南東フランスのコンテンツ産業クラスター「イマジノーヴ」 ヨーロッパのアニメーション動向 by 伊藤裕美 | アニメ!アニメ!

南東フランスのコンテンツ産業クラスター「イマジノーヴ」 ヨーロッパのアニメーション動向 by 伊藤裕美

フランスの南東部に位置するリヨンはフランス第2の都市で、フランスの金融センターの一つ。イマジノーヴは、クリエイティブ産業(ゲーム、アニメ、映画、マルチメディア等)を振興し、地元に企業を増やし、雇用を創出するための公的なビジネス支援だ。

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国際アニメーション・フェスティバル「アヌシー2012」で見た ヨーロッパのアニメーション動向 第3部 南東フランスのコンテンツ産業クラスター「イマジノーヴ」

取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)

■ 南東フランスのコンテンツ産業クラスター「イマジノーヴ」

フランスの南東部に位置するリヨンはフランス第2の都市で、フランスの金融センターの一つであり、伝統的に絹織物・繊維工業、そしてさまざまな化学産業(医薬品・バイオテクノロジー、クリーンテクノロジー等)で知られる。フランス政府が05年~07年に導入した「競争力の集積地」として全国に71認定した産業クラスターの一つだ。
フランス政府はコンテンツの産業クラスターとして、パリ都市圏の「Cap Digital(キャップディジタル)」と、リヨン、ヴァランス、アヌシーなどローヌ・アルプ地域圏の主要都市に組織された「Imaginove(イマジノーヴ)」(http://www.imaginove.eu/front/index.php)を認定した。

イマジノーヴは、クリエイティブ産業(ゲーム、アニメ、映画、マルチメディア等)を振興し、地元に企業を増やし、雇用を創出するための公的なビジネス支援組織として3つのミッションを持つ。

1) 企業支援
  a) ファイナンスパートナーとつなぐ
  b) 企業と研究機関等とのパートナーシップの支援
  c) 外展示会や海外渡航の資金支援、など
2) 研究開発支援(企業が開発した新しいソフトウェアの調査や紹介、販売支援)
3) 人材育成
  a) トレーニング
  b) 地域の企業と教育機関との関係構築(課題の話し合いなど)
  c) 人材情報Webサイト「ganuta (www.ganuta.com)」の運営

7人の専任スタッフが働くイマジノーヴの本部は、リヨンのVilleurbanne(ヴィユーバンヌ)の産業地区にあり、小麦粉の製粉工場をリノベーションした「Pôle Pixel(ポール・ピクセル)」には、実写映画の撮影スタジオ、インキュベーションオフィスなどが集まる。メンバー企業は150社ほど。リヨンはゲームの大手デベロッパーUbiSoftがあるためゲームが活況だが、モバイル分野が成長し、昨年は30社が起業した。
また、マーケティングやエージェントも集まっている。リヨンにはフランスの中堅配給会社GEBEKA Films(http://www.gebekafilms.com/gebeka.php)がある。同社は、大ヒットシリーズ「キリク」といったフランス作品だけなく、ファミリー層向けのアジアのアニメーション映画も配給する。

イマジノーヴは、アニメーションの国際映画祭とMIFA(国際アニメーション映画見本市)で世界的知名度を誇るアヌシーのCITIA、実績と実力あるスタジオ(Folimage、TeamTO)を中心にアニメーション/ハイブリットコンテンツの制作センターである、ヴァランスのLa Cartoucherie(ラ・カールトゥシュリ)と連携する。
運営予算は150万~200万ユーロで、助成配分はビジネス開発支援に35%、研究開発支援に35%、人材育成のトレーニングに30%。制作費の助成は行わない。運営資金はフランス政府から20%、地域圏60%、リヨン市15%、そして会員企業から5%で、9割以上が公的資金だ。

会員企業の外国へのビジネス進出・展開の支援も行う。ビジネス開発・国際関係担当のマリ・スフロ氏によると、会員企業の関心はカナダ、そして英国、ドイツ、イタリア、デンマークなどのヨーロッパに向かう。
アジアへの進出を期待する企業もあるが、韓国や台湾などに限られる。中国本土へは上海の展示会にミッションを送ったこともあるが、実際のビジネスとなると慣習や考え方に相違点が多く、目立った進展はないという。

日本に対しては、「日本側に国際共同制作の意志を持つプロデューサーがいて、国際市場で展開できるコンテンツ企画と資金力があるなら、一緒にやりたい」という意向はある。しかし、アヌシー市とパートナーシップを結んだ練馬区とは、MIPCOMやMIFAなどのマーケットで会う程度で、今のところ進展はない。
日本に対して積極的になれない理由の一つに、日本の状況が知られていないことがある。アニメーションの“日本ブランド”はフランスでも、まだ効力はある。しかし、これまで紹介したようなヨーロッパの制作状況と一線を画し、その潮流に乗ろうとしない日本に対し、ヨーロッパのプロデューサーや支援組織は距離を置きつつある。

[伊藤裕美]
オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
/http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
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