■ 岡田麿里の脚本のすごさを思い知らされています
―本編を拝見していて印象的だったのは、ロボットのアクションシーンが物語の流れに澱みを作らず、バトル中にもストーリーがどんどん進んでいくところです。
佐藤順一監督(以下、佐藤)
そうですね。岡田さんが書いていますし、ロボットのディテールや機構、構造をじっくり見せたり、というよりは、ドラマ中心になってますね。出てくる敵も『イマシメ』という、人間の変わり果てた存在だったりと、倒しにくい(笑)。そもそもロボットの中に、生きたまま人間が組み込まれる『LIM』(※)という設定が凶悪なんですよ。
物語は『LIM』とパイロットには誰がなるのか、今そこに誰が乗っているのかというのが重要な視点になっているので、二機のロボットがぶつかり合うような痛快ロボットアクションモノにはなってないですね。やはり初ロボットモノは挑戦ということでいろいろと勉強させていただきました。
(※ 「リム」と読む。屍鋼化(結晶化)の進んだ人間が内臓される。主人公機含む同型3機は『LIM』がないと最大能力を発揮できない。そのため、誰が『LIM』になるかは物語中の大きな争点になる)
―体が「屍鋼(シバガネ)」という結晶に冒されて、症状が進むと、憎悪のバケモノ「イマシメ」になってしまう。これにメインキャラクターが何人も蝕まれてしまうという展開があり、物語に大きな影響を与えていきます。すごいなと思ったのは、終盤、「屍鋼(シバガネ)」に冒されたエミル、ササメというヒロイン2人がLIMになってしまって存在しない、というところです。
佐藤
いないですもんね、機械の部品になっちゃってますけど、って(笑)。それでまさかのマアムがヒーローかというくらいの活躍をし始める。
―物語の語り部を担っていたマアムが。
佐藤
引っ込み思案じゃなかったのか! というくらいの活躍ですから。しかしながら、それも頭から振り返ると仕組まれていて。岡田さんを誉めるようであれですけど、今回は彼女の脚本というか、構成のすごさを思い知らされてる状態です。
■ 俺が一番黒いです(笑)
―これはぜひ教えていただきたいのですが、今回の物語における黒さというのは、佐藤監督と岡田さん、どちらの成分から来ているものなのでしょうか。
佐藤
はははは(笑)。実際には岡田さんはそんなに黒いモノを出してないんですよ。彼女は、みんな普段は目を塞いでいるけど「本当はこういうもんでしょ?」というものを書いてるだけなんです。だから、タイトルで『黒キ』と言ってますが、物語的にはそんなに黒いところはないと思うんです。
そう考えると、アフレコ現場で「誰が最初にLIMになるのかな? ククク」と言ってる俺が一番黒い感じですか(笑)。なんとなくですが、そうかも知れない。
―「佐藤監督、ついに自供する」と(笑)。
佐藤
ついにゲロッた。ははは(笑)。
後編「ばらまかれたピースをはめる岡田麿里にビックリ」に続く
『M3~ソノ黒キ鋼~』
/http://m3-project.com/