イタリア映画のアカデミー賞とも言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、最多16部門にノミネート、新人監督賞を始め最多7部門受賞した2016年の話題作が、2017年5月20日よりいよいよ日本で公開となる。1975年に日本でテレビ放送された永井豪原作アニメ『鋼鉄ジーグ』を冠したタイトルのインパクトにも勝るとも劣らない内容で、試写を見た日本の業界関係者からも高い評価が上がる本作。ヒーロー映画やノワールといった枠に留まらない重厚な娯楽作であり、鑑賞後の深い余韻は得がたいものになるだろう。アニメ!アニメ!では来日したガブリエーレ・マイネッティ監督にインタビューを敢行、見どころをうかがった。
[取材・構成:細川洋平]
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
2017年5月20日(土)全国ロードショー
http://www.zaziefilms.com/jeegmovie/
――本作はどういった着想で生まれたのでしょうか?
ガブリエーレ・マイネッティ(以下、マイネッティ)
イタリア国内では何年も前からアメリカ発のスーパーヒーロー映画がたくさんかかっています。その中で、イタリアのアイデンティティを持ったスーパーヒーローの物語が描けないかと思ったのがきっかけでした。
――映画のタイトルには、永井豪・原作のアニメ「鋼鉄ジーグ」という言葉がストレートに織り込まれています。なぜこのタイトルにしたのでしょうか。
マイネッティ
私は今40才なのですが、同世代のローマッ子は「ヒーロー気取り」といったニュアンスで冷やかしたりするときにスーパーマンやバットマンではなく「マジンガーのつもりか?」とか、「鋼鉄ジーグ気取りじゃないだろうな」といった表現をします。そのくらい永井豪作品は知られているし人気があるんです。というのも子どもの頃、チャンネルウーノというテレビ局では日本のアニメをいくつも放送していて放課後はみんなが毎日見ていました。日本のアニメはある世代のイタリア文化に深く根付いているんです。
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――イタリアの国産アニメーションの記憶はありますか?
マイネッティ
イタリア産のアニメーションはほとんどなくて、『原始家族フリントストーン』や『ルーニー・テューンズ』、それからディズニー映画などを見ていました。でもディズニーは映画館に行かないと見られないし、『ルーニー・テューンズ』も土曜日にしか放送されていなかったので、最も身近にあったのが日本のアニメでした。日本のアニメは登場人物に現実感があり、1話完結ではなく続きもので主人公たちが成長する。見ている我々も同じように成長していくという親近感がありました。日本アニメは人物表現が豊かというか3次元的だという印象でしたね。
――人物表現の豊かさというキーワードで言うならば、本作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』も非常に人間味に溢れた人物描写がなされていますね。本作はいわゆる大作ヒーロー映画とは大きく違うプロットですし、エンツォの力の使い方も実にハラハラさせられるものでした。
マイネッティ
イタリア人が超人的な力を得た時には、まず自分のために使おうと考えると思うんです(笑)。真っ先に「人類のため」や「平和のため」なんてまず考えない。そういう風に描いているところが「人間味」に繋がっているのかもしれません。
アメリカでこの映画をプレゼンしたときにアメリカのジャーナリストが手を上げてこう言ったんです。「この脚本はアメリカだったらきっと実現できなかったでしょうね。ヒーロー映画を作るに当たって守らなくてはいけないセオリーが全く守られていませんから。それはあえてやったんですか?」と。もちろん私は「はい」と答えました。
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――まさにセオリーが通じない作品でした。そういったメジャーに対するカウンター的な姿勢もこの作品に“鋭さ”を与えていると感じました。
マイネッティ
この作品はイタリアですごく評判がよかったのですが、何より幅広い年代の人たちに楽しんでもらえたということには驚きました。最近70才くらいの女性5人組に呼び止められて「あなた『ジーグ』の監督でしょ? スーパーヒーロー映画は孫が好きだから連れて行かされるんだけど全然好きじゃなかったの。だけど、あなたの映画はすごくおもしろかったわ」と言われました。小さい子どもからお年寄りまで好きになってくれた。これはどうしてだろうと自分なりに考えました。おそらく、軸となるストーリーが普遍的な成長物語であり愛の物語になっているからです。永井豪さんの原作に対するトリビュートやジャンル映画としてのアプローチをとってはいるけど、誰が見ても理解でき共感できるストーリーというのが多くの人の心に響いたんじゃないかと思います。
(次ページ:映画作りで苦労するのは、ストーリーに血肉を通わせるという点)