堺
もともとの定義から言うと、宇宙を舞台にした活劇で、マジメなSFというよりは低俗なものとして1920年代から40年代にかけて流行ったもので、そこから「宇宙活劇」を意味する言葉になりました。現在は、ほとんど絶滅したサブジャンルとされています。アメリカの小説ではその代わりにミリタリーSFが流行っています。2017年という時代で見ると、こういう作品が登場すること自体が珍しいですね。あとはもう『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』くらいしかないかも。
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藤津
僕の印象では、スペオペに括るには『ID-0』ってマジメな作品かなという気がするんですよね。
堺
現代的なスペオペだと思うんですよ。機械に心を移したときの心身二元論的な問題から、生身の体がなくなってしまうという、ああいう技術が発達した世界における危険性まで含めて描いているところも現代的。
数土
遠未来作品って、題材として難しいと思うんですよ。この作品は日常との接点がほとんどないながらも、それを物語として僕たちにきちんと共感させるためのいろんな技が冴えていると思うんですよね。
堺
制作者の狙いはわかりませんが、それについても日本よりはアメリカのSFが好きな人の方を向いている気がします。
数土
あぁ、『スタートレック』が好きな人はこの作品も好きだろうなと思います。
堺
そうそう。アメリカのサイファイチャンネルなんかでやっているSFドラマが好きな人は絶対に好きだろうという気はします。他の作品でいうワープとはひと味違う超光速航行があるところとか。さっき言った機械に心をアップロードする技術とか、SF的におもしろい小ネタが多い。わからない人は気にせず飛ばしても良いんですけどね。
数土
SFってそういうものだと思うんですよ。概念を説明されてそれを事細かに検証するのではなく、そういうものだと受け止める。そういう概念の辻褄を合わせているんだよということが、作中に漂っていることのほうが重要だと思うんですよね。
――「SF」というと身構えてしまうアニメファンもいるかと思いますが、そんな方にはこの作品をどのように薦めたらいいと思いますか?
堺
あまり細かいことを気にしないことかな。
藤津
ドラマはすごくシンプルですからね。作品を観るうえでのハードルはそれほど高くないと思いますよ。造語が少し出てきますが、観ていれば分かるように作られていますから。ワープというものを知っていれば、「ミゲルジャンプ」がそれに相当するものだなとわかりますし。
堺
あの世界のワープって、実はふたつの鉱石が要るというのが3話くらいで分かるようになってて、そこまではモヤモヤするかもしれないけど、それも絵で見ればなんとなく分かるように作られているし、そこも含めて細かいことを気にしない。
数土
登場人物も分かっていないという設定ですから。
藤津
今の僕らだって、たとえばテレビの原理をすべて理解して観ているわけではないのと同じ。そのあたりを気にせず、マヤの立場でイドの運命を見ればいいと思うんですよ。