監督は、『千と千尋の神隠し』などのジブリ作品の作画監督、そして『茄子 アンダルシアの夏』の監督として知られる高坂希太郎が15年ぶりのメガホンを取った。また脚本は、『聲の形』や『リズと青い鳥』の吉田玲子が担当している。
TVアニメ版は2018年4月から放送されているが、本作では原作20巻分のエッセンスを1本の映画に凝縮し、また原作にはないエピソードも追加。子どもだけでなく大人にも存分に楽しめる内容となっている。
2018年6月に開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭のコンペティション部門にも選出され、高い評価を得た本作。高坂監督に本作の魅力、原作との相違点などについて話を聞いた。
[取材・構成=杉本穂高]
『若おかみは小学生!』
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2018年9月21日全国公開ロードショー
原作の魅力を損なわず大人でも楽しめる作品に
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――まずこの原作にはどのように出会ったのですか。
高坂希太郎(以下高坂)
趣味で自転車に乗っているのですが、自転車仲間でありアニメーションスタジオ・DLEの谷(東)くんから、「今度『若おかみは小学生!』という児童文学をアニメ化するから、イメージキャラクター描いてほしい」と頼まれたのがきっかけです。
――TVアニメシリーズの監督である谷さんからお話をいただいて、原作をお読みになられたんですね。実際に原作を読んだ印象はいかがでしたか。
高坂
児童文学、それも女児向けの作品はこれまで縁がなかったので、最初は苦手意識があったんですけど、読み進めてみたらさすがベストセラー作品だなと思いました。
1巻に盛り込まれるファクターがたくさんあって、なおかつ上手くまとめられていてすごいなあと感心しました。
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――原作のどんな点に惹かれましたか。
高坂
旅館が舞台ということで“旅館根性もの”かなとステレオタイプに捉えていたのですが、幽霊が現れたり、ちょっとクセのあるお客さんのやりとりも面白くて、思っていたのと違うぞという意外感がありました。
特に今まで接してこなかったジャンルなので、読み進めてみると女の子ならではの描写が新鮮に感じられました。
――単純な根性ものではなく、テーマのひとつとして働くことの楽しさみたいなものがありますよね。
高坂
そうですね。あと大人ではできない、小学生ならではの境界線をグイグイと超えるようなコミュニケーションを上手く利用して描いているところも興味深かったです。
――非常に長い原作ですし、一本の映画にまとめるのは大変だったのではないでしょうか。
高坂
最初読んだ時に、これはTVシリーズ向きだと思って、谷くんがTVシリーズでやると聞いて応援していたのですが、何年かしてから「映画もやるから監督お願いします」と言われたんです。「どういう風に作るか、采配はお任せします」という感じだったので、どうしようかと思いましたね。(笑)
数ある原作のエピソードから1つ抜粋して、映画化するのか、今回みたいに全部を1つにまとめるか悩みましたが、やはり成長を描いているのが長編小説の醍醐味なので1巻から20巻までをまとめた形にしました。
――映画化に際して、原作にないエピソードも入れていますね。
高坂
原作ではあまり触れられていないんですけど、「両親の死」はひとつ重要な要素としました。原作では読者の年齢層などを意識してあえて描かないようにしていたのかもしれませんが、映画ならもうちょっと間口を広げてもいいかなと。
かつて子どもだった読者は大人になっていると思いますし、そういう人たちにも訴求できるものにしたかったんです。そうすると、両親の死の克服というのも成長物語として盛り込めるなと。
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――原作の魅力は、主人公のおっこの天真爛漫さに負うところも大きいと思います。両親の死という重たいテーマとどうバランスを取るのか、難しかったのではないでしょうか。
高坂
そうですね。試写で観ていただいた原作ファンの方に「原作のイメージと離れていませんでしたか?」とよく聞いていたんですけど、ありがたいことに「原作のイメージを壊していませんでした」と声をいただいています。
もちろん監督の僕を前に「原作とかけ離れてる」とはなかなか言えないとは思いますが(笑)。
――TVシリーズと差別化しよう、という意図はありましたか?
高坂
TVシリーズはそれこそ原作に忠実にアニメ化していると思います。各エピソードの魅力を丹念に描いているのがTVシリーズだとすると、成長という一本の軸で物語を描くのが映画という感じですね。
――おっこの成長物語を描くにあたって一番大事にされた点は?
高坂
やはり“他者との関係性”ですね。都会から田舎の温泉街に移ってという目まぐるしく環境の変化のなか、お客さんやおばあちゃんといった他者を通じて成長していく姿をしっかり描こうとしました。