――そのほか大きなお仕事だと「キービジュアル」がありますが、いわゆるラノベ原作のデザインとしてはかなりフックがあるなと感じました。
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染谷
「お仕事もの」も「妹もの」も飽和状態にある中で、一発目のキービジュアルを出す時に、普通のことをしていたのでは埋もれてしまうので、とにかく違和感があるビジュアルで、目立つものにしたいというオーダーを最初に田中さんから頂いたんですよね。
太田規介さん(以下、太田)
それもあって、はじめは弊社内でのアイデア出しで「実写はどうですか?」「えーまたまたそんな、エッジの効いたことを(笑)」と冗談っぽく話してましたが、次第に「アリなんじゃないか…」という考えに行き着き、提案させていただきました。
染谷
デザイナーは誰でもエッジの効いたものを作りたがる悪い癖がありまして、そのアイデアが出た時には「またそういう癖が出ちゃってるんじゃないの?」って思いました(笑)。でも改めて考えてみると、すごくハマる表現になりまして、やってみて正解でした。
太田
「実写とアニメ絵の融合」で印象的だったのが、染谷が昔手がけた『電波女と青春男』のオープニング曲「Os-宇宙人」のCDジャケットでした。河川敷にヒロインのエリオがひとりで立っているビジュアルで、当時高校生だった私はそれを見て、むちゃくちゃ刺さったんですよね。その経験から着想を得た形です。
染谷
『電波女と青春男』以前にも実写とアニメ絵を組み合わせている先駆者の方々はもちろんいらっしゃるんですけどね。『妹さえいればいい。』に関して言えばギャグ的に誇張されてますけど、すごくリアルな思春期ものだと感じています。社会とどう向き合っていくのかを伊月たちは深く考えていて、現実の若いユーザーが抱えている問題と地続きになっている作品なので、リアルな写真表現がハマったんです。
■次回予告の記号には本編の伏線も込められていた
――サブタイトルのオシャレな感じも、アニメでは珍しいと感じました。
加藤
サブタイトルのデザインは内容を想起させるような、でも曖昧なものにするというさじ加減で決めています。話の内容がサブタイトルの回答になっているのもありました。
田中
千尋の性別を明かしている2話ですね。
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加藤
2話は「奇跡さえ起きればいい」というサブタイトルなんですけど、1話の次回予告では謎のオス(♂)とメス(♀)のマークがあるだけでした。
本編が始まってもサブタイトルが出ないままストーリーが進んで、最後に千尋がお風呂に入っているシーンで、サブタイトルやオスとメスのマークの意味が明かされる、という展開を意識して作ったんです。ちなみに♂と♀のマークの数は2話の登場人物の数と合わせていて、よく見ると千尋が♀だったりしています。
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■映像製作にグラフィックデザインが起用されることは今後も増えていく
――話を広げてお訊きしたいのですが、今回の『妹さえ』のようにグラフィックデザイン会社が作品の中身まで深く関わることについてはどう思われますか?
染谷
昔から『機動警察パトレイバー』など事例はありましたし、草野剛さんが『交響詩篇エウレカセブン』を手がけられた時はすごく衝撃でした。ただアニメ業界でグラフィックデザインを意識的に活用しようという動きが目立ち始めたのはここ10年位で、今はちょうど過渡期だと思います。
今の10代は、ニコニコ動画やアドビ(アドビシステムズの提供するソフトウェアのこと。ここでは「Photoshop」や「After Effects」などを指す)で作られたグラフィックを見て育っているので、若い世代は今回のインフォグラフィックスを見ても「普通」と思うかもしれません。
加藤
今の時代はウェブCMやプロモーションビデオなど、当たり前にインフォグラフィックスが使用されていて、見慣れていますから。
染谷
映像制作がデジタル化されてから、アニメでもゲームでも「After Effects」的な表現が入ってきて当たり前になってきています。だから我々としてはエッジの効いたものを作っているという認識はないんですよね。
特にゲーム界隈は境目がなくて、『ペルソナ 5』では3Dパートも2Dアニメパートも、UIを上手いことコーディネイトして、ひとつの質の高い体験を提供していらっしゃいますね。
加藤
最近の海外ゲームでも、ミッション前の作戦会議でインフォグラフィックスを使った戦術説明のシーンが当たり前に存在しています。今の若い世代はゲームをプレイして直に触れているので、当たり前になってきているんでしょうね。
染谷
アニメもこういうグラフィックデザインをとりこんだ演出が増えてきていて、その手の演出のクオリティが上がっていく段階にあるのではないかと思います。