■ひとりひとりが監督級! 超豪華スタッフ陣で世界に示す日本のアニメのスゴさ
――メカがお好きということですが、今回は戦国時代が舞台ということで一見メカ的な見どころは少なさそうな印象を受けますが、そこはどうでしょう?
水崎
現代装備のガジェットごとタイムスリップするという展開を中島さんが提示してくださったおかげで、バットモービルもちゃんと登場しますよ。その他のメカデザインもこだわっていて、たとえばバイクが変形してアーマーとして着込むパワードバットマンのメカデザインは荒牧さんにお願いしました。
――荒牧さんとは、映画『APPLESEED』等で有名な、あの荒牧伸志監督のことですか?
水崎
その荒牧さんです。「バイクを着込んでアーマーにする」といったら『機甲創世記モスピーダ』のライドアーマーや『メガゾーン23』のガーランドをデザインされた荒牧さんしか考えられない! と思って直接お願いしに行き、お忙しい中デザインしていただきました。


――無茶苦茶豪華ですね!
水崎
荒牧さんだけでなく、スタッフは僕のお願いできる限りの方々にお願いしました。
少し話は変わりますが、荒牧さんは映画制作においていきなり1000カットにも及ぶコンテを切る前に、100枚のストーリーボードを描いて映画の構成の骨子を作ると伺いました。
監督自身が10カット分の情報を入れ込んだボードを100枚描いて全体を見通すことで、作品全体を監督の意図や演出で統一できるんですね。今回『ニンジャバットマン』では荒牧さんリスペクトでその手法を取り入れさせていただきました。
――100枚のイメージボードを全てご自身で描かれたんですか?
水崎
いいえ、ひとりでは大変ですので、岡崎さんに『アフロサムライ』の木崎文智監督をご紹介いただき、ご協力いただきました。それと、後半の展開のボードは、社内のバットマン好きスタッフも参加しています。
――バイクデザインに続いてここでも監督級の方が協力されているんですね。ボードの作業はどういった手順で行われたんですか?
水崎
イメージを一緒に練り上げて共有することが必要なので、木崎さんとふたりでフィギュアを机の上に配してキャラクターの位置関係やカメラアングルを作り、そこから具体的な演出やアイデアを練り上げてストーリーボードとして描くという手法をとりました。
またメカの話になりますが、五城合体のシーンや巨大バットマンとの格闘シーンでは、トランスフォーマーのデバスター(全高45センチの合体ロボット玩具)という大きなロボットのフィギュアを使いました。
合体システムも、戦国時代の城が空を飛ぶはずがないので各城が浮かずに合体できる仕組みにするなど、細かいところですがこだわって設計しました。



――城の合体から後は畳みかけるような怒涛の展開でしたね。誰のアイデアでああいう形になったのですか?
水崎
まずプロデューサーの里見さんに「城がロボットになったらどうか」というアイデアがあったのですが、アメコミに巨大ロボットが出てくるのは東映版『スパイダーマン』のレオパルドンという前例があるので、折角だからヴィランたちの城と五城合体させよう、と言ったのは僕です。
そこに「対抗する相手がいるよね、猿の方も合体させよう」と言ったのは脚本の中島さん。さらに「コウモリも合体してボブ・ケイン版の巨大バットマンにしよう」と言ったのはキャラクターデザインの岡崎さん。
ボブ・ケイン版のバットマン出されちゃ負けだわ、岡崎さんの勝ち! ということでこの流れになりました。
――見ていて「面白いことやったもん勝ち」という印象を受けたのですが、本当にそうやって作られていたんですね。

水崎
ああいう一種過剰な展開が生まれたのも、人の意見を否定するのではなく上に乗せることでさらに面白くしよう、というムードがあったからで、そのスタイルでやれたのはよかったです。
そういった形でアイデアを出して描いたストーリーボードを元に、Aパートをアニメーション作家のロマのフ比嘉さん、Bパートを『ポプテピピック』で『星色ガールドロップ』パートを担当してくれた山GEんさん(山元隼一監督)、Cパートを『FREEDOM』『九十九』監督の森田修平さんとそれぞれ3人の方に絵コンテを切ってもらいました。
そこからパート監督として、Aパートを『スチームボーイ』で演出を担当された超ベテランの高木真司さん、B・Cパートはコンテを切った山GEんさん、森田さんにしっかりと演出してもらいました。
――ひとりひとりが監督クラスのスタッフですね。
水崎
他にも『かぐや姫の物語』にも参加した斉藤拓也さん、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の2部以降のOPディレクターを務めてくれた吉邉尚希さん、松井佑亮さんをはじめとしたスタジオカラーのCGチームにもそれぞれシーンを担当してもらいました。
『AKIRA』で原画を務めたうつのみや理さんにも中盤のノスタルジックなシーン、と言えば映画をご覧になった方には分かると思いますが、あのシーンの作画をご担当いただきました。あれはアニメ業界の宝物だと言っていいと思います。そのベテラン勢のカットを作画監督としてまとめていたのは宮本託自さんです。
――あのシーンは3DCGではなくフル作画ですか?
水崎
はい。あの一連のシーンと相撲ベイン対パワードバットマンの戦闘シーンは作画です。その他のシーンは一部を除いてLightwave 3Dで制作した3DCGです。パワードバットマンも3DCGで作っていればフィギュアが出しやすかったんですけどね……。
――荒牧さんデザイン特有の、分離一切なしで完全変形するパワードバットマンの玩具、欲しいですね。それにしても、まさにドリームチームといったスタッフ陣ですが、キャストも非常に豪華ですよね。
水崎
キャスティングは私はノータッチで、全体プロデューサーの里見さんと岩浪美和音響監督が決められました。
バットマンは山寺さん、ジョーカーは高木さん、といった感じで、オーディションなしで全て指名だったそうです。こちらも思いつく限りの人を集めた、いわば声優版ジャスティス・リーグですよね。
――スタッフもキャストも「もし俺がアニメを作るんだったらこんなメンバーで作るんだ」というファンの妄想のようなメンバーです。
水崎
それに近いですね。『ニンジャバットマン』は世界中で見られることになる作品ですから、僕がすごいと思うクリエイターみんなに参加してもらって世界に向けてアピールできたのは、アニメ業界全体にとって有益だったと思います。
作品を監督や自社だけのものにせずオールスターで作るこのやり方は、そういう意味で理想的でした。