個人制作アニメ作家・安田現象、初の長編アニメ企画への想いと独学で辿り着いた創作論【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

個人制作アニメ作家・安田現象、初の長編アニメ企画への想いと独学で辿り着いた創作論【インタビュー】

クオリティの高い3Dショートアニメをたったひとりで制作して話題になったアニメ作家・安田現象さん。クラウドファンディングで目指すこと、株式会社ゼノトゥーンの協力により開設した「安田現象スタジオ by Xenotoon」の誕生秘話、そしてすべてのクリエイターの卵に響く独特かつ王道の創作論など、“安田現象の今”をお聞きしました。

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アニメ作家・安田現象さん
  • アニメ作家・安田現象さん
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  • 『メイクアガール』(C)2023 安田現象 / Xenotoon
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クオリティの高い3Dショートアニメをたったひとりで制作して話題になったアニメ作家・安田現象さん。個人制作のショートアニメはもちろん、ずとまよ「正しくなれない」MVや、インテルのプロモーションアニメなど商業の世界でもオファーが続いています。そんな安田さんに「アニメ!アニメ!」が独占取材を実施。

『メイクアガール』

クラウドファンディングで目指すこと、株式会社ゼノトゥーンの協力により開設した「安田現象スタジオ by Xenotoon」の誕生秘話、そしてすべてのクリエイターの卵に響く独特かつ王道の創作論など、“安田現象の今”をお聞きしました。

▽クラウドファンディング詳細はこちら▽
アニメ作家・安田現象 初長編『メイクアガール』劇場映画化プロジェクト第2弾

https://camp-fire.jp/projects/view/698036

[取材・文:気賀沢昌志 撮影:吉野庫之介]

■『メイクラブ』から『メイクアガール』へ

――クラウドファンディングの第1弾、第2弾ともに目標達成、おめでとうございます。

安田:ありがとうございます。これまで有料での映像公開をしたことがなかったので、2022年の第1弾のクラファンでは、はたしてお金を払ってでも私の作品を観たいと思うのか、そう思ってもらえる作品を制作できているのか不安でした。

その不安はクラファンが目標達成したことである程度は解消したのですが、第2弾は第1弾から1年経ってからの実施です。サイクルの早いネット文化の中で作品が飽きられていないかという不安が再び頭をもたげていました。ところが第2弾は第1弾以上に反響をいただき、改めてホッとしております。ご支援をいただいているみなさん、本当にありがとうございます。

――ネット文化は驚くほどサイクルが早いですよね。

安田:そうですね。3ヵ月ぶりに投稿すると「懐かしい」とか「昔見たことがある」とか遠い昔のような感想を目にすることもあります(笑)。でもそういった反応を含め、みなさんの感想の声はモチベーションになっていますね。

――ちょうどこの取材の数日前にご自身のYouTubeチャンネルで2度目のライブ配信をしていましたね。実際にファンと接していかがですか?

安田:ちゃんと人間が観てくれていたんだなと(笑)。これまでもSNSのコメントを喜んで拝見していたのですが、こちらの発言に対してリアルタイムのコメントが流れてくると「ああ、よかった。ちゃんとモニターの向こうには人がいる」とより強く実感できたんです。趣味も人付き合いも手放して創作一本に打ち込んできましたから、これまでおこなってきた活動が間違いではなかったんだと安堵しました。

『メイクアガール』

――ところでクラウドファンディングを実施している初の長編アニメは、デビュー作のショートアニメ『メイクラブ』をベースにしています。なぜこちらを最初の作品に選んだのですか?

安田:スタジオ立ち上げのタイミングなどの事情により3ヵ月のプリプロダクション期間で、シナリオ、デザイン発注、コンテまで進めなければならず、完全新作をやるにはハードルが高すぎました。

そこで過去作の中でももっとも思い入れがある『メイクラブ』をベースにすることにしたんです。それに背景作業も、SF作品やファンタジー作品だと1から世界観を作り上げなければなりません。しかし現代日本に近い『メイクラブ』なら作りやすかったんです。

――タイトルも『メイクラブ』から『メイクアガール』に変わりましたね。

安田:プロデューサーの川瀬から、念のため海外展開も見据えてタイトルを変更しようと提案がありました。「カノジョを作る」というのは、英語では本来「ゲット・ア・ガールフレンド」になります。でも「メイクアガール」だと和製英語っぽくていいよね、と。

――クラウドファンディングの用途は作品の映像制作・音響制作費用とのことですが、具体的にどのような作業をされるのですか?

