「コンテンツ産業と地域活性 – デンマークのアニメ人材育成現場より」 by 伊藤裕美  | アニメ!アニメ!

「コンテンツ産業と地域活性 – デンマークのアニメ人材育成現場より」 by 伊藤裕美 

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KYOTO CMEX2012連携セミナー
「コンテンツ産業と地域活性 – デンマークのアニメ人材育成現場より」開催 その1

京都国際マンガミュージアムで、10月28日に「コンテンツ産業と地域活性 – デンマークのアニメ人材育成現場より」が開催された。デンマークは知られていないが、アニメーションやニューメディアの制作が成長著しい。EUの長編アニメーション映画で、フランス、ドイツ、スペインに続く第4位につき、2008年には17本を制作した。
毎年EU圏のアニメーション業界関係者が集まり、新プロジェクトの国際共同製作や配給のピッチをするCartoon Movieで、今年選択された55企画のうち9作にデンマークが企画段階から主導するか、共同製作スキームに加わる。
現在デンマークには、A.Film、Egmont、Lego、International Television Entertainment、10 Interactive、Copenhagen Bombayなど20ほどのアニメーションスタジオがあり、400名以上が携わる。デンマークの特徴は国際共同製作が多いことだ。相手国はドイツ、スカンジナビア諸国に加え、アイルランド、フランスに広がり、ヨーロッパのヒット作や話題作にも参加している。

今回のセミナーは、日本で始めてマンガ学部を創設した京都精華大学が運営する京都国際マンガミュージアムと、若手マンガ家を育てる「京都版トキワ荘」事業を今年度から始めるなど、コンテンツ産業の振興を図る京都市が主催した。デンマークのアニメーション産業界に優秀な人材を送り出す、アニメーション・ワークショップ(The Animation Workshop、http://www.animwork.dk、以下TAW)の代表モーテン・トーニング(Morten Thorning)氏を招いて行われた。
TAWは、国際映画祭で高く評価され、注目が集まる教育機関だ。しかし学校だけがTAWではない。プロのアニメーターの再教育、若手の起業支援、アニメーションを活用する新しいビジネスのハブ機能、そしてコミュニケーションや教育用のツールとしてのアニメーションの可能性を広げるなど、アニメーションに関するセンターとしてデンマーク内で先導的役割を担っている。


■クリエイティビティは、最重要な資源の一つになる

TAWを創立から率いるトーニング氏は講演と、アニメーション監督で京都精華大学マンガ学部教授の前田庸生氏とおこなったパネルディスカッションで、「クリエイティビティは、最重要な資源の一つ」と強調した。デンマークも日本同様、天然資源は豊かでない。しかも、人口、国土面積は日本よりはるかに小さい。
しかしIT、生命科学、環境科学といった知識集約型産業の世界的な企業が「人材と技術の宝庫」と評価し、研究開発機関を置く(クーリエ・ジャポン、12年7月号)。デンマークは、“人材”という資源を伸ばす産業を促進し、教育を徹底するという選択をしたのだ。
トーニング氏は、クリエイティビティを担う人、つまりアニメーターに必要な10の素質を挙げ、TAWの教育方針を紹介した:

クリエイティブな性格
仕事熱心
自主性のある性格
芸術家としての優れた技量
あくせくしない社会や物理的環境を好むこと
多彩な才能(アニメーションはさまざまな分野と関わりがあるため)
ドリーイングが基本的な言語であること
チームワーカー(制作現場のチームワークを乱さないこと)
学ぶことに興味を持ち、情熱を持てること(アニメーションは常に変化し、勉強は生涯続くため)
常に世界を観察していること
そして、もう一つ大事なのは「金を一番重要と考えないこと」と付け加えた。


■業界就職率80%、アートとビジネスの両面の成長を促すアニメーター育成

TAWは1988年に、若年失業対策としてデンマーク政府の支援を受けて設立された。トーニング氏らの草根の発案に公的予算がつくというボトムアップはデンマークでも珍しいというが、TAWは90年代にデンマークのアニメーション界に貢献する教育を大きく発展させた。
デンマークには1946年にアラン・ヨンセンが長編アニメーション「The Magic Tinderbox」を監督するなど、制作の土壌がまるでなかったわけではないが、永らく産業として発展しなかった。人口550万人の国内市場は狭いものの、90年代にとドイツやノルディック諸国との国際共同製作が牽引し、長編アニメーションが復活した。

TAWは1993年に、ヨーロッパに新たな制作拠点を置いたウォルト・ディズニー、ワーナー・ブラザーズ、そしてドリームワークスの前身となったAmblimationの3社と提携し、第一線のアニメーターを講師に招き、商業アニメーション技術の指導を始めた。
さらに、「ロジャー・ラビット」のアニメーション監督、リチャード・ウィリアム氏を講師に4回のマスタークラスを実施し、聴講生として世界中から400名を超すアニメーターや専門家を集めた。このマスタークラスの成果を、ウィリアム氏は2002年に「The Animator’s Survival Kit(アニメーターズ・サバイバルキット)」として発刊した。この経験は、TAWにアートとビジネスのバランス良い資質を持つクリエイターの育成という方向を定めさせた。

TAWは2007年に、デンマーク8都市にキャンパスを持つ、最大規模の総合大学VIA Univerversity Collegeの傘下に入った。現在一学年50名、延べ200名がバチェラーコース(学部レベル)で学ぶ。
コペンハーゲンには作家・監督養成をおこなうデンマーク国立映画学校(Den Danske Filmskole)があるが、TAWは「CGアーティスト」と「キャラクターアニメーション」の2学科で実務教育を重視する。来年9月には「グラフィックス・ストーリーテリング」学科を新設する。
TAWには常勤教授はおらず、第一線で活躍するプロを世界中から講師として招く。それぞれの講師は、数週間の講義を受け持つ。カリキュラムと講師は毎年見直される。在学中、学生は複数の習作実習と卒業制作、そして3ヶ月のインターンを行う。インターンは国内に限らず、6割は国外へ出る。
第一線で活躍する講師が実践的な指導をし、実際のスタジオ制作に近い環境でトライアンドエラーを行う学生は、チームワークで技量を高め、人格的にも成長する。

バチェラーコース学生の平均年齢は約22歳。高校卒業後直ぐに入学する者もいれば、就業や別の勉強をしたり、旅行で見聞を広げてから受験する者もいる。入学倍率は約6倍。基本的な描画力と、アニメーションを職業とすることに対する情熱を持つ者をポートフォリオと面接で選別する。
卒業生の8割はコンテンツ業界で職を見つけ、そのうち95%はインターンのスタジオに採用される。インターンが学生と業界とを結びつけ、欧米の制作拠点に卒業生が広がる。インターン先の企業から講師を招き、制作現場のニーズに適う人材育成が機能する。就職しない2割も制作プロジェクトに携わり、業界での成功を目指す。
[オフィスH 伊藤裕美]
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