【プロ直伝】“アニメレビュー”ってどう書けばいいの? 藤津亮太が伝授する、たった1つの心得と3つの技 | アニメ!アニメ!

【プロ直伝】“アニメレビュー”ってどう書けばいいの? 藤津亮太が伝授する、たった1つの心得と3つの技

アニメの感動を文章で伝えるコツや、アニメレビューの書き方をアニメ評論家・藤津亮太さんに聞きました。

インタビュー
注目記事
【プロ直伝】“アニメレビュー”ってどう書けばいいの? 藤津亮太が伝授する、たった1つの心得と3つの技
  • 【プロ直伝】“アニメレビュー”ってどう書けばいいの? 藤津亮太が伝授する、たった1つの心得と3つの技
  • 藤津亮太さん
  • 藤津亮太さん
  • 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(C)創通・サンライズ
  • 『風の谷のナウシカ』(C)1984 Studio Ghibli・H
  • ブルボン小林「ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論」出版社:クラーケン
  • 『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』(C)Magica Quartet / Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
  • 『ゆる△キャン』(C)あfろ・芳文社/野外活動サークル
「おもしろいアニメを見た時の感動をSNSに書こうとしたけど、どうもうまく言葉にできない」
「おもしろかったことは間違いないんだけど、何に感動したのかが自分でもよく分からない」
「『無理』『尊い』くらいしか出てこない……」

そんな経験をしたことのあるアニメファンは多いのではないでしょうか?

大好きになった作品は、他の誰かに伝えて同じ感動を味わってもらいたくなるもの。
そこで、評論のプロであり、アニメ!アニメ!でも「藤津亮太のアニメの門V」を連載中のアニメ評論家・藤津亮太さんに、アニメの見方や書き方についてお話を伺いました!

さらに藤津さんにアニメ紹介文を添削&寸評をもれなくもらえる企画も実施します。
このインタビューを読み終わったあとは「アニメの文章を書きたい!」となるはずなので、これを読んであなたの感じたその感動を誰かに届けましょう!
[取材・文=いしじまえいわ]

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』がある。最新著書は『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

■人に伝えるための文章=読書感想文、ではない!


――藤津さんはアニメについての文章を書く時、どんなことを発端や起点として書き始めるんですか?

藤津:最初のとっかかりは、やはりその作品を見て「感動したこと」ですね。

――藤津さんの文章は非常に論理的な印象がありますが、客観的な視点とか社会的意義とか、そういったものではないんですね。

藤津:よく論理的だと言っていただくんですが、起点になるのは理屈じゃなくて、やっぱりその作品を通じて「自分の心が動いたポイント」です。実際、アニメ!アニメ!での連載でも、作品に関する記事では一番感動したポイントを軸に構成をしています。



――きっかけは普通のアニメファンと同じなんですね。

藤津:自分が何に感動したのかが分かれば、それを軸にして「読書感想文」とは違う人に伝えるための文章を書くことができます。

――人に伝えるための文章は読書感想文とは違うのですか? 似たようなものにも思いますが……。

藤津:読書感想文というのは、実態に即して言えば「読書体験レポート」なんです。だから主題は作品そのものではなく、読書体験を通じて自分がどう変化したか――ありていにいうと“成長”――できたかです。

――読書体験を通じた自分の成長を先生に報告するのが目的、ということですね。だから「ぼくは〇〇だと思いました。」という書き方をしていたのか……。

藤津:読書による“成長”を安易に書こうとするから、「○○は大切だと思いました」とか「○○を知ることができてよかったです」みたいな文章になっちゃうんですね。

もちろんアニメで読書感想文的なことを書くのも悪いことではありません。
でも、主題が個人の変化という個人的なものになるので、作品について語ることからは離れてしまうんですよ。それは今回想定している文章とはちょっと違いますよね。

きっかけが個人的な感動であることは間違ってないのですが、そこから自分自身ではなく作品そのものに向かっていくには、自分の主観を裏付けるように客観性のあることを書く必要があります。
そして、自分の感じた感動と作品の中身を正しく結びつけるためには、まずは「自分はその作品のどこに感動したのか?」を知ることが前提になるというわけです。

――「個人的な内容に終始しないために、まずは個人的な体験について理解しないといけない」というのは、逆説的で面白いですね。

■「この作品は〇〇だ!」と”圧縮”する


――藤津さんでも「この作品のどこに感動したのか分からない!」ということはありますか?

藤津:これまでたくさん見て書いてきているので、自分が何に感動したのかは大体分かりますが、それでも一見しただけでは掴めない作品もあります。

――分からない場合はどうするんですか?

藤津:分かるまで、可能な限り何回も見ます(笑)。

藤津亮太さん

――そこは数で勝負なんですね(笑)。ちなみに回数を重ねることで面白さが掴めた例としてはどんな作品がありますか?