安田:制作期間内に完成最優先で進めましたが、クオリティ面でまだまだ気になるカットが多くあります。そこで制作期間を延長して修正作業をすることにしました。クラウドファンディングの一部はその人件費や制作費ですね。

また音響制作については、やはり劇場向けの作品となれば5.1chでより奥行きのある音響にできたらいいなと考えていましたが、劇場作品の音響制作はテレビシリーズとは桁が違ったんです。

また、音響に加え、声優さんも願わくば自分が消費者として演技に憧れた方にお願いできれば嬉しいなと思っています。個人的なわがままも少し入って申し訳ないのですが(笑)。

『メイクアガール』

――リターン用のグッズを数多く制作されたそうですが、特に想い入れのある返礼品はどれですか?

安田:やはり設定資料集ですね。もともと第1弾でもデジタルデータでお届けしましたが、実は本で作りたかったんです。やはり観たあとで作品を振り返られるものが欲しいじゃないですか。当初はやるべきかどうか悩み、結局デジタルデータにした経緯がありましたが、最終的にはやってよかったと思いました。

――そして現在はストレッチゴールへ向けて残り4日ほどといったところです。

安田:ありがたいです。目標を達成したことで制作期間の延長や、音響関連の予算についても一部確保できました。さらなるブラッシュアップへ向けて、なにとぞ引き続きのご支援をよろしくお願いします。

■創作で大事なのは「完成させること」

――スタジオ開設のきっかけは何だったのですか?

安田:ずっと長編を作りたいと思っていましたが、アニメ作家になってまだ日か浅かったですし、資金的にも難しかったので、実現するのはもっと後になると感じていたんです。ところがプロデューサーの川瀬がサポートしてくれたおかげで長編制作の夢がグッと近づきました。

当初は予算的な問題で2Dのアニメスタジオに打診し、そこに手伝っていただこうという話も出ていたのですが、やはり私は3Dアニメクリエイターです。2Dだと具体的な監修ができないので、予算内で3Dアニメを制作する方法を模索することになりました。その方法のひとつがスタジオ開設でした。

『メイクアガール』

――スタジオを開設したことで、どのようなことがやれるようになりましたか?

安田:一番はクオリティアップですね。個人制作だとどうしても納期に間に合うように完成させるのが第一で、自分の理想的な形を追求することが難しくなってしまいます。ただ、一定のクオリティは確保しつつ、これまでいただいたお仕事では納期に遅れることはありませんでした。

スタジオを作り、チームで作業を進めるようになると、クオリティアップだけでなく、私が思いつかなかった方向でカットが仕上がることもありますし、私も作品を掘り下げる余裕が出てきます。しかもスタッフが提案してくれたアイデアや手法を自分のショートアニメにフィードバックできますし、ショートアニメで得たテクニックや方法論はスタジオで共有できます。そういった好循環を含め、さまざまなメリットがありました。

――そもそもアニメ作家になろうと思ったのはいつごろのことですか?

安田:もともとはラノベ作家になりたくていろいろな賞レースに応募していたんです。なまじ選考がいいところまでいって落ちるので抜け出せず、社会人になってからの数年間執筆を続けていました。

その一方で夢だけ追いかけていても生活できませんから生活費のために3Dクリエイターとしてゲーム会社に就職しました。そして中堅クラスまでキャリアを形成したところで以前触れたアニメの仕事に興味を持ち、ゲーム会社を辞め、アニメCG制作に関わりました。

そのころでしょうか。ラノベで培ったストーリーテリングに自分の3Dアニメクリエイターのキャリアをつぎこんだら、もう少し自分の作品に注目してもらえるんじゃないかと考えたんです。それではじめて個人制作し、公開したのが『メイクラブ』でした。

――そうして発表した数々のショートアニメは演出部分の秀逸さで話題になりました。ストーリーテリングや3Dの技術などはこれまでのキャリアがあるとしても、演出はまた別のテクニックや知識がないとできません。演出についてはどこで学んだのですか?

