■ゼロから構築した「アニメ」×「3DCG」の新技術
――アニメ制作のワークフローについては初めてということでしたが、今回3DCGのソフトウェアは何を使い、どういったワークフローで行ったんでしょうか?
由水監督
モデリングはMODO、アニメーションはMotionBuilder、セットアップ(※1)やレンダリング(※2)はMayaという感じで、各ソフトの得意な機能を使っています。
※1:3DCGでモデリングされたキャラクターに関節の可動域などアニメーション用の設定を行う工程。
※2:3DCGデータから画像を書き出す工程。
――少し専門的な話になりますが、日本のセルルック3DCGの制作にはMayaではなく3ds Maxを用いるケースが多数です。今回なぜMayaを使われたのですか?
由水監督
アニメ制作に3ds Maxが使われることが多い最大の理由は、Pencil+という3DCGをアニメ調に加工するためのプラグインが使えるからだと思いますが、その Pencil+ のMayaバージョンが昨年夏にリリースされたんです。
元々この企画でもPencil+があるからという理由で3ds Maxを使う前提で企画を進めていたのですが、その最中にMayaバージョンがリリースされたので、社内で使い慣れているMayaに途中で切り替えました。
作業の中心はMayaで行うため、セルシェーディング(※3)のためだけに3ds Maxを挟むのは非合理的だったので、Maya版のPencil+が出たおかげで助かりました。
※3:3DCGに輪郭線を描画したり平面的な色使いにしたりすることでアニメ調に加工する工程。
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――とはいえ、使用するソフトを途中で変更するのは、かなり混乱があったのではないですか?
山中P
ありました(笑)。Pencil+ とMayaの相性の問題もありましたし、第一ノウハウが全く無いですから。
由水監督
迂闊な判断だったなと思う面もありますが、結果的には正解だったと思います。
Mayaでアニメを作るノウハウも獲得できました。東映アニメーションさんなど、もともとMayaをお使いの会社さんもありますし、今後はアニメ業界でもMayaを使うケースが増えていくでしょうから、今後役立てられる経験になったと思います。
――Pencil+ 4 for Mayaを実際のアニメ制作に投入したケースとしては最新事例かもしれませんね。
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由水監督
エンンジニアにも参加していただき、3DCGで2コマ3コマといった乱れ打ちのタイムシートを実現するための新しいシステムを組んでもらったことも大きかったです。
通常3DCGではすべてのコマ、アニメであれば1秒間につき24コマをすべて静止画として書き出し、その中から動画として必要な画像を抜き出す必要があるんですが、今回組んでもらったシステムでは3Dソフト上で自動的に必要なコマを判断して一発で書き出せるようになりました。
――それはすごい。ゲームCGなどでは毎秒60枚の静止画を描画していますが、アニメの場合3コマ打ち(※4)なら通常8枚ですから、かなりレンダリングに要する時間を短縮できますね。
※4:通常のアニメの場合、1秒間に必要な静止画数である24コマをすべて作画するのではなく同じコマを連続で用いることで省力化しており、アニメ特有の表現上の特徴にもなっている。3回連続で同じ画を使う場合3コマ打ちであり、2回の場合は2コマ打ちという。
由水監督
もし決められたフローがあればその通りやるしかないですが、今回は何もかも手探りだったのでいろんな面で盛大にチャレンジし、結果どれも爆死、炎上しました(笑)。
大変でしたが、その分ノウハウは得られたと思います。
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