■『転スラ』における創作の感覚は「ゲームマスターに近い」
――本作でとくに書きたかった要素はなんだったのでしょうか?
伏瀬
バトルシーンが評価されていますが、実はバトル以外のキャラクター同士の絡みを大事にしています。
基本的に物語をつくるうえで、まずは登場人物の設定を練ります。「どういうことを考えてこのキャラクターは動いているのか?」「性格はマジメなのか、いい加減なのか、ズルいのか?」などを考えたうえでキャラクターを動かす。
その中で、「部下を使うのは大変だよね」、「責任は重要だよね」というキャラクターが置かれている立場や考えを深めていきます。
またバトルという点では、戦っても仲間のキャラクターが死ぬことは無いようにしています。「簡単に戦争と言うけど、本当に仲間が死んでしまったら人は前に進めなくなるのではないか?」と考えて、そういったところは気にしています。
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――伏瀬さんはかなりのゲーム好きということですが、今作で影響を受けている部分はどのあたりになりますか?
伏瀬
TRPG (テーブルトークRPG)をかなり遊んできましたので、作品設定の根底ではどうしても影響を受けていますね。
あと、スキルの部分でいうならマンガです。たとえば、『ドラゴンボール』や『幽☆遊☆白書』などに出てくる必殺技をスキル化した時にどういうものになるか?と想像し、命中精度や威力など数値化してスキルポイントとしてキャラクターに割り振っていく……そういった感じでキャラクターの設定を考えています。
ただし、重要なのはキャラクターであって、スキルは付属品に過ぎません。
そのキャラクターが近接戦闘を苦手とするなら距離を取ってハメ技を使って相手を倒すなど、まずは個性や性格を考えるところからスタートしています。
――物語全体のキャラクター配置もあらかじめ決めていますか?
伏瀬
いえ、最初からガチガチに固めているわけではありません。もちろん、大筋ではどういう物語になっているかは決めているのですが、各イベントはその都度考えます。
まずどんなイベントが起きるのかを決め、そのイベントに適した形でキャラを動かしていきます。
逆にイベントが思いつかない時はどういうキャラを動かしたいか決めたうえで、このメンツを動かしたらどういったイベントが起こるかを決めることもあります。
とにかく魅力的なキャラクターありきなんです。どちらかというと、ゲームマスター的な感覚に近いですね。
イベントは用意するけど、キャラクターが動いてくれないと始まらない。どれだけ魅力的なキャラクターを作れるかで話が変わってくるんです。
だから、捨て駒、記号のようなキャラは出したくない。やられ役でもやられ役ならではの考えがあったことを読者に伝えるようにしています。
――登場キャラクターが多かったり、主人公のリムルが強い設定を持っていたりするので、バトルとドラマ面でのバランスを取るのは難しくありませんか?
伏瀬
細かい部分は抜きにして、だいたいこのキャラクターは戦闘力14万とか、こっちは100万、あっちが4000万といったように数値を振り分けています。
「同じぐらいの戦闘力だったらどちらが勝ってもおかしくないよね?」となりますし、絶対に勝てない数値の相手に遭遇したキャラがいたら、「こいつ終わったな(笑)」と内心で思います。不自然じゃない流れを作ることは意識しています。
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――リムルと仲間達の関係性がアットホームな雰囲気で良いという声もありますが、それも描きたかったことですか?
伏瀬
そうですね。現実世界では難しいかもしれないけど、せめて作品の中では幸せな世界を描きたいというのが前提にありました。
当初は「幸せな世界も壊れることがある」という見せ方をしたいと考えたときもありますが、『転スラ』には合わないなと途中で止めました。