安田:いえ。きちんと学んだことはなかったです。ただ演出の役割の一歩目は情報を正確に伝えるものだと思っているので、たとえば「このキャラクターの感情を的確に伝えたい」「絵作りの意図を正確に伝えたい」と思った結果、あのような映像に仕上がりました。

――やるべきことを見極めたらあの演出になったという形なのですね。画面サイズもTikTokに投稿されたものと劇場のスクリーンでは比率が違います。劇場用作品を制作するにあたり、どのような点に気を付けていますか?

安田:ショートアニメのロジックをそのまま持ち込み、「画面比だけを変えました」では成立しません。たとえばショートアニメは1カットにすべての情報を盛り込まないといけないくらい短い動画です。それに対して長編は複数カットを重ねてひとつの情報を表現することが可能です。SNS用のショートアニメは説明的なカットになりがちですが、劇場作品ではもっと多様な見せ方を目指すことができるんです。

――ちなみにキャラクターの動きはモーションキャプチャーですか?

安田:いえ、手付けです。

――手付けですか? 動きが細かいですし自然ですね……。これまでのお話をうかがう限り、やりたいことを見極め、それを着実にやりきっているところが凄いと感じました。自分も3DCGを勉強したくてとりあえずブレンダーをダウンロードしましたが、結局そのままになっています。その意味で安田さんは世のオタクの理想とする姿ですよね。

安田:(笑)。

『メイクアガール』

――その「やり切る」モチベーションはどこにあるのでしょうか?

安田:そうですね……。やはり「恐怖」でしょうか。

――「恐怖」ですか?

安田:ラノベを執筆する以前、はじめての創作活動が油絵だったのですが、その時に「創作は時間をかければかけるほど、いいものが仕上がるし周囲の評価も高くなる」と実感しました。その経験があったので、社会人になってからはアニメを視聴したりゲームをしたりする時間をすべて創作に使った方が効率がいいと思うようになり、それを実践したんです。

一時期は遊びに誘われても断りましたし、ゲーム会社の仕事も貯金があるうちは大丈夫だと辞めてしまいました。すると、創作をしていてもしだいに恐怖に取りつかれるようになるわけです。私にはこれしか残っていない。代償を先払いしているため後戻りもできない。そうすると前に進むしかありません。

さすがに今は恐怖はありませんし、創作は食事や睡眠と同じく私の生活の一部になっていますが、個人制作の時のモチベーションは間違いなく「恐怖」でした。

『メイクアガール』

――ここ数年はインディーズアニメが盛り上がっているような感覚があるのですが、個人制作クリエイターとして、それについてどのような想いがありますか?

安田:今はマネタイズ方法が多様化して個人と商業の垣根も少しずつなくなってきている印象です。動画の種類は今後長編短編以外のものも色々開拓されていくと思います。ですから私自身、それらに積極的に触れ、みなさんに観てもらいやすいクリエイターになれたらと考えています。

――今後、長編の分野でやりたいことはありますか?

安田:『メイクアガール』では、まず商業作品の作家として第1歩を踏み出したかったという想いがありました。これ1本で終わるつもりはありません。まだ小さなスタジオですが、この先スタジオの規模を大きくしていけるのであれば、もっと大作を作れる環境を整えていきたいです。新しい表現の開拓、制作フローの最適化、今いるメンバーのさらなるレベルアップ、そして安田の右腕的存在なんかもゆくゆくは……などの下心があります。

――スタジオの体制が十分整ったらやりたいことはありますか?

安田:現代劇から離れた物語をやりたいですね。そのためには作品を重ねるごとにスタッフも増やしていきたいです。

――それでは最後に読者へメッセージをお願いします。

安田:個人制作アニメをつくりはじめるきっかけとなった『メイクラブ』で反響をいただいたことが大きな勇気となりました。その後のショートアニメでいただいた声援も、ひとつひとつが活動に対する安心感につながりましたから、恩返しの意味として長編アニメをお届けできればと思っております。完成したあかつきには、ぜひ劇場へ足をお運びいただければ嬉しいです。

(C)2023 安田現象 / Xenotoon

《気賀沢 昌志》
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