今回は「あにめたまご2016」の4作品の中から、シグナル・エムディが制作する『カラフル忍者いろまき』の櫻井圭記プロデューサーに話を聞いた。
『カラフル忍者いろまき』・・・小学3年生の姫乃が引っ越した田舎の家はなんと忍者屋敷だった。炎を操る“赤巻”、水回り担当の“青巻”、日曜大工担当の“黄色巻”。彼らが混ざれば“緑巻”、“紫巻”、“橙巻”が誕生だ! そんなこぢんまりとした生活に襲い来る大きな竜巻。忍者たちは自分たちの“姫”と信じる姫乃を守ることができるのだろうか――。
アニメーション制作を担当しているシグナル・エムディはIGポートのグループのアニメスタジオ。ファミリー向けのフルデジタルアニメ制作やスマホアプリの開発を行うため、2014年に設立された。
そして監督を務めるのはラーメンズをはじめさまざまな舞台、映像表現作品で独自の世界を創出するクリエイターであり、日本のみならず海外でも多くのファンを持つ小林賢太郎氏。異色の取り合わせに注目が集まるデジタル作画アニメーション作品が、『カラフル忍者いろまき』だ。
[取材・構成=細川洋平]
――あにめたまご2016へ参加するに経緯をうかがえますか?
櫻井圭記プロデューサー(以下、櫻井)
あにめたまごの募集とほぼ同時期くらいに小林賢太郎さんと一緒に本作を準備していたんです。企画書があって、キャラクター原案やそれぞれのキャラの特技なども小林さんに考えていただいて、プロットからシナリオにしようとしていた頃でした。当初は中編程度の作品で考えていたんですけど、あにめたまごさんに応募して採用されてからは、じゃあ24分で一旦作ってみようかと。
――ラーメンズをはじめ、さまざまな表現活動をされている小林賢太郎さんが監督を務められるということにも驚きました。
櫻井
僕自身が15年来のファンで、一度ご挨拶をさせていただいてからはここ数年、ずっと小林さんのやられているいろんな舞台にご招待いただいていたんです。どうにか恩返しができないかと思い、ポツネンという小林さんのソロプロジェクトの中の映像を一部手伝わせていただいたりもしました。
その際に、もっと一緒に何かできないかと「小林さん脚本・監督のアニメーションはできないでしょうか」と伝えました。そこですごく興味を持っていただけたので、“子ども向けの中編”という外枠を提案しました。そこから一週間くらいでキャラ原案とプロットが来て、今の原型となりました。
――櫻井さんはご自身でもシナリオを書かれますが、シナリオは自分でやる、ことは考えませんでしたか?
櫻井
全く考えませんでした。原画までは無理としても、できるだけ小林さんの濃度を高めたいというのが企画の趣旨でしたから。声もアフレコではなくプレスコでの収録にしました。
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――どうしてプレスコにしたのでしょうか。
櫻井
「間」のためです。笑いの間というのは完成した絵に声を当てても出ないと思ったんです。先に台詞を全て録って間のタイミングをFIXさせてから作画に入りました。役者の芝居のニュアンスがわかるので、絵とのギャップが生まれにくいとも思いました。絵でお芝居を作って行きたいアニメーターさんはまた違うかも知れませんが、今回の原画さんからはやりやすいという声は大きかったです。
――人材育成という観点で、今回の制作現場はどういうものでしたか。
櫻井
デジタル作画やプレスコは若手アニメーターさんで初経験のかたも多かったと思います。僕の個人的な感覚に過ぎませんが、デジタル作画は一度やったら戻れないという気がします。僕は元々シナリオライターですが、いまPCで原稿を書くのをやめて原稿用紙と万年筆に戻れと言われてもちょっと考えられません。それと似ていると思います。
――作業効率も上がっているのでしょうか。
櫻井
慣れれば早いと思います。描き味はどうしても紙には勝てませんが、描いた後でいかようにも修正がきくというのは絶対的なメリットだと思います。アニメのフローでは作画の後の工程がとても多いですよね。「レイアウト→演出チェック→作監チェック→原画→演出チェック→作監チェック」。この工程はもしかしたらこの先ほぼなくなって、レイアウトチェックと原画チェックは事実上、統合されるようになるかも知れません。『カラフル忍者』では動検さんに出す前に原画マンが担当カットの動画を見て、意図している動きになっているのかチェックしてから動検さんに回したりもしました。ワークフローそのものを試行錯誤していく面白さがあったと思います。
――若手アニメーターさんはそういったフローに順応して行けたのでしょうか。
櫻井
想像よりもはるかにスムーズに順応してくれました。それに指導には演出の荒川眞嗣さんが当たって、アニメ講座のようなものを定期的に開いたりして下さっていたんです。キャラクターデザイン・作画監督の海島千本さんにも積極的に参加していただきました。若手育成担当にあたった作監補の山本祐希江さんもコミュニケーションに長けた方だったので非常に助かりました。一つの現場で一つの作品だけに専念して作っていたのでコミュニケーションは比較的うまく行ったと思います。
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――他にシグナルさん特有のものというのはありますか?
櫻井
特有というと違うかも知れませんが、本作は基本がインハウスでの制作でした。カット袋の回収や届けというものがほとんど存在していませんでした。外とのやりとりをする時も基本はデータなので、制作進行車がないですし、僕も制作ですが免許を持っていません。進行車を持っていない制作会社はかなり珍しいと思います(笑)。
――小林監督と荒川さんの組み合わせもうまく行ったという印象でしょうか。
櫻井
2人の天才の息が合っているのが非常によかったと感じています。小林さんは「全てにカンペキに指示を出す方」だと思っていたのですが、はじめに荒川さんのラフスケッチを見た際に「やっぱり餅は餅屋だ」と唸って、絵づくりに関してはかなりの部分を荒川さんはじめ現場のスタッフに任せて下さったんです。小林賢太郎さんはもちろんすばらしい才能の持ち主ですが、さらにメインスタッフにも綺羅星の如く才能溢れる人たちが結集しています。小林さんのテイストもキッチリ残りつつ、コミカルさや活き活きとした動きが溢れた、良い意味での「古き良きアニメ」になったと思います。
あにめたまご2016 http://animetamago.jp/
シグナル・エムディ http://www.signal-md.co.jp/
『カラフル忍者いろまき』
(C)シグナル・エムディ/文化庁 あにめたまご2016