藤津:よく言うのが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(※)です。学生時代、劇場公開の時は「なんだよ、あのラスト!」と感じて、ガッカリして友だちに愚痴ったりしてたんですよ(笑)。

――ラストに都合よく奇跡が起きてどっちらけ、ということですね(笑)。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(C)創通・サンライズ
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(C)創通・サンライズ
※1988年公開の富野由悠季監督による劇場用作品。79年放送の『機動戦士ガンダム』から連なる主人公アムロと宿敵シャアの戦いの決着が描かれた当時のシリーズ集大成的作品。2人の対決が地球全体を破滅と救済に誘う衝撃的な結末は議論を呼んだ。

――ラストの展開に対する印象は、その後どう認識が変わったのですか?

藤津:プロのライターとして個人名で記事を書くようになった極初期に、『逆シャア』について書く機会をもらったんです。それを機に何回もレーザーディスクを見直したんですね。
すると、見ているうちにふと自分の中で「これは奇跡の在り方をリアルに描いている作品なんじゃないか?」という気付きが生まれたんです。

――それはどういうことですか?

藤津:例えば『風の谷のナウシカ』ではまず伝説が語られて、ラストでそれを再現するという構成で奇跡が起きたことを表現しています。

『風の谷のナウシカ』(C)1984 Studio Ghibli・H
『風の谷のナウシカ』(C)1984 Studio Ghibli・H
『ナウシカ』は作風としてそれで違和感がないのですが、現実では奇跡に“前振り”があったりはしませんよね。そう考えると、『逆シャア』では、奇跡が起きたその場にいる人には誰も何が起きているのかさっぱり分からない、ということが一種のリアリズムとして描かれているといえるのではないか、と思い至ったわけです。

――後年、奇跡として語られる、ということですね。

藤津:実際、『逆シャア』はクライマックスで奇跡が起きてからはセリフらしいセリフがなくなって、事態がただ映し出されるだけになるんですね。
最初に見た時はそこで急に突き放された感じがしたんですが、何度も見ているうちに、発想の逆転が起きて、「これは奇跡がリアルに起きている瞬間なんだ、よく分からない出来事が起きた瞬間をそのままリアルに描いた映画なんだ……」と思えた時に、急に目から鱗が落ちたんです。

――言われて気付きましたが、ニュータイプが起こした奇跡で締めくくられる点では、ファーストガンダムと同じですね。

藤津:そうなんです。そうやって考えていくと、『機動戦士ガンダム』のアムロとララァのニュータイプ的なコミュニケーションがすごく抽象的な映像で描かれていたことにも符合します。
あれも言葉では語り得ない奇跡的な出来事を描いているわけですが、一見しただけでは何が起こっているのか不可解ですよね。

――なるほど、そう考えると『逆シャア』はニュータイプが起こす奇跡を通じてわずかな希望を示唆しているという点では、最初のガンダムに立ち戻っているし、奇跡が起きた現場の呆気にとられた感覚をよりリアルな体験として描いている、と捉えられますね。

藤津:そういった見方も可能だと思います。
このように、ひとつ切り口が見つかれば「だとするとあのシーンやこの表現も、このラストを描くためのものだったのでは?」というように連鎖的に作品の演出意図や作り手のメッセージが浮かび上がるように見えてきます。
そういう発見をひとつ見つけられれば、もう大丈夫(笑)。僕はそこを入り口にして、実際に原稿を書く際には冒頭で「この作品は〇〇だ!」と作品内容を圧縮して言い切ってしまうケースは多いですね。

――今の話を圧縮して「『逆シャア』は奇跡が起きる瞬間をリアルに描いた作品だ!」というタイトルで文章にすれば「おっ、それどういうこと?」と思える記事になりそうですね!

藤津:しかも「シャアが地球に隕石を落とそうとしてアムロが止める話」のような単なるあらすじよりも興味を引きますよね。だから軸となる最初のきっかけは個人的な感動でよくて、それを軸に作品の内容について触れていけばいいんです。

――自分が感じた感動をうまく圧縮するにあたって、参考になるものはありますか?

藤津:まず、その作品の公式サイトやパンフレットに載っているインタビュー記事などは参考になるので読んでおくといいと思います。作品の中身についてクリエイターが言葉にしていたりするので、それを読むだけで自分にとっての論点がクリアになることはあります。

――見出しの一文だけでも「あ、そういう作品として作ってたんだ」と思わされることはありますね。

藤津:また、やや間接的なものになりますが、その作品とは関係ないマンガや映画のレビュー記事も参考になります。
たとえばブルボン小林さんのマンガコラムは、ブルボンさんなりのちょっと引いた目線で書かれた一種のマンガ論として書かれていていて「そういう見方があったのか!」と思わされることが多いです。

ブルボン小林「ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論」出版社:クラーケン
ブルボン小林「ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論」出版社:クラーケン

→次のページ:感動ポイントを見つける3つのテクニック
《いしじまえいわ》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集