「マジカル・ガール」カルロス・ベルムト監督インタビュー “日本アニメの要素もたっぷり” | アニメ!アニメ!

「マジカル・ガール」カルロス・ベルムト監督インタビュー “日本アニメの要素もたっぷり”

3月12日公開の『マジカル・ガール』はサン・セバスティアン国際映画祭にてグランプリと監督賞をダブル受賞した話題作。日本のアニメも大好きというカルロス・べルム監督に話をうかがった。

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『マジカル・ガール』を手掛けた1980年生まれのカルロス・ベルムト監督は、日本のものや日本アニメに多く触れて育ってきたという。彼はイラストレーターからマンガ家、そして映像演出を経て映画監督になった。
自身初の劇場公開作品『マジカル・ガール』は2014年のサン・セバスティアン国際映画祭においてグランプリと監督賞をダブル受賞。多くの批評家を唸らせた。タイトル通り「魔法少女」が本作の重要なモチーフとして現れる。日本アニメに強い影響を受けた結果であることは本インタビューでもおわかりいただけると思う。
フィルムノワール、あるいはブラックユーモア。そう語られることもある『マジカル・ガール』は非常に歪なフィルムである。更に日本の観客にとっては日本的なモチーフが時おり覗くことで、不思議な感覚を覚えるのではないだろうか。
この度ベルムト監督にインタビューを行った。どんな魔法少女が出てくるのか、気になった方はぜひ映画館に足を運んで確かめていただきたい。
[取材・構成:細川洋平]

『マジカル・ガール』
2016年3月12日(土)公開
http://bitters.co.jp/magicalgirl/

abesanー物語のスケールはコンパクトで、とても静かに進行していきます。なのにとてもインパクトがある。本作はどこから着想されたのでしょうか。

カルロス・ベルムト監督(以下、ベルムト監督) 
初めは古典的なフィルムノワールを作ろうと思っていました。ノワールというとギャングや警官が出てくるステレオタイプなものが多いのですが、そうではなく、人がどのように接点を持ち、そして変わっていくのかを「脅迫の連鎖」の形で描こうと。

そのためにはきっかけになるものが必要だと考えた末にマジカル・ガール(魔法少女)のコスチュームに辿り着いたわけです。そのコスチュームが発端であり核になって物語が進んでいく、流れにしました。

ー「魔法少女ユキコ」に辿り着いた大きな理由はどこにあるのでしょうか。

ベルムト監督 
まず、実在するものとみんなに信じてもらわないといけません。さらに日本人からもウソだと見抜かれないように、映画のためだけの「魔法少女ユキコ」を作らなければいけない。「ユキコ」という名前にしたのは、当初のアイデアでは魔法少女は4人、春夏秋冬の四つの季節を司っていたんです。その最後が冬のキャラクターがユキコでした。衣装も白、魔法のステッキの先には雪の結晶が付いている。ただこれだと「魔法少女モノ」ジャンルのある日本では通用するけど、それ以外の国には通じません。誰が見ても「魔法少女だ」と思えるオーソドックスなものにしようと、ステッキの先をハートにして「ユキコ」を作りました。

ー本作ではフレーミングがとても特徴的でバストアップのショットを多用されています。それにより画面の緊張度が増しています。これは監督の特徴と捉えてもいいものでしょうか。

ベルムト監督 
私がこれまで撮ってきた作品はどれも「人物」を重視しています。もちろんプロットもドラマも大切だと考えた上で、やはり私は「人間」が1番大事だと思うんです。ヒキで撮ってしまうと役者はその空間を埋めるように動作を大きくしたり、わざとらしくなってしまう。だからできるだけカメラを人物に近づけて、ちょっとした表情、視線の変化で、自然に感情を表せるようにしたいと考えています。


ーそれは監督がイラストレーターからキャリアをスタートさせ、漫画家を経験されていることと繋がっているのでしょうか。

ベルムト監督 
それはあると思います。漫画を描いていた時も、「絵を描く」ことより「人物による物語を語る」ことを中心に置いていました。特に漫画はコマの中で全てを表現しないといけないので、おそらくその時に培われた美的センスが反映されています。マルチカメラでいろんなアングルの撮影をして、編集でまとめる作り方は自分には向いていないし、したくないんです。できるだけ一台のカメラでギリギリまで時間をかけて、ひとつひとつのシーンを撮っていきたいのです。そのフィルムを繋げれば一本の映画ができるようにしたいですね。

ーそれぞれのキャラクターがそれぞれの立場で変化(=変身)していく様は非常に刺激的でした。

ベルムト監督 
いろんな人たちが外からではなく内側から変化していきます。一番変わるのは白血病のアリシアを娘に持つルイスだと思います。彼が一番モラルのある人間で、娘の願いのために大事な本を売ろうとしつつ、売値が安くて売れなかったりする。その彼が…………と、登場人物の変化ーもしくは変化をしない姿に注目していただきたいです。

ー今回テーマ曲となった長山洋子さんのデビュー曲「春はSA・RA・SA・RA」とはどのように出合ったのでしょうか。

ベルムト監督 
まず「魔法少女ユキコ」のテーマ曲を探していました。スペイン人の作曲に日本人のボーカルというオリジナル曲も考えましたが、予算や、リアリティーのない曲になってしまう怖さもあって断念しました。その後、80~90年代の日本のアイドル曲をYouTubeで探して出合ったんです。一回聞いた後、今度は目を閉じて聞いてみました。するとユキコが魔法のステッキを持っているイメージが浮かんできました。「アニメシリーズのオープニング曲にふさわしい!」と選びました。


ー重要なモチーフに日本の「魔法少女」が入っているのは珍しいと思います。監督にとって日本は特別なものなのでしょうか。

ベルムト監督 
純粋に好きなんですよね。文学も文化も。それは自分のパーソナリティーなんです。日本のモノに囲まれていると居心地がいいし、日本のアニメはおもしろい。スペインのアニメとは比較にならないほど『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』『機動戦士ガンダム』が好きでした。バトルやアクションの作画には美的センスが溢れていますし、物語に謎を組み込む方法にも惹かれています。

ー『魔法少女まどか☆マギカ』もご覧になったとうかがいましたが、他に本作と繋がるようなアニメ作品を教えていただけますか?

ベルムト監督 
一番影響を受けたのは『新世紀エヴァンゲリオン』です。最終話まで見ても十分な説明はなく、TVシリーズを「これまでの出来事は何だったんだ?!」と批判する人はいましたけど、私はただ「すごい!」と思いました。ミステリーのままにしておく、ことの大事さは『エヴァンゲリオン』で学びました。

ー物語を受け手が膨らませることができる、ということでしょうか。

ベルムト監督 
『マジカル・ガール』に関して言えば、頭で考えるよりも、もっと感じてほしいと思っています。観客が、見た後に何を想像しようがそれは私には関係がありません(笑)。ただ、謎そのものをどう感じるか、そして世界はあまりにも広くて理解不能なものなのだと心で感じてもらえたらうれしいです。

ーありがとうございます。それでは最後にメッセージをお願いします。

ベルムト監督 
ぜひ『マジカル・ガール』を見に来てください。アニメの要素がたっぷり入っていますので、楽しんでいただけると思います!

《細川洋平》
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