■キャラクターの心情に寄り添った映像に――原作の河野裕さんとはなにかお話はなさったのでしょうか?川面アニメの制作が始まる前からお話をしまして、咲良田の街で、作品に登場するキーワードについて聞かせていただきました。シナリオも毎回チェックしていただいています。――原作では場面をセリフで説明するのではなく、行間を大切にしている印象がありました。それゆえこれをアニメで表現する難しさもあるではないかと感じました。川面本作は前半で起こっていた事件が、後半になると目指していた場所に結びつくための蓄積であるという大きな展開を持っている作品です。原作では行間が効果的に使われていますが、アニメで同じように間を取ると、視聴体験としてはむしろ冗長に感じてしまう。もちろん場面によっては間が大切になることもありますが、基本的にはテンポ重視で2クールを駆け抜けたいですね。――2クールの長丁場となると、小気味よく見せることは重要ですね。川面現在はアニメファンの方々の視聴スタイルも変わってきて、2クールに渡って見ていくのが難しくなっていると思うんです。本作は後半へ進むに従って、徐々に物語の全貌が分かっていく作品です。2クール目に入って初めて分かる事実もたくさんあります。そうなると、序盤で飽きさせないことは特に意識しています。――では、ミステリーの語り口を映像化する際の工夫はなにかありますか?川面尖った映像表現は使わず、できるだけキャラクターの心情に寄り添いたいと考えています。また音楽も効果的に使いながら、集中しやすい映像に仕上げるつもりです。――原作はライトノベルですが、文字の情報からどのようにイメージを膨らませたのでしょう。川面僕の場合は音楽からですね。「こんな音楽が流れている世界だな」と考えるところから始まって、キャラクターデザインや声優さんが決まっていくに連れてイメージも大きなものになっていきます。――デザイン面ではいかがでしたか。川面キャラクターデザインに関しては下谷智之さんというベテランで、しっかりした考えを持っている方が担当してくださったので、信頼してお任せしました。実際に出来上がったデザインも隙がなく、きっちりとしたデザインになっていると思います。――そのデザインを実際に動かすアニメーターさんへは、何かオーダーなどありましたか?川面注意深くお願いしたのは、キャラクターの表情をつけすぎないことです。特にケイたち主人公は感情の動きがささやかなので、あくまでも自然な表情を見せてほしいのです。しかし喋っているときに、表情をつけたくなるスタッフの気持ちもとても分かります。そこをがんばって抑えてくれと、毎日言っています。――やはりアニメーターの皆さんは、表情豊かなほうが描きやすいのでしょうか。川面そうだと思います。それと「こんなに無表情でいいのか」と、不安な気持ちもあるのかもしれません。しかしこれを崩すとキャラクターの性格もズレてしまうので、難しいところですね。――無表情すぎてもいけませんからね。川面そうなんです。感情の起伏が少ないだけで、決して人形ではありません。そこは声優さんの声も含めて、あらゆる方法で感情を表現していこうという考えです。声を聞けばスタッフもイメージしやすくなって、2話以降が楽になった印象がありました。――キャストについてはどのように決めていったのですか?川面決め打ちではなくオーディションで、実際のセリフを話してもらい決めていきました。ただ、どの声優さんも悩んだことはなく、スムーズに決まっていった印象でしたね。ケイ役の石川界人さん、春埼の花澤香菜さんは感情を抑えての演技がとてもうまく、作品とも非常に合っていると感じています。わざとらしくなく、自然と感情を殺せるのは重視していました。悠木(碧さんが演じる菫に関しても、全部分かっているのに知らない風に喋るという裏芝居が多いキャラクターで、悠木さんの含みを込めた芝居は誰でもできることではないと思います。――アフレコ時のディレクションなどはいかがでしょう。川面原作をしっかりと読み込んでいて、こちらからお願いすることもほとんどないくらいです。ケイ、美空、菫の3人の会話シーンは、本当に聞いているだけで収録が終わります。――キャラクターの感情を表現するという意味で、そのほかにこだわった個所はありますか?川面色使いと言いますか、シリアスなシーンや目的地が分かりにくい会話の場面では細かく天気を変えています。天気の違いで色味も変わって、それは本当に気づくか気づかないかレベルの些細な違いですが、手数を増やして感情を表現するように心がけています。人物の表情や声だけでは見せきれない心情を、色から伝わる細かい情報の蓄積で表現していきたいです。――本作では咲良田という架空の街が舞台になっていますが、こちらも作品を作る上で大切な要素だと思います。川面地に足の着いた舞台が良いと思うので、地方都市らしくかつ古いものと新しいものが混ざっている街を作り上げていきました。能力が生まれた街でありながら、あくまでも現実と寄り添った、どこかにありそうな都市に仕上がっています。ロケハンもしましたが、そのまま再現というわけではなく、あくまでもイメージを膨らませるためです。■極端な話、アニメを見ながら寝たくなってもいい――川面さんはこれまでにもさまざまな作品を手がけてきましたが、以前の作品と『サクラダリセット』で作り方に違いはありますか?川面僕の中ではあまりなくて、演出上の作り方も共通しています。ただ作品をとりまく雰囲気が独特なので、楽しみながら作れています。――川面監督というと『のんのんびより』や『田中君はいつもけだるげ』など、ゆったりとした空気感を持った作品が多いですよね。川面自然とそうなっているだけなんですけどね(笑)。僕の考えとしては、アニメは音と色の波であり、視聴体験によって波を感じて気持ちよくなってほしいのです。気持ちよくなるといってもさまざまな形があると思います。極端な話、アニメを見ながら寝たくなってもいい。ヒーリングというか、それもまたアニメによって気持ちがよくなった証明でもありますから。――その考えは『サクラダリセット』にも反映されているのでしょうか。川面キャラクターの言動から自分の思春期を思い出したり、そういう意味では僕の過去の作品とベクトルは違いますが、根付いていると思います。メインキャラクターの3人は各々が悩みを抱えていますが、その悩み方がとても真摯で、ピュアすぎるくらいにピュアなんです。そういう人たちを見て勇気付けられてもいいし、もちろん全体に流れる空気感に身を委ねてもいいし、人それぞれの体験があっていいと思います。――作品の雰囲気を作り上げるためには主題歌も欠かせないと思います。川面牧野由依さんのオープニングテーマはタイトルからして「Reset」で、作品に寄り添った内容で嬉しかったですね。僕自身は原作に合わせてほしいという、大まかな要望しか出していなかったのですが、とても良い楽曲になっていると思います。THE ORAL CIGARETTESのエンディングテーマは春埼の目線で描かれた歌詞が特徴で、作品の物語を理解していくにつれて、楽曲の意味も深まってくると思います。――分かりました。では最後に、あらためてファンの方にはどんなところに注目してほしいか教えてください。川面声優さんはもちろんスタッフにも信頼のできる人が集まったので、まずは第1話を楽しみにしてほしいです。とにかく見やすく、原作を知らない人でもすぐに入れるように序盤を作っていますので、初見でも楽しめるはずです。そしてなんといっても、物語が大きく動く2クール目に期待してもらえると嬉しいです。いろいろな伏線が散りばめられて、それが最終話に向かって収束していきます。さらにアニメを見た後には原作を読むと、さらに10倍の伏線が隠されています。アニメだけで終わらず、原作も合わせて楽しんでもらえると新たな発見もあると思います。――ありがとうございました。
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