『この素晴らしい世界に祝福を!』の原作者・暁なつめが手掛けた異世界ファンタジー最新作が、クレイジーなアニメとなって遂に放映される。それが『旗揚!けものみち』だ。
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マンガ『けものみち』を原作とする本作は、ケモ耳の生えた獣人から魔獣まで、なんでもイケるケモナー(ケモノ好き)のレスラー、“ケモナーマスク”こと柴田源蔵が主人公。
異世界に召喚された源蔵が、異常な戦闘力とケモノへの愛を活かして、彼にとっての理想郷「ペットショップ開店」のため、奮闘する様が描かれていく。
本記事では、そんな概要だけでカオスな香り漂う本作より原作者・暁なつめと、アニメ版を監督する三浦和也さんへのインタビューを敢行。
裏話も交えつつ、『旗揚!けものみち』の創造の課程を語っていただいた。
[取材・構成=山田幸彦]
■異世界×プロレス×ケモナー…要素てんこ盛りな本作はどう生まれた?
――プロレス、ケモナー、異世界転生と、濃い要素が目白押しの作品ですが、どのような経緯で原作の連載が始まったのでしょうか?
暁:『このすば』アニメ1期の頃にKADOKAWAさんから連載のお話をいただいたのですが、その時点では何も内容は決まっていなかったんですよね。
その後、作画を担当するまったくモー助さんと夢唄さん、編集さんの四人で、内容について話し合う場が設けられたんです。
――どのように現在の形へと固まっていったのでしょうか?
暁:まずは、おふたりにどんな作品をやりたいかを聞いてみました。そうしたら、「重くならないストーリーの中、可愛い女の子が描きたい」と要望が出たんですよね。
さらに、おふたりはペットを飼っており、ケモ耳キャラ、獣人キャラが好きという話も聞いて、話の流れで「 “異世界でペットショップもの”というジャンルはまだないんじゃないか?」と提案されまして。
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そこから、「異世界でわざわざペットショップをやる動機付けが難しいな……女キャラ多めでラブコメに進展しない理由も欲しいし……。よし、頭のおかしいレベルのケモナーにするか」ということで、今の形になりました。
――なるほど、そういう経緯があったんですね。
暁:ラブコメ要素を廃したギャグメインの作品にしようと考えていたのですが、柴田源蔵
はすぐ求婚したりするし、ある意味恋愛ものになってしまいましたね……(笑)。
あと、僕がもともと「レスラーが大暴れする異世界もの」を書きたかったので、良い機会だと思い、本作に取り入れてみました。
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見切り発車感もありましたが、結果として作画のおふたりと自分を含めて、みんなやりたい事ができてよかったなと。
ただ、まったく映像化を想定せずにはっちゃけていたので、アニメ化のお話をもらったときは「なぜこれをアニメ化をしようと思ったの!?」と(笑)。
――三浦監督は原作を読んでご感想はいかがでしたか?
三浦:本当にキャラクターが面白いな、と感じましたね。全員が自分勝手に生きているから、読んでいて気持ちいいんですよ。
僕は元々、映画『男はつらいよ』の寅さんとか、ある種の迷惑さを持ったキャラクターが回していくお話が好きなんです。
だから、それぞれのキャラクターが自身の欲望に忠実すぎた結果、論点がズレたり、横道に逸れたままお話が進んでいく本作は、まさにツボでした。
自分でも前々からそういったタイプのコメディに携わりたいと思っていたので、演出家としても、一人の読者としても、大いに魅力を感じましたね。
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――暁先生と三浦監督が最初にお会いした際、どういったお話をされましたか?
暁:原作だと、序盤で柴田源蔵はペットショップを開いているんですが、アニメではそのペットショップ開店を目標とし、そこに至るまでの話を描きたいというアイデアを最初にお聞きした記憶があります。
三浦:マンガで描かなかった時期をやってみよう、と話が出たんですよね。
もともと、原作通り各話の盛り上がりで見せていく1話完結ものをやる予定だったのですが、最終的な落とし所は欲しいなと。
そこで、ペットショップの開店という明確なゴールを設定すれば、1クール作品としてのまとまりが出ると思いました。
暁:自分は元々、原作は原作、アニメはアニメと分けて考えるタイプでして。ラノベ、マンガ、アニメと、媒体が違うと見せ方も違いますし、好きなように、そして楽しんで作ってください、と。
――アニメのシナリオは、原作からかなり膨らませて描いている形ですか?
暁:ええ。オリジナル脚本を書きまくることになるので、脚本の待田堂子さんも大変だったんじゃないでしょうか?
三浦:いや、僕を筆頭に、みんなで楽しく暁先生の世界で遊ばせてもらいましたよ(笑)。
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――そういったアプローチでアニメ化するとなると、原作から膨らんでいったキャラクターもいるのではないですか?
三浦:原作で登場するキャラクターがブレないようにはしていますが、出番が増えたことで膨らんだ人など、アニメならではの見せ場はそれぞれにありますね。
序盤だと、金貸しのエドガーの一味が顕著です。原作ではさらっと出ているだけだったので、アニメ化では良い具合に動かすことができたかなと。
暁:原作では「兄貴、兄貴」とだけ言われていたキャラにも名前が欲しいということで、ヴォルフガングという立派な名前をつけてあげています。
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三浦:ヴォルフガングというドイツ由来の名前は、本場だと愛称を「ボン」と言うらしいんですね。じゃあ「ボンちゃん」と呼ばせようと(笑)。
そうやってキャラを膨らますことができたのも、最初に暁先生から「アニメはアニメスタッフにお任せしたほうが面白くなるから」と、作品を託していただいたことが大きかったです。
暁:個人的に、舵取りはその分野の専門家が行うのが理想で、アニメの素人の原作者があまり口出しをしてもしょうがないと思うんです。自分の場合、アニメも話題になったヤツをたまに見る、程度ですし。
『このすば』同様、今回もスタッフのみなさんに委ねたことで、楽しい作品を作っていただけましたね。
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