(2009年12月インタビュー)■ 吉浦 康裕(よしうら やすひろ) (アニメーション監督)1980年生まれ。故郷は北海道、育ちは福岡。九州芸術工科大学(現在は九州大学芸術工学部)にて芸術工学を専攻。平成15年3月、同大学卒業。 大学時代に自主制作でアニメーション制作を開始し、作品を国内外で発表。卒業後は福岡にてフリーでショートアニメーション制作を請け負った後、本格的な次回作を制作。2006年にOVA『ペイル・コクーン』を発売。その後、東京に移住。最新作『イヴの時間 劇場版』が大ヒット。様々なシーンで注目を浴びている。■ 『イヴの時間』 2008年8月よりWEBアニメーションとして配信した吉浦監督の最新作。ロボットが実用されて久しく、アンドロイド(人間型ロボット)が実用化されて間もない時代の物語。アンドロイドを人間視することなく便利な道具として利用していたリクオは、自家用アンドロイドのサミィの不審な行動から、「人間とアンドロイドを区別しない」というルールを掲げる喫茶店「イヴの時間」に辿り着く。そして、「イヴの時間」を舞台に様々なドラマが展開する。全6話からなる物語を約2カ月間隔で配信。話数を重ねるご とにファンを増やしていった。公式配信サイトによる総視聴回数は、全6話で300万回を大きく超えるなど大きな話題を呼んでいる。熱いファンの声援は、新作シーンを加えた『イヴの時間 劇場版』につながった。3月6日の劇場公開も連日満員とするヒットとなった。4月3日からはテアトル梅田にて劇場公開する。『イヴの時間』 公式サイト /http://timeofeve.com/■ ワンシチュエーションドラマを想定していた『イヴの時間』 アニメアニメ(以下AA) 『イヴの時間』の制作のきっかけから話していただいて宜しいですか?吉浦康裕監督(以下敬略) 前作『ペイル・コクーン』を作ったのが2005年ぐらいでした。個人制作だったのですが、それが終わった時に長江努プロデューサー(ディレクションズ)から次の短編シリーズを作ってみないかと言われたのがきっかけです。最初はいきなり連作というのはきついかなと思ったのですが、学生時代に作った『水のコトバ』のようなひとつの店だけで完結するようなワンシチュエーションドラマだったらシリーズものでもいけると思ったんです。AA 実際の舞台は喫茶店「イヴの時間」からかなり広がりましたが。吉浦 初期プロットではお店だけだったんです。でも、お店の中でロボットが人間らしくなるという驚きを描くためには、ロボットがロボットらしく存在する外の世界をキチンと描いておかないとだめだと思い、結局は外も描くことになりました。最初はもうちょっと簡単に、不思議なお店があって、主人公たちがいて、毎回不思議な体験をするぐらいの話のつもりだったんです。あとは演劇が昔から好きで、三谷幸喜さんとかも大好きだったので、その影響もありますね。AA 確かに『イヴの時間』とつながるところがありますね。『イヴの時間』もあのまま演劇に出来るのでないでしょうか。吉浦 実はそれが夢なんです。あとはワンシチュエーションだからこそ、一話ごとに出来るだけ違うことをした方が面白いじゃないですか。ミステリーの要素も出てきますし、恋愛的なドキドキな要素もあったり、もしくは、逆に最初からロボットと分かっている人がやってきてドタバタコメディーも作れる。出来る限りバラエティーに富んだ話を作ろうと、6パターンになりました。AA 6パターンの話が出たのですけど、それを映画に仕立て直した時に、これまでのショートストーリーの『イヴの時間』とどういう違いがあるのですか?吉浦 単純に6話を繋ぐだけでは劇場化する意味がないと思ったので、全体的に一つの物語として作り直した感じです。必要な情報を選択して、ある部分は切って、またつなぎの部分をシームレスになるように、新しいシーンを追加したり、場合によっては本編の中でも科白を少し変えたりとかです。あとは全面的に撮影・編集・デジタルエフェクトをブラシアップしたりと、配信版のスケジュールではやり切れなかったことをこの機会にやるという…いわば決定版みたいな感じです。■ ドリ系は“オタク叩き”も少し意識AA 作品は古典的なSFであり、同時にミステリーでもあります。物語の王道だと思います。古典的なスタイルを取りつつ新しさを盛り込んでいく発想はどこから来ていますか。吉浦 仰るとおり僕は、ロボット三原則が出てきたり、巨大建造物の世界だったりと、いわゆる古典SFが昔から好きだったんです。そして古典SF的な要素を正面から描くアニメは、実は思ったほど存在しないのかもしれない、常々そう思っていたんですね。それで昔からやりたいなと思っていたんです。AA ロボットについていえば、作品の中でナギさんたちは、アンドロイドも人間らしくあるように考えているのかと思えましたが。吉浦 必ずしも「人間らしく」というわけでないんですが…。あの社会は、ロボットを少しでも擬人化してしまうのは恥ずかしいことだという極端な価値観が蔓延している世界です。ロボットはステレオタイプなロボットらしくあらねばならない、ということですね。でもロボットは別に人間になりたいわけでも人間の権利を奪おうとしているわけでもなくて、ただ人間のために尽くしたいだけなんです。人間と同一視する必要はない、ただ違う存在として当たり前に認める、このスタンスが最も自然だと思います。AA あれを見ながらあまりロボットと人間が仲良くし過ぎると、ロボットは結局年を取らないし、やはりそこで混乱が起きるんじゃないかと思いました。倫理委員会には正しい側面もあるかなと感じました。吉浦 もちろん、倫理委員会については、「これはこれで一理あるよな」と常に書いていました。ただ主張内容はどうあれ、倫理委会はロボットと過度に接するのはかっこ悪いという風潮をあおって、あのような状況を情報操作で作り出している一面があります。そのやり方は不健全だと思いますね。AA ロボットに入れ込んでいるドリ系と言われている人と、現代のオタクというのは重なるものなのかなとも思いました。吉浦 それは少し意識しました。でも「ロボットに人間らしさを見出す」というのは、それだけで多種多様な状況があるはずなんですよね。例えば着せ替え人形にして、かわいい服を着せて一緒に腕を組んで歩く人もいれば、一方で独居老人が話す相手がいなくて、それで心の支えにする場合もあるんです。けれども、ドリ系という言葉は、そういった様々な状況をひとくくりにまとめちゃう言葉なんだと思います。画一的なネガティブイメージを押し付けて。
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