――富野監督は、考えなしにルーチンで対応する姿勢に対して厳しいですからね。
吉田
怒りますね。ただ、考えているっていうことには寛大ですよね。ただ、考えすぎの時には、考えすぎって怒ります(笑)
脇
僕はそっちですね。「だからやっぱり、君は仕事が下手だよ、それでは」って言われました。ちょっとやり過ぎ、みたいな意味で「それだと身体が持たないよ」とか。
吉田
芝居って、綺麗に動いたら芝居がよくなってというわけじゃないんですよね。綺麗に動いたから情感が出るわけじゃない。例えば『伝説巨神イデオン』で、イデオンが敵のジグ・マックをガーンって蹴るカットがあるんですよ。あそこ、巧拙でいうなら決して上手いほうじゃないんですけど、でも、すごく巨大なメカがぶつかり合った「ガーン!」ていう感じが出てるんです。富野監督とも話をしたんですけれど、「吉田君、僕は本当にあんまり絵が巧くないと思うんだけど、でも僕好きなのよね」って言うんで、「僕も好きなんですよ」って話して。「今この原画が回ってきたらどうする?」って言われた時に、「通しちゃうかもしれません」ってやっぱ言ったんですよ(笑)。
当時もなにも凝ったことをやろうとしていたわけではなく、基本的に効率重視でやってたんですよ。ただ描くしか方法がなかったんで、そこに雰囲気が出てたんですよね。
脇
だから逆にいうと今は結構、意図してやらないとできないところありますよね。
吉田
そう。
脇
『G-レコ』の反省会の時に、富野さんは「今のアニメはみんなルーチンワークで作ってるものが多い」っていう話をされていて、基本的にみんな今までと同じやり方でやろうとしてるから、そういう風になるんだって話をしてましたね。反省会で出ていた話題で言うと、「原則拡大作画禁止」みたいな話があっても、それは「原則」なんで、やりたいことがあったら、それは吉田さんとかに聞きにいけばいいと思うんですよね。そういうことが減ってるのがよくないのかな、という気もしました。

■『G-レコ』でやったことの手応え
――脇さんは『G-レコ』で新しい撮影処理を試してみて、手応えを感じましたか?
脇
他の会社の人や、プロデューサーから「どうやってるんだ?」みたいな話はよく尋ねられたりしました。ただ、セル画っぽいっていうより、今の人から見て単純に新しいビジュアルに見えたからかな、という感覚もあります。『G-レコ』は、セルアニメの方向に寄せていくと、作品に暖かみが出てくるかなと思って、いっそフレアもなし、パラをかけるにしてもダンパラ(画面の一部に色つきの影を落とす手法。現在はパラをかけるというと、キャラクターの輪郭に合わせてグラデーションの影をつけることが多い)だけにしたらどうだろうって思ったりしていたんです。
ただ、なかなかそのあたりは理解してもらえず、最終的にはセルの質感に近づけることだけができたので、そこはちょっとこれからの課題かなって。……そうやって考えると、最近、うちの会社に入りたい新人さんを面接したりするんですけれど、単に作品が好きなだけじゃなくて、もうちょっと技術に興味をもってもらいたいなぁとは思ったりしますね。
吉田
脇君、撮影の中で勉強会を開いたらいいんじゃない?(笑)
脇
どういう勉強会ですか?
吉田
「俺の好きなアニメ」っていう勉強会を。そうやって、知ってもらうのもいろいろ大事だと思う。
脇
そうやって、昔のいろいろ試してた頃の、いろんな作品があるぞっていうのを見せるのはいいかもしれないですね。
――吉田さんは、脇さんの今回の処理についてどういう手応えを感じましたか?
吉田
この技術、ほかの会社に“輸出”してもいいんじゃないかっていう気はちょっとしてるんですよ。きっと僕以上に、いろいろ試したい人がいるかもしれないですよ。
脇
ああ、そういうこともありえますね。ぜんぜん、言ってもらえればって感じですね。
