フランス・アニメーションレポートby伊藤裕美 第2回 多様化が進む、ヨーロッパ・アニメーション | アニメ!アニメ!

フランス・アニメーションレポートby伊藤裕美 第2回 多様化が進む、ヨーロッパ・アニメーション

ヨーロッパ・アニメーションの活況を追い風に、アヌシーは長編の比重を増し、作家が単独で制作する自主企画アニメーションの上映に留まらず、世界公開を前提とする長編アニメーションの新企画を話し合う国際舞台へ進化中だ。

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フランス・アニメーションレポート:
アヌシー2012からby伊藤裕美 第2回

多様化が進む、ヨーロッパ・アニメーション

取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)


■制作・公開本数の増加、そして多様化が進む、ヨーロッパ・アニメーション

十年来のヨーロッパ・アニメーションの活況を追い風に、アヌシーは長編劇場作品の比重を増し、作家が単独で制作する自主企画アニメーションの上映に留まらず、世界公開を前提とする長編アニメーションの新企画を話し合う国際舞台へ進化中だ。
長編アニメーションは、ヨーロッパのプロデューサーとアニメーションスタジオを虜にしている。フランスの映画専門誌「écrantotal(エクラントタル)」(12年6月5日号)は、「シリーズから長編へ:初歩段階」という特集を組み、長編へシフトするアニメーションの資金調達、技術、クリエイティブ、マーケティングの実情を紹介している。
ヨーロッパのアニメーション業界関係者のアソシエーションCARTOON(カートゥーン)は毎年3月に長編アニメーション映画のピッチ、Cartoon Movie(カートゥーン・ムービー)を開催し、今年も34カ国から700名を超すプロデューサー、ディストリビューター、バイヤー、インヴェスターが集まり、ヨーロッパ18カ国から、コンセプト、開発中、制作中、完成作品の4つのカテゴリーに延べ55企画がプレゼンされ、活発なビジネスミーティングが繰り広げられた。

アヌシーでは、一般公開前のスニークプレビューで、『Ernest & Celestine(原題 アーネストとセレスティーヌ)』、『Madagascar 3: Europe’s Most Wanted(マダガスカル3)』、フランスとカナダ合作の『Day of the Crows/Le Jour des corneilles』、フランスを代表するCGI/VFXスタジオのMac Guff Ligneからアニメーション部門が分かれたIllumination Mac Guffがディジタルアニメーションを制作した『Dr. Seuss' The Lorax(原題 ドクター・スースのローラックス)』など、現地でも話題の新作が登場した。
オープニングフィルムに選ばれたのは、2Dアニメーションを3D立体視化した『Le Magasin des Suicides』(原作 ジャン・トゥーレの「ようこそ、自殺用品専門店へ」)。フランス映画の巨匠パトリス・ルコントの初アニメーション映画で、アヌシーでは制作最中から紹介され、昨年はルコント監督がコンペティションの審査員を務めた。ルコント監督は次回作もアニメーションになると語っている。

制作中や開発中の新プロジェクトを紹介するワークインプログレスでは、『Hotel Transylvania』(米国)、『Foosball』(アルゼンチン/立体視)、『Extraordinary Tales』(フランス/エドガー・アラン・ポー原作)、『May Mon is in America, She met Buffalo Bill』(フランス)、『Sarila』(カナダ/立体視)、『Aya de Yopougon』(フランス/人気コミックス原作)、『Deep』(アイルランド/ゲームエンジンをベースにした技術で制作されるアニメーション)がピッチされた。

長編部門コンペティションの受賞は、最優秀賞のクリスタルにルーマニアのAnca Damian(アンカ・ダミアン)監督の『Crulic – The Path to Beyond(クルリク)』、特別賞にIgnacio Ferreras(イグナシオ・フェレラス)監督の初長編『Arrugas/Wrinkles(原題 皺)』(スペイン))、観客賞とUNICEF賞にJung (ユング)、Laurent Boileau(ローランド・ボワロー)共同監督の『Le Couleur de peau: Miel(原題 ハチミツ色の肌)』(ベルギー、フランス、スイス、韓国合作)と、ヨーロッパ作品が独占した。
この3作には、“おとな向け”というヨーロッパの傾向が現れた。これまでなら実写映画やドキュメンタリー映画向きと考えられた、社会的あるいは政治的テーマをアニメーションで描く。

『クルリク』は、ルーマニア人が無実の罪によりポーランドで拘留され、自身の正当性を主張すべくハンガー・ストライキをして命を落とした事件を題材としたドキュメンタリーをドローイング、カットアウト、ディジタル加工などミックステクニックを用い、陰鬱さを醸し出すアニメーションに仕上がっている。

アルツハイマー病を煩った元銀行員の男性が老人ホームに移り住み、病状の進行と周囲の老いた人々の姿を描いた『皺』は、スペインのパコ・ロカが描いたコミックが原作で、短編アニメーション『How to Cope with Death』(死神と老婆、2002年)でアヌシーの初監督作品に授与されるJean-Luc Xiberras 賞を受賞するなど、評判となったフェレラス監督の初長編。
フェレラスはアルゼンチンに生まれで、オーストラリア、スペインそして日本でのアニメーション制作を経て、『死神と老婆』後は、欧米でアニメーターとして活動しながら、自主企画を売り込むなど長編アニメーション制作へ情熱を注ぎ、念願が適った。本作は本年の米アカデミー賞長編アニメーション部門にもノミネートされた。

『ハチミツ色の肌』は朝鮮戦争後の混乱期に国際養子縁組みで20万人もの子どもが国外に出た韓国から、ベルギーへ5歳で渡ったユング監督自作の同名コミックスの自伝映画。養父母と、いずれも養子で養父母と血縁のない兄弟姉妹に囲まれた主人公が、断ち切れない実母への憧憬、養母との確執、アイデンティティの在処に悩みながら成長する姿を通じて、家族とは何か、血縁だけが家族の絆なのかと、観客に問いかける。
養父が撮影した家族ビデオ、60年代の養子たちの記録映像、そして監督が40歳を過ぎて初めて訪れたソウルの実写映像をアニメーションに織り交ぜたドキュメンタリー。題名『ハチミツ色の肌」が示す、韓国人とヨーロッパ人が混ざったアイデンティティを主人公が肯定的に受け入れる姿は、ボーダレス化が進む21世紀の世界で普遍性を持つ。

第3回へ続く

[伊藤裕美]
オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
《animeanime》
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