――実際にアフレコが始まって、夢子の印象に変化はありましたか?
早見
この作品は長いセリフが多くて、台本4ページにも渡ってずっと一人でしゃべり続けるようなシーンもあるんです。これほどの長セリフは、勢いや感情に任せるとわけがわからなくなってしまうので、絵とお話の流れを見て言葉を引き立てたり、テンションを落としたり。それこそギャンブルみたいに、セリフ回しも駆け引きで作っていくんです。長セリフの場面では監督も様々な提示をくださって、それをヒントに「こういう構成になるんだな」と理解するのですが、夢子の場合は「以前こうだったら、同じように」と思うと、監督から「今回のテーマは違うので、今日はこういう構成にしましょう」と言われるんですよ。夢子にはその日その日のテーマがあって、私はそれがすごく楽しいです。
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――同じ夢子なのに毎回テーマが変わるというのは、どのように解釈すればよいのでしょう?
早見
もちろんベースには夢子という人物像がきちんとあるのですが、ある話数では超無邪気モードで子供みたいな夢子だったり、さらに別の話数では聖母のような夢子になったりもするんです。聖母モードひとつ取っても、私が「崖から突き落としてから救い上げるアメとムチ戦法でいこう!」と演技をプランニングしてやってみたら、「最初から包み込むように言ってあげてください」と言われて(笑)。ホントに駆け引きというか、セリフ回しの“あや”みたいなものを感じられて、演じていて面白いですね。
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林
そのあたりは音響監督の藤田亜紀子さんのリードにも助けられています。イメージを伝える語彙が豊富で、いろんな言葉を使ってキャストの皆さんに説明をしてくれます。原作にある独特の表情はこの作品の醍醐味ですが、どう言い表せばいいか分からなくて、僕は絵コンテでもうまく文字に表せないことがけっこうあるんです。藤田さんは「相手に頭からかじりつきたいような気分で」とか、僕が思いもつかないような例えをおっしゃるので勉強になります。
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――演技についてキャストでディスカッションされるようなことはありますか?
早見
作品自体が心理戦を描いているところがあるので、事前にキャスト同士で打ち合わせをするというよりは、マイクに立ってからお互いのお芝居を聞いて演じています。監督も藤田さんも、掛け合いの中で変化する演技に対して寛容でいてくださるので、自由に作らせてもらっています。また藤田さんは空間を非常に意識される方で、「このくらいの距離に夢子がいて」というように、舞台のような指示をしてくれるんです。アニメーションは二次元で平面のものですが、立体的な世界を作っている気持ちが強いですね。
――アニメーションの絵作りの面では、どのようなイメージで臨まれましたか?
林
漫画原作のアニメを監督するのは今回が初めてでして、もとから絵があるものをどのようにアニメにしていこうかな、と考え始めました。この作品の特徴となるギャンブルのシーンは、密室で向かい合うようなシチュエーションが多いので、必然的に激しい動きがあまりありません。僕がこれまでアクションものの作品ばかりに携わってきたというのもあって、逆にこのような限定された空間の中で、どうすれば視聴者を飽きさせずに見せられるだろう? と考えて、視聴者の興味を引き続けられるようにというのを念頭に置きました。シーンのテンポ感や変化球的な絵を使って、とにかく視聴者の集中を途切れさせないように工夫をしています。
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――具体的にはどのような工夫があるのでしょうか?
林
テンポ感の部分で言うと、僕はシナリオを音楽のように捉えていました。ここまでがAメロ、ここからがサビという感じで、リズムの気持ち良さで1話を見切ってもらえるように意識して構成をしています。漫画の数話分がアニメでは1話にまとまっているのですが、各話の終わりとなる“引き”をアニメで全部使おうとすると盛り上がりが連続してしまい、アニメの1話として見るとリズムが悪くなってしまうんです。潔く“引き”の盛り上がりは削って、音楽で言うとサビにあたる、ここぞという山場を作れるようにかなり気をつけています。毎回、見た後にスッキリする感じが大事かなと思っていますね。
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早見
私たちがアニメを見る時は、監督がおっしゃるような集中力を途切れさせない工夫を意識することなく受け取りますから、私は第1話を見て自然にグイグイとアニメに引き込まれてすごく楽しかったです。ワクワクして続けて2回見ちゃいました(笑)。
――では最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
早見
いよいよ放送が始まります。第1話から相当の衝撃を受けていただける内容になっていると思います。原作を読まれている方はもちろんのこと、アニメで初めて『賭ケグルイ』を知る人にも自信を持ってお届けできる作品ですので、是非この世界を楽しんでください。
林
完成した第1話の映像を見て、当初イメージしていた視聴者を飽きさせないリズム感や映像作りは割と達成できたかなと思っています。しかし、第2話以降はさらに加速していきますよ。テンポ良く、内容も盛りだくさんになっていきますので、最後まで見続けてもらえると嬉しいです。
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