■ 富野監督は面白がりたい人、予定調和だと駄目なんだと思います。
―先程、富野監督はあまりオーダーを出さないとお話ありましたが、『∀ガンダム』の時のキャラクターに関しても富野監督からもあんまりオーダーは出なかったんですか?
安田
オーダーが出る時は、僕が遅れている時ですね。作業が始まっている時にも出します。最初はヒントだけ言って、上がってきたものを背負投げする感じです(笑)。
―『∀ガンダム』の時の監督のヒントは何でしたか?
安田
『∀ガンダム』の時は、ヒントが全然分からず、完全に手探りでした。本当に分からなかった。主人公のロラン・セアックはどういう少年かというと「ホワイトドールという街にある巨大な像を掃除する男」と書いてある(笑)。
あ、思い出しました。ヒントはありました。初期の企画書に、これからの時代は『ゴレンジャー』でいえばグリーンみたいな人が主人公になるべきじゃないかと書いてありました。
―ピュアで少年っぽい感じですか?
安田
主人公は昔は熱血だったけど、これからはグリーンみたいな人が主人公じゃないかと。だから、どっちかというとキースのほうを主人公みたいな気持ちで描きました。

―ロランは本編で女装したりと中性的なイメージがあります。それも意識されましたか?
安田
それは「男と女、どっちでも見れるようなキャラクター」と言われたんです。ロランは苦労しました。
―これも印象的なのですが、ロランは褐色の肌で白い髪というのが非常に変わっています。もうひとり、グエンも褐色の肌で金髪、これも非常に変わったビジュアルです。そうした発想はどこから生まれたんですか?
安田
世界は一回は滅んでいるということですね。要はアメリカ大陸だけど、もともとブリテン島から着たアングロ・サクソンな人も金髪かもしれないけど、日差しが強いので何人かはメラニンが増えたんじゃないの? と思ってです。そうすれば、昔のガンダム世界とは違う人間たちが住んでいる感じが、出るかと思ったんです。
―キエルとディアナが、よく似た姿のキャラクターとして登場します。当初からキャラクターの入れ替わり、同じビジュアルだけど違う人という設定は決まっていましたか?
安田
最初はなかったんです。なぜかというと、キエルは「死ぬ」とありましたから。「キエル死ななくなったんですか?」「そうなんだよ」と言っていました。そのあとに、「とりかえばや(*)を考えた」という話になりました。
*平安時代後期の文学『とりかへばや物語』。よく似た姿の姉と弟が着物を替えて入れ替わるストーリー。
―入れ替わりは物語の主軸になっていますが、割と後から出てきたのですね。
安田
富野監督自身が作品を作る時に面白がりたい人だから、予定調和だと駄目なんだと思います。だから、例えば「予告に必ず風を入れる縛りにしたんだよ」と言っていましたからね。そういう楽しみがたぶん必要なんだと思います。
