――『台風のノルダ』は親友との仲違い、不思議な少女との出会い、文化祭前夜の学校など、多彩なモチーフが詰め込まれています。まずはどこから世界観を作りあげたのでしょうか?
新井監督
コアの部分は、新人時代に描いた「くじらが空を飛んだ日」というイラストが元になっています。島にある学校の生徒たちが台風のせいで校舎に閉じ込められて一夜を過ごす。そういった独特な感覚を映像に落とし込めれば面白いものになりそうだなというのが第一にありました。
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新井監督
オリジナルですが、島全体を俯瞰で見せる場面では江ノ島を逆にしてみたり、色々と利用しています。実際に江ノ島や学校へロケハンにも行きましたが、見つけた場所をそのまま使うと言うよりは、自分の中にあったイメージにリアリティを付けるという意味合いが強かったですね。たとえば中庭のある校舎は自分が通っていた中学校をイメージしています。
――制作する上で刺激を受けた作品はありますか?
新井監督
実写映画の『学校の怪談』(1995)が好きで、ジュブナイルものを描きたいとも思っていました。学校が色々な物であふれているのは、その影響が大きいですね。
あと『台風クラブ』(1985)は雰囲気だけでなく、全シーン全カットを参考にしているほどです。『台風クラブ』の画面は少し緑がかった色使いが特徴的で、そういう絵作りを美術監督の西村(美香)さんが丁寧に拾ってくれています。
――タイトルに「台風」とあるだけに、風と雨に力が注がれているように感じました。
新井監督
風で木を揺らしたりすると大量に枚数がかかってしまうので避けられがちなのですが、『ノルダ』ではそういった自然描写もきちんと描きたかったんです。風は音響を含めて気持ち良く表現したいと当初から考えていました。雨も存在感を出したかったので、撮影さんにお願いしてセルアニメのような雨にしてもらいました。
――「セルアニメのような雨」といいますと?
新井監督
昔のアニメではセルに直接傷を付けて雨を表現していたため、引っ掻いたような荒々しい線になっていたんです。最近のアニメだとどうしても雨がふわっとした感じになりがちなので、「今回は鋭い雨でお願いします」とリクエストしました。あと学校の窓に付いた水滴の表現もすごく気に入っていて、スタッフには本当に感謝しています。