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フランス・アニメーションレポートby 伊藤裕美 第4回 新アートディレクター決定、新しいアヌシーへ

今年のアヌシーでも注視すべきは、アニメーション作家らの新しいオリジナリティを求める姿勢と、新しい芽から大輪の花を咲かそうと努めるプロデューサーや制作パートナーたちの眼力だ。それが、長編アニメーションの市場を広げる。

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フランス・アニメーションレポート:
アヌシー2012からby伊藤裕美 第4回

新アートディレクター決定、新しいアヌシーへ

取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)


■アヌシーの新アートディレクター決定、新しいアヌシーへ

若手が自主企画を提案する、MIFAの「Call for Projects」には273の新プロジェクトがエントリーした(短編97、長編61、TVシリーズ・特番82、クロスメディア33)。これまでにMIFAでチャンスをつかんだ若手が活躍を始めている。

MIFAに世界各国から参加するプロたちは、映画祭のコンペティションにも注目する。『Ernest et Célestine(原題 アーネストとセレスティーヌ)』は、今年公開の長編アニメーションの注目作だ。
「アンジュール―ある犬の物語」が日本でも知られる、ベルギーの絵本作家ガブリエル・ヴァンサンの「セレスティーン」「くまのアーネストおじさん」シリーズをアニメーション化した。風景やキャラクターの水彩画タッチを上手くアニメーションに移し、ヒットを予感させる。

予算10億円超の長編の監督に大抜擢されたのは、フランスのアニメーション校La Poudrière(ラ・プードリエール)での卒業制作『A Mouse’s Tale(原題 ねずみ物語)』(2007年)がヨーロッパのプロが選ぶCartoon d’Orを受賞した、Benjamin Renner(ベンジャミン・ルナー)だ。
日本でもヒットしたミッシェル・オスロ監督の『キリクと魔女』、シルヴァン・ショメ監督の『ベルヴィル・ランデブー』などを手掛けたフランスのアニメーションスタジオLes Armateurs(レ・ザルマテュール)の名プロデューサー、Didier Brunner(ディディエ・ブリュネール)の目に留まり、ヒットシリーズ「Panique au village」のStéphane Aubier(ステファン・オビエール)とVincent Patar(ヴァンサン・パタール)と共に、2008年から本作の監督を担ってきた。

今年のアヌシーでも注視すべきは、アニメーション作家らの新しいオリジナリティを求める姿勢と、新しい芽から大輪の花を咲かそうと努めるプロデューサーや制作パートナーたちの眼力だ。それが、長編アニメーションの市場を広げ、その活力が制作者、アニメーション作家に還元するように見える。

アヌシーの映画祭運営は、1998年に亡くなった前ディレクターのJean-Luc Xiberras(ジャンリュック・ジベラス)の後は、運営事務局長をTiziana Loschi (ティジアナ・ロッシ)が、アートディレクターをSerge Bromberg(セルジュ・ブロンベール)が分担してきたが、ブロンベールは今回を最後に退任する。
新アートディレクターには、カナダ国立映画制作庁のプロデューサーで、アニメーションスタジオとユーススタジオの責任者を務める、カナダ人のMarcel Jean(マルセル・ジャン)が任命された。ジャンは、30本を超す短編アニメーションをプロデュースした実績があり、とりわけ若手作家の制作支援に尽力し、フランスのアニメーションスタジオFolimage(フォリマージュ)のアーティストインレジデンスには共同制作プロデューサーとして参加しており、ポルトガルのレジーナ・ペソア監督の『Histoire tragique avec fin heureuse(ハッピーエンドの不幸なお話)』は2006年のアヌシー・グランプリを受賞した。

映画祭のメイン会場となるボンリュー劇場が入る文化センターが改修されることになり、新アートディレクターを迎える来年は臨時会場となる。さらに、MIFA会場のアンペリアル・パラスの隣接地にコンベンションセンターの計画が持ち上がっている。
アヌシーの映画祭とMIFAを運営する、アヌシー地盤のCITIA(シティア、国際アニメーション映画センター)は、アニメーション産業界のリーダーを集めるサミット「Forum Blac(フォーラムブラン)」を毎年1月に開催し、世界のアニメーション・センターとしてのアヌシーの地歩固めをする。ユーロ経済危機が危ぶまれるヨーロッパだが、アニメーション界の活況はまだ続きそうだ。


アヌシー国際アニメーションフェスティバル
/http://www.annecy.org/


[伊藤裕美]
オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
/http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
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