手応えはどうですか?
伏瀬
満点と言って良いです。映像はちょっとしたところにも丁寧な描写が入れられていて、感心するばかりでした。
キャラクターの声に関しても、「リムルはこれしかない!」といった感じになっています。どうしても読者それぞれがイメージするリムルの声があるでしょうから、最初は違和感がある方もいらっしゃるかもしれませんが、ストーリーが進むにつれてしっくりくるはずです。
あとシズさんというキャラクターに関しては、僕が意図していたものから完全に離れていってヒロイン化していますね。これは良い意味で広がっていったなという感じです。
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――2018年秋は60作品以上ものアニメが放送されますが、アニメ!アニメ!が事前に行ったアンケート「2018年秋アニメ 期待値の高い作品は?」で本作は5位にランクインしていました。放送前からアニメファンからの注目度はかなり高いのではないかと思います。
伏瀬
脚本が不満のない出来に仕上がっていますので、後はそれにコンテや原画が乗っかって完成に至るわけですから、もうプラス要素しかないと思っています。
たくさんのアニメがある中で期待されているのは大変ありがたく思っていますし、スタッフの皆さんが本当に頑張ってくださったので、間違いなく期待に応えられる仕上がりになっています。ぜひ楽しみにしてください。