その中で監督を務めるのは、プロダクション I.Gの新鋭・塩谷直義である。OVA『東京マーブルチョコレート』、映画『劇場版BLOOD-C The Last Dark』に続き、テレビシリーズ監督初挑戦に、大きな注目も集まる。塩谷直義監督に『PSYCHO-PASS サイコパス』の企画誕生から、コンセプト、世界観までを伺った。
[インタビュー取材・構成:数土直志] <写真撮影>新妻和久
『PSYCHO-PASS サイコパス』
フジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜、ほか各局でも放送中
/http://psycho-pass.com/
/http://facebook.com/psychopasstv
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―――― アニメ!アニメ!(以下AA)
『PSYCHO-PASS サイコパス』が、この10月から大きなプロジェクトとして始まります。大きな質問からになりますが、監督から『PSYCHO-PASS サイコパス』を一言で話すとどういう作品になりますか。
―――― 塩谷直義監督(以下塩谷)
まず、舞台は近未来の東京です。そこでは社会体制が変わっていて、その中で公安局刑事課の面々が、どう事件に取り組み、解決していくかという話です。
この世界は精神が数値化されており、その人の意志とは関係なく、この人はどういう性格とか、どういう職業適性があってと判断されます。人の考え方や思想が全部数値化したシステムです。それを基準に生きている世界観ですね。そうした中で刑事課は、事件が起こる前に犯罪を取り締まっているんです。
ドミネーターという銃が出てくるのですが、この銃が司法制度も持っていて、銃が判断をして、その場で判決を下します。
―――― AA
それは人ではなくて、銃が判断するのですか。
―――― 塩谷
撃つ側の人間は引き金を引くだけです。この人は生きていくべきか、まだ治療の余地があるのかを銃が判断して、殺すか殺さないかを選ぶ。自分たちの意志には関係なくそれを扱う刑事たちの話です。
―――― AA
本作はプロダクションI.Gさんが制作されます。それだけに観るかたにはSFやアクションの期待値も高いはずです。いまのお話を聞いてもSF度、アクション度はかなり高そうです。
監督にとってSFアニメ、あるいはアクションアニメはどういった位置づけですか?
―――― 塩谷
プロダクション I.Gがやるとなると、イメージとして『攻殻機動隊』などがあると思いますので、どうオリジナルの色を出すかという時に、銃に集約しました。それと出来るだけSF度は上げないようにしています。
―――― AA
逆にSFっぽくしないのですか?
―――― 塩谷
車が空を飛んでいたりといった世界観はあります。でも、それはあまり意識しません。ホログラムで飾られた社会を綺麗に見せるより、アクのある美術などを設定に落とし込んでいこうと思っています。
今回、世界観設定のビジュアル面は平田秀一さんにお願いしました。それをお願いする時の打ち合わせで、本広(克行)さんと「イメージしているのは『ブレードランナー』と『ガタカ』です」という話をしました。
80年代の未来観に近い、綺麗なだけの都市でなく、綺麗な部分と綺麗じゃない部分を織り交ぜています。
―――― AA
例えば、銃に集約される、もうひとつは管理社会、そしてホログラムには少し虚飾的なイメージがあります。メッセージ性は強いのですか?
―――― 塩谷
それを今回のテーマや背景、ビジュアルの表現と、どうつなげていくかです。
そこでSF度が高くならないための位置づけとして、ヒロインの常守 朱(つねもり・あかね)がいます。彼女が疑問符を持って大人の社会に入っていくところから物語が始まるんです。
公安局刑事課に就職した朱が新人としてやってきて、彼女を通して、物語が広がっていく構成ですね。
■ 監視官と執行官:ふたつの役割
―――― AA
キャラクターについても伺わせてください。主人公が男性の狡噛慎也ですね、朱というヒロインがおり、さらに刑事課の先輩たちがいます。その配置はどう考えられたのですか?
―――― 塩谷
朱は、組織として出来上がっているなかに入っていくヒロインです。それぞれのキャラクターに関係性、バックグラウンドがあり、それは物語が進むにつれて見えてきます。
例えば、刑事課のなかには監視官と呼ばれる役職と、執行官と呼ばれる役職と2つがあるのですが、監視官は命令を下す側の人で、執行官は実動部隊です。
主人公の狡噛慎也は執行官で、要は体を動かすという位置です。そこにエリートの位置づけにある監視官として来るのが朱です。年下で新人ですけれど上司として先輩たちを扱っていくわけです。
―――― AA
なかなか難しい立ち位置ですね。
―――― 塩谷
そうですね。気を遣いながらの仕事になりますので、そこにドラマが生まれます。ドタバタや群像劇がありながら進んでいきます。
―――― AA
『PSYCHO-PASS サイコパス』は、2クールですが、相当厚みのある物語になりますか?
―――― 塩谷
そうですね。1話から5話ぐらいまでで、世界観の仕組み、人間関係を見せていて、そのなかで細かく社会の問題点をだんだん浮き彫りにしていきます。とにかくいっぱい疑問点がでて、解決出来ない過去の話や、つながっていない色々なキーワードが初めに提示されます。やがて宿敵である登場人物も現れます。
/「“数値化した社会”これが今回の『PSYCHO-PASS サイコパス』」後編に続く